第7話 真夜中の日課

母さんが部屋に戻ると俺は今日も魔力の訓練を始める。

あの悪魔のような魔道具のお陰で賢者が残した魔術の知識は完璧に覚えている。

頭の中に別館の図書館が作られ、いつでも検索できる感じだ。

魔道具から解放された日、俺は自分の魔力を確かめた。

米粒のような魔力を動かすと、すぐに魔力が枯渇して意識を失った。


魔力は幼い頃に使えば使うほど増える。

そして、14、15歳の成人になる頃に成長が止まる。

魔力の訓練は早いほどよい。

幸いと言うべきか。

俺は魔道具の為に赤子として成長していなかったので、立つこともできず、自由にしゃべる事もできない。

時間が無限にあるように感じた。

意識を取り戻すと、再びチャレンジを繰り返した。

米粒ほどの魔力がドッチボールになった。

意識的に体中に魔力を回すと肉体強化になる。

これが最初の基本だ。


魔力を筋肉に流せば、力が増し、外皮に固めれば、石のように固くできる。

魔力は魂から溢れてくるが、精霊の多い場所では大気に漂ってもいる。

緑や水の多い所に濃い魔力があるそうだ。

また、瘴気にも魔力が含まれており、取り込み過ぎると体内に魔石が発生して魔人化する。

感情のコントロールが難しくなり、暴れ出すので討伐対象になったそうだ。


賢者の世界では、長い祝詞を読んで発動する魔法と魔方陣を書いて魔力を流す魔法が存在していた。

俺は光の球を作る祝詞を唱えた。

ふんわりと手の平が光った。

次に火だ。

両手の間にマッチより小さな火が一瞬だけ付いた。

よし、よし、よ~し。

次は水だ・・・・・・・・・・・・と祝詞を唱え、大きな水球を作っている途中で意識が途切れた。

ぽちゃんと水球が落ちたような気がする。


意識が浮上すると、オムツを替える母さんがいた。

おねしょ・・・・をしたように思われたらしい。

俺は必死に言い訳をするが、舌足らずの上にこちらの言葉が判らないので日本語を使った。

母さんは笑うだけで通じなかった。


考えてみれば、この体は俺の意思で動かない。

おしっこも排便も垂れ流しだ。

気持ち悪さに声を上げると母さんがオムツを替えてくれる。

きゃあ、恥ずかしい。


「മനോഹരമായ」(綺麗、綺麗にしましょうね)


オムツを剥ぎ取ると、その布でお尻を拭いてゆく。

最後に少し濡らした布でもう一度拭いた。

記憶を掘り起こす魔道具を付けていた時はぐったりして意識もなかったが、余裕ができるとこれほど恥ずかしい行為はない。


『赤ちゃん羞恥プレイだ』


意識は43歳を生きた感覚が残り、幼さが残る美少女にお尻を拭かせる。

ヤメテ~~~、自尊心が崩壊する。

なんて思った時期もありました。


手足をバタバタさせても逃げる事もできず、されるが儘だった。

2、3日もすると慣れてきた。

俺は赤ん坊だと割り切った。

失敗したのは、恥ずかしさのあまりにお乳を嫌ったので離乳食に代わった事だ。

理想的な美乳にしゃぶりつく権利を放棄してしまった。

発想がオヤジだな~と思ってしまった。


そんな平和な日々もすぐに終わりを告げる。

いつも横で目をキラキラさせていた姉が参戦を決意したのだ。


「ചെയ്യു」(わたし、やりたい)

「ア~ネ、കുറിപ്പ്」(気をつけてね)


最初は抱っこだ。

2歳にしては力持ちであり、俺を持った儘で走り回った。

ぐげぇ、オチを付けて派手に転けてくれた。

姉に押しつぶされるかと思った。


また、オムツを替える時に母さんの代わりにお尻を拭こうとする。

布ではなく、葉っぱだ。


『痛い、痛い、痛い』


容赦なく、葉っぱでゴシゴシとお尻を磨いてくれた。

後で知る事になるが、トイレは紙ではなく葉っぱが置かれている。

葉っぱでお尻を拭くのは当然なのだ。

だが、母さんが布でお尻を拭いているのを理解して欲しい。

赤ちゃんの柔肌にはキツかった。


「あ~ん」


赤ちゃん、最高。

一人で食べられないので離乳食をスプーンで掬って運んでくれる。

可愛い笑顔で『あ~ん』と言いながら進めてくる。

俺は言われる儘に口を開けた。

幼児最高!

母さん、愛している。


赤子の体が感性まで幼児化させているのだろうか?

赤ちゃんプレイを楽しんでいる俺を斜めから観察する俺がいる。

こんなのは俺ではないと思いつつも『あ~ん』と喜んで口を開けている。

刷り込みが進んだような気がする。

だがしかし、そんな平和な日々もすぐに終わった。


「ചെയ്യൂ」(あたちも)


姉の参戦だ。

奪ったスプーンで頬に強引に押し付けてくる。

それだけならよかった。

抵抗すると首を捻るわ、口を強引に開けようとするわ。

生命の危機を感じて肉体強化で腕を強引に動かして、スプーンを握ると自力で食事を取るようにした。

母さんの『あ~ん』は捨てがたかったが、姉の『スプーン突き』を避けるには仕方なかった。

チマチマと食べていると、横から離乳食を兄に強奪されるのが日常だ。


最近、姉がやたらと俺と遊ぼうとする。

一瞬でも気を許せば、殺される。

肉体強化と繊細な魔力コントロールが必須になって来た。

大きな魔法で一発魔力枯渇なんて悠長な事はできない。

一秒でも長く魔力を使って、1日でも早く魔力量を増やさねばならないのだ。

日々、姉の行動が大胆になってゆく。

自衛だ。

絶対防衛戦だ。

小さな光の粒を生み出して、妖精が飛ぶように動かしてゆく。

誘導魔力弾の応用だ。

もっと力を、もっと魔力を!


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