第19話
長い時間が経った。
右耳にたまる汗が、時間を物語る。
僕たちは、話したいことを思うがままに話したし、聞きたいことを遠慮せずにどんどん聞いた。
京香には2つ下の弟がいて、どうやらヤンチャで長身で結構モテる奴らしい。
先を越されている気持ちになって、たまに劣等感を感じることもあるみたいだけど、そんな弟が好きなようだった。
僕とは真逆の人種で、兄弟とはいえそんな姿が京香に認められている彼を少しうらめしく思った。
さらに、僕よりもずっと長い時間を京香と過ごしてきていることがうらやましくて仕方なかった。
そして何より。
そんな意地汚い自分が大嫌いだった。
無関係の他人を攻撃するような、そんな人間にはなりたくないんだけど。
小さい頃からずっと、僕は追いかける方だった。
友達と喧嘩をした時も、たぶん先に謝られたことはなかったし、
誰かが離れていった時も、きっと何か理由があるはずだ、と事情を探した。
嫌われても、裏切られても、僕はその人を追いかけた。
そのたびに、辛い気持ちになった。
もっと切り捨てられる人間だったなら。
もっとあっさりした人間だったなら。
僕はこんな思いをしなくても済むんだろう、って。
そんな僕が、利も害も何もない見知らぬ年下の子に対して、こんな気持ちになるなんて。
ひょっとすると、無意識のきれいごとだったのかもしれない。
僕が追いかけていたのは。
袂を分かった相手ではなく、感傷的な自分こそだったのかもしれない。
だけど。
あろうことか、弟にまで嫉妬してしまうほど。
僕の気持ちは高まっていたし、
そんな感情が芽生えるほど、僕たちの気持ちが近づいてきている何よりの証拠であって、
僕は、じとっとした感情の中の深いところで鈍く光る、ほんの少しの手応えを感じ始めていた。
出された夕飯を丸呑みし、コクーンへ戻る。
「話せて良かったよ。なんか色々思った通りで安心した(笑)」
「僕も、思った通りの京香で良かったよ。楽しかった!ありがとう」
「思った通りってどんなイメージだったのさ!(笑)」
「んー、なんだろ。優しい感じ?」
「いきなりツンツンしてたらやばいしょ(笑)」
「そうだね笑 なんか話し方とかがおっとり?してたのがすごく可愛いなと思いました」
「どんくさいからね(笑)よく鈍いって言われるよ。話すのも遅いしさ」
「確かに、うちのばあちゃんの方が早口かも笑」
「そうやってまたばかにするしょ!」
「多分それはお互い様です笑」
「素朴なじいさんと鈍いばあさんだね」
「そんな日が来ればいいなと思うよ」
「そうだね。ゆっくり縁側でお茶飲んだり。ね(笑)」
「ちょっと、今思ってること。話してもいい?」
「なに?」
「勝手に思ってるだけだからね。軽い気持ちで聞いてください」
「なにさ(笑)気になるじゃん、早く言ってよ」
この選択が、僕の人生を。
つらく、悲しいものにする。
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