第82話 独立宣言

 どういう風に貴族達の前に登場するのか? と考えた時に、えらそうに『俺が王様だ』みたいな登場の仕方は嫌だな、と思った。

 王様としてではなく、良き友人として貴族達を迎えたかった。


 玄関の前で俺は貴族を待っていた。

 そして貴族がやって来ると彼等の名前を呼んだ。

「よく来てくれました〇〇さん」


 この日のために俺は今日ココに来る全ての貴族の名前と家族構成を覚えていた。

 彼等のことを笑顔で迎え入れて握手を交わす。

 大変な時期にわざわざココに来てくれた事を心から感謝して日々の街の運営を労った。

 

 2人の妻はココにはいない。他種族に対して差別意識を持っている貴族も多いので後ほど披露目することにした。

 結婚式をしたのでアニーが俺の妻であることを知っている人は多いけど、まだナナナは貴族の前でお披露目していない。


 俺の家はザ・貴族の館である。

 映画で使われるような広々とした空間と階段が存在する。

 そこが今日の会場になっている。

 会場にはいくつものテーブルが置かれていて仲の良い貴族達を同じテーブル席にしていた。


 ただの独立宣言ではない。

 俺は自分の国に彼等を所属させたいのだ。

 だから独立パーティーと名の下に、最高の接待をするつもりだった。


 接待じゃ。接待じゃ。美味しいお酒と美味しい物を食べた後に、それじゃあウチの商品を使ってくれますかねゲヘヘヘみたいなノリである。


 臨時で雇ったホールスタッフさん達がウェルカムドリンクを貴族達に運んだ。ウェムカムドリンクはおもてなしとして振る舞う飲み物である。来てくれてありがとう、という感謝の意味が込められている。

 このお酒も貴族それぞれの好みを把握して、出していた。←こういう好みを把握する時にチェルシーが役に立つのだ。

 ちなみに今はチェルシーとバランは警備に当たっている。

 お偉いさん達が集まっている今ここを攻撃されたら、俺の国の未来が無くなってしまう。


 ホールスタッフさん達には短期アルバイトとしては多額のお給金を出していた。3ヶ月分の労働者のお給金に相当する金額である。

 だから募集が殺到した。

 その中からホールスタッフ経験者を選び、さらにその中から見た目がいい人を選んで面接を行った。

 選んだスタッフは今日のために何日も訓練を行った。そのおかげでホールは順調である。


「皆様方、今夜は私の出身である異世界の日本料理に舌鼓したつづみしてください」

 と俺は言った。


 みんな独立宣言を聞いて勧誘されるだけだろう、と思っていたから拍子抜けをしている様子だった。


 食事を楽しんでリラックスしてほしい。

 お料理のコース内容は全10品である。酒菜から始まり、お造り、蒸し魚、洋皿、揚げ物、ご飯類、デザートで終わる。

 今日来てくれた貴族達に舌の冒険をしてもらうのだ。

 

 シェフと試行錯誤しながら日本で出していたレストランと同じぐらいの料理を作ったつもりである。


 貴族達が料理を楽しんでいる時も俺は貴族のテーブルを回った。

 基本的には雑談である。でもコチラにはチェルシーがいる。彼等がどんなことに不安や問題を抱えているのかは知っていた。

 だから俺が解決できる問題なら事前に彼等の街に行って解決していた。

 これから問題を抱えた時、国として全力で向き合うことを彼等に伝えた。


 食事の邪魔にならない程度に1テーブルごとに時間は決めていた。なかには家族が病気で悩んでいる者もいた。そういった人達には特製のポーションや再生の泉を渡して治してあげていた。

 俺のことを神様みたいに扱う貴族もいた。

 


 食事が終わり、デザートも食べ終えた。

 接待にはデザートは必要である。

 これは持論だけど口の中が甘いと判断が甘くなる傾向になる。

 女の子を落とす時や、接待する時は必ず相手に甘い物を食べさせた方が成功率が高いような気がする。

 気がするだけで科学的な証拠があるかどうかは知らない。感覚として甘い物を食べさせた方が成功率がアップするような気がした。

 そして、みんながリラックスした時に俺は彼等の前に立った。



「お食事を楽しんでいただけたでしょうか? ここで私の2人の妻を紹介させていただきます」


 階段の上からアニーとナナナが降りて来た。拍手が起こった。

 2人はキラキラと輝いていた。

 息ができないぐらいに美しい。


 実は2人の妻には獣人達に祈りを捧げてもらっていた。

 彼女達の魅了のステータスが異常なまでに向上している。


 会場にいた貴族達が息をするのも忘れて、2人の妻を見つめていた。


「残念ながら、もう1人の妻は、ある事情により出席できません」

 と俺は言った。


 ある事情により出席できない妻というのはミナミのことである。いつかは蘇り、彼等の前に立つことがあるかもしれない。だから今はある事情で出席できないだけにしておきたかった。


 エルフと獣人の王妃。

 それがどんな意味があるのか? 彼等は考えているようだった。


「私の街は国として独立することを宣言します」

 と俺は言った。


「街から国になる。皆様もご存知の通り、私は特別公爵であります。特別というのは、私の世代だけで公爵の称号が終わり、という事なのです。元勇者だから取り敢えず反乱を起こさないようにと地位と名誉を与えられました。だけど私は街を発展させました。法人税を下げ、色んな商会を誘致して、投資信託というモノを作り、お金を流動させて街を発展させて来たのです」

 実績を俺は語った。


「街を発展させて国になります。だけど小さい国です」

 と俺は言う。


 小さい国。

 これは貴族達が引っかかるマイナス面である。

 できれば大きい国に所属したい。なぜなら、その方が安全だと思っているから。なぜなら、その方が経済が発展すると思っているから。


「だけど私には戦略がある」と俺は言った。「お金を流動させて私は街を発展させて来ました。同じようにお金を流動させて国を発展させます」


 マジックのようにアイテムボックスから金貨を取り出した。


「これはお金を流動させるための金貨です。消えるお金です」


 俺は消えるお金を貴族達に見せた。


「1年間、使わなければ消えてしまう金貨です。頭のいい皆様なら、この金貨の意味がわかると思います」

 と俺は言った。

 頭のいい皆様なら、と言うことで質問させることをやめさせた。

 お金が消える、ということに拒絶反応を示させない。


「お金は人を動かすエネルギーです。今ある経済的な不安はエネルギー不足による物です。なぜエネルギー不足が起きるのか? それは貯蓄してエネルギーを貯めてしまうからです」

 と俺は言った。


「でも」と不安そうな貴族が呟いた。質問ではなくて独り言だった。

 その言葉を俺は聞き逃さない。

「バビリニア金貨の方が価値がある」

 それが貴族の声である。


「その通りです。バビリニア金貨の方が価値がある」と俺は言った。

「だけどバビリニア金貨を使えば使うほどバビリニアに利息を払い続けています。その利息は誰が払うのか? 国民達が払うのです。その分だけ国民は貧困になっていきます。その分だけバビリニアは豊かになっていきます。私達が頑張って来たことがバビリニアに搾取され続けているのです。貴方達の中に搾取され続けてもいい人はいますか? 私達は自分の手で未来を変えられる。今だからこそ変えられる。このお金を使えば、もうバビリニアに搾取されることはありません。しかもお金は流動し続けて街は発展する。街が発展すれば収益も上がる。収益が上がれば我々は繁栄する」

 と俺は言う。


 すごい勢いで街を発展させたという実績が俺にはあった。それが信憑性になっている。


「繁栄すれば人が集まり、強い軍を作ることができる。強い軍を作ることができれば、今みたいに隣国の戦争に怯えることはない」

 と俺は言った。


「この中でソビラトやエジーの植民地になりたい方はいますか? ソビラトは街を勧誘していたと伺います。エジーも同じように街を勧誘していたと伺います。だけど今は2つの国が我々の街を奪い合っています。2つの国に所属した街はどうなりましたか? 南西のあの街はどうなりましか?」


 ソビラトとエジーに所属してしまった街。いつ戦争になるかわからない状態である。だから食料を溜め込み、お金の流動性が無くなり、経済が一気に停滞してしまっていた。

 戦争が終われば、もしかしたら平和な暮らしに戻るかもしれない。だけど、いつ平和な暮らしに戻るのかはわからない。


「私には信念がある」

 と俺は言った。

「私は守る王様になりたい」


 ここにいる貴族を見渡す。


「貴方達のこと、貴方達の大切な家族、貴方達の大切な領民、全ての人を命がけで守りたい。どうか私に貴方達を守らせてほしい」


 俺は息を吸う。

 そして吐く。


「私には理念がある」


 俺はアニーとナナナを見た。


「私の妻はエルフです。私の妻は獣人です。私は色んな種族が笑い合える国にしたい。私は国民全ての人がご飯を食べて寝る場所の心配がなくて、差別がない国にしたい」

 と俺は言った。


「私の街は国として独立します。アクセプトという国の名前です。受け入れる、という意味があります」

 と俺は言った。

 全ての種族を受け入れたい。多様性のある国にしたい。いつかイライアの過去で見た国のように。


「私の国を手伝ってほしい。私の国を助けてほしい。一緒に国を作りましょう。これから良き友人になりましょう。私の国に所属してください」

 と俺は頭を下げた。


 俺の隣にいた2人の王妃も同じように、深々と頭を下げていた。


 武力で街を奪うのではなく、言葉で伝えて俺の国に所属してもらいたかった。


「王様」と貴族の誰かが言った。

「頭を上げてください」


 王様、と声がする。

 私は貴方の国に入れさせてください。


 1人が頭を下げて俺の国に入ることを表明すると、他の人達も頭を下げて俺の国に入ることを表明した。

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