第66話 幼女姿の魔王を購入する

 3カ国の謁見も終わり、家に辿り着いた頃にイライアからの念話があった。彼女は念話のスキル持ちで、イライアから念話をかけることができた。


「奴隷商に捕まっとる。誰かに買われる前に早く迎えに来るのじゃ」


 それだけ彼女が言って念話が切れた。最後の力を振り絞って念話をかけて来たんだろう。

 念話をかけてくれたおかげで彼女の微かに残った魔力を探し出すことができた。本当に微かな魔力である。きっと魔王を召喚した俺にしかわからないだろう。

 彼女は遠い国にいた。


 顔と体を変える。

 そういう魔法を習得している。女好きそうなポッチャリ系ジィジィに変身。アニーを買った時も、このジィジィのスタイルだった。服装はピノキオに出てくる相棒の虫みたいな服装である。

 カバンには大量の金貨を詰め込んでいた。


 魔王の種族はダークエルフである。現在では希少種だった。数百年前には王国を支配していたらしい。色んな種族が存在するけどダークエルフは圧倒的な魔力量を誇る。だからこそ畏怖いふされ、恐怖の対象になることがあった。



「ドコで○ドア」と言いながらイライアの近くにワープホールを作った時に、自分のテンションが上がっていることに気づく。

 こんなテンションで彼女に会ったらドン引きされそう。ちょっとテンションを落としていこう。

 会えて嬉しい、ということがバレてしまったらイライアはどんなリアクションを取るんだろうか? 絶対に嫌われる。平常心、平常心。

 

 俺はイライアが売られている店の中に入った。

 いくつもの牢屋が設置されて、刑務所みたいになっている。

 売られている奴隷は、全て女性だった。性奴隷を専門に扱う店である。

 俺は通路を歩いてイライアを探した。


「どういった性奴隷をお探しでしょうか?」

 と奴隷商が喋りかけて来た。

 太った男である。

 

 ちょうどイライアを見つけたところだった。

 彼女は5歳児ぐらいの幼女の姿になっていた。

 魔力が切れて省エネモードに切り替えているのだろう。

 夏休みを遊んで過ごしたような肌。露出が多い防具。白い髪。

 俺は彼女のお腹を見た。まだ膨らんでいない。お腹の子どもは大丈夫だろうか?


「ようやく来たか」

 と彼女が呟いた。


 姿形が変わっても彼女は俺の魔力を感じ取って、宮本小次郎であることを認識しているみたいだった。


「この子にする」

 と俺は言った。


「お目が高い。この子はダークエルフでして……」

 と奴隷商が喋り出した。


「いくらだ?」

 と奴隷商の話をさえぎり、俺は値段を尋ねた。


「金貨1000枚でございます」

 と奴隷商が言った。


「購入する」と俺が言う。


「ありがとうございます。引き取りはいつがよろしいでしょうか?」


「今だ」


「申し訳ありません。金貨1000枚と引き換えになりますので今はお渡しすることができません」


 金貨1000枚も手持ちで持っていないと奴隷商は思っているんだろう。


「今、持ってる」

 と俺が言う。


 奴隷商は驚いていた。

 金貨1000枚になると相当重い。

 本当は鞄の中には800枚ほどしか入っていない。残りの200枚は鞄から取り出すフリをしてアイテムボックスから取り出した。


 お金を鞄から取り出している時に、俺はある疑問を抱いた。

「この金貨で支払えるのか?」

 

 金貨といえば、俺にとってはコレだった。

 当たり前みたいに持って来ていたけど、俺の街で流通している金貨が遠い国で使えるわけがないと思ったのだ。

 日本円をブラジルで使えないのは俺にとっては常識だった。失念していたのだ。どこかで両替をしなくてはいけない。


 コイツは何を言っているの? みたいな顔を奴隷商がした。


「できますよ」


 1つの通貨が、こんなに遠い国で流通しているなんて、おかしいと思った。


「この国では他に通貨は存在しないのか?」

 と俺は尋ねた。


 不思議な質問をする人ですね、と奴隷商は呟いた。

「私が知る限りでは通貨はコレしか流通しておりません」


 俺は金貨を見た。

 バビリニア、という刻印がされた通貨である。

 そこに書かれていることが当たり前すぎて、通貨に書かれた国の名前を今まで気にもしなかった。


 バビリニアは大国である。

 俺のアイテムボックスに入れているオッサンもバビリニア大国のスパイだった。セドリッグもバビリニア大国のスパイだった。


 オッサンの記憶を読んでも、バビリニアが星のカケラを保有しているのかは不明である。

 だけど星のカケラを保有している確率は高い。

 世界中の国にスパイを送り、すでに星のカケラの奪い合いの先手を取っている国である。


 金貨の支払いを済ませて、奴隷契約書にサインをした。

 そしてダークエルフの幼女は俺の奴隷になった。


 彼女が牢屋から出ると小さな手を握った。そうするべきだと思った。奴隷を買ったのに手放しで店を出るのは不自然だと思った。それになにより彼女の手を俺が握りたかった。手を離したら、また魔王はどこかに行きそうな気がした。


 店を出て、知らない街を2人で手を繋いで歩いた。


「子どもは大丈夫か?」と俺は尋ねた。


「大丈夫じゃ。まだ生きておる」

 と魔王が言った。


 よかった、と俺は呟く。


「だけど、このまま魔力が不足する状態を過ごしていたらヤバいのじゃ」と彼女が言った。


 言葉に含まれている深刻さは伝わって来た。


「それじゃあ魔力を回復させよう」と俺が言う。


「妾の魔力が回復したら勇者が襲って来る。魔力感知に長けた奴がおるみたいなのじゃ」


「それじゃどうすれば?」と俺は言った。


 このまま省エネモードを続けていれば赤ちゃんが死んでしまう。だけど魔力を回復させてしまったら勇者に居場所がバレてしまう。


「慌てるでない」

 とイライアが言った。

「お主の魔力を供給きょうきゅうしてほしいのじゃ。お主の魔力なら居場所がバレることはなかろう」


「そんなことができるのか?」


「妾は魔力を吸い取ることができるのじゃ」とイライアが言った。

 なぜか彼女が顔を真っ赤にさせた。


「それじゃあ俺の魔力を吸い取ってくれ」


「バカたれ。こんなところで出来るか」

 と魔王が言った。

「人目がないところに妾を連れて行くのじゃ」


 俺は路地に入り、ワープホールを作った。


 ワープホールはお一人様用なのでイライアは入れない。

 でも人目が無い場所に早く行かなくちゃいけない。時間がないのだ。

 ある裏技を思いついた。

 

「アイテムボックスの中に一度、入ってくれ」

 返事を待たずに魔王をアイテムボックスに収納した。


 ワープホールに入ると、そこはダンジョンの深層だった。

 人目がないところでパッと思いついたのがココしかなかったのだ。

 すぐにイライアをアイテムボックスから取り出した。

 人を連れて遠くに行く時は、別の目的が無い限りはこうしよう。だいぶ時間が短縮される。


 ダンジョンは迷宮型とフィールド型がある。

 ココはフィールド型だった。

 ダンジョンの中なのに、森である。


 そしてダンジョンに発生した魔物は殺しても再び蘇る。この言い方は語弊ごへいがある。死んでも生まれ変わるみたいな言い方をしてしまった。

 ダンジョンの魔物は倒しても同じ種類の魔物が、また生まれる。


 このフィールドにはバハムートがいた。

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