第25話 彼女にはお金持ちになってもらう

 チェルシーの超絶ゴミスキル『ミュージック』を使って、俺の記憶からコミカルな音楽を流した。

 コイツはスピーカーにもなるのだ。もはやアレクサである。

 

 チェルシー、ミュージックでコミカルな音楽を流して。


 そして流れてきたのはキュ◯ピー3分クッキングで使われていた相当コミカルな音楽だった。



 3人には店の椅子を借りて座ってもらっていた。 

 俺は彼女にお金持ちになってほしかった。

 だから拒否反応が出ないように投資の話をしなければいけなかった。


 実は、この街はもともと寂れた港町だった。

 日本という国にいた頃の知識を使って寂れた港町を発展させたのだ。


 どうやって発展させたのかがわかれば、どうすればアニーがお金持ちになることができるのかがわかる。

 俺は株を活用したのだ。


 それじゃあ株とはなんぞや?


 バランが急に拒絶反応を示している。

 別に難しい話をする訳じゃねぇー。騒ぐんなら寝とけよ。別にお前に伝えたい訳じゃ無い。俺はアニーに伝えたいんだ。


「宝の地図持ってんねん」

 という男がいた。

 わかった。わかった。チェルシーの好みのオッさんにしてあげる。

 そのオッさんは歯が抜けて、歯の隙間からヒーヒーと空気が漏れる音がしていた。髪もハゲ散らかしている。息も臭くて足も臭い。

 ただ彼は誠実な男だった。

 だけど金がねぇー、船がねぇー、見渡す限り何もねぇー、オラこんな村イヤだぁ、オラこんな村イヤだぁ。宝島に行くだぁ〜。

 でもお金がなかったら船も買えないので宝島にはいけない。


 そこに別のオッさんが登場。

 わかったよ。180キロの巨漢でいいよ。オッさんじゃなくて女がいい? 要望が多いな。帰れよチェルシー。わかったわかった。180キロの太った女でいいよ。左手にはワインの瓶を持って右手には肉を持っている。そして変な帽子を被っている。それアル◯ダじゃん。ワン◯ースの初期に出て来たアル◯ダじゃん。ごめんごめん。別に関係ないです。アル○ダなんて覚えなくていいです。

 

「宝の地図を持ってんねんやったら、ワシが金出したろうか?」

 と太った女が言った。


「ワイも金出したるわ」

 と別のお金持ちが言った。

 わかったよ。それでいい。ピエロみたいな顔をした男ね。ソイツも金を出した。


「お金を貸してあげたんやから、分け前をよこせよ」

 と太った女が言った。


 歯抜けのオッさんは宝島に行くために色んな人からお金を集めた。そして宝を持って帰って来てお金を貸してくれた人に宝は分配した。

 それがこの国の株の始まりである。


 領主である俺は街を発展させたい。

 だけど領主として、宝島に行く歯抜けのオッさん1人だけを信じてお金を貸す訳にはいかなかった。 

 そして俺が発明したのが、投資信託とうししんたく

 発明っていうか、俺のいた国でやっていたことなんだけど。

 投資信託というのは、たくさんの人からお金を集めて、色んな商会に投資すること。


 そしてココで紹介するのが、元勇者パーティーの紅一点であるミナミである。

 彼女には仕事をしてもらった。たぶん一番しんどい仕事である。それは外交。

 外から商会を誘致して、投資先を増やすのだ。

 それに優秀な金貸し屋も連れて来なければいけなかった。

 無能な商会にお金は貸したくない。

 でも俺達は専門家じゃねぇー。専門家じゃないから専門家を呼んで来なければいけない。それが金貸し屋である。(金貸し屋というのは日本でいうところの証券会社のことである)


 商会を誘致できないって? それじゃあき餌が必要だな? そういえば前の世界に法人税を下げて企業を誘致していた国があったような……。

 法人税を下げよう。俺達の街に来たら法人税が安い。だから来てください。


 そしてミナミは色んな商会と優秀な金貸し屋を、色んな街や隣国から引き抜いて来たのだ。

 俺がミナミを優秀なキャリアウーマンと認識しているのは、彼女がいなければ、この街の発展はありえなかったからである。



 商会を集め、優秀な金貸し屋を集め、領民達は投資をするようになった。

 人にお金を貸せば利息がつく。ゆっくりと領民達はお金持ちになっていった。


 お金を商会は借りて設備を整え、仕事が生まれ、人が集まり、物が売れた。

 若い人も集まり、新しい文化も生まれた。

 

 この街が、なぜ発展したのか、なぜ投資をすすめるのか、について俺は話を終えた。


「収入の10分の1でいい。お金を貸して利息を貰って、ゆっくりとお金持ちになっていくんだ」

 と俺はアニーに伝えた。

 時間をかけてゆっくりとお金持ちになっていく戦略は、長寿であるエルフにとって最大の効果を発揮するだろう。

 俺が死んだ後も彼女は生きる。

 アニーにはお金の蓄えが必要だった。

 俺が生きているうちに彼女にはお金持ちになってもらうつもりだった。


「はい」

 とアニーが返事をした。


「アル◯ダだけ覚えた」と隣で聞いていたバランが言った。

 それは唯一、覚えなくていいことだった。


「チェルシー、音楽を消して」

 と俺は言う。

 コミカルな音楽が消える。

 やっぱりコイツ、アレクサじゃん。


 投資するのは10分の1でいいと俺は言ったけど、

「買う物もないので」とアニーは言って、銀貨8枚もお金を貸した。

 この世界では証券口座の代わりに腕に魔法を印字する。

 商人達が魔力を注がないとわからない特殊な魔法で本人確認をするために使う。

 本人であれば、自分の口座のお金を引き出すこともできるし、お金を入れることもできた。


「俺もしようかな? 投資」とチェルシーが言い始めた。


「お前達はしてるぞ。つーかお前達を連れて前にココに来ただろう」


「覚えてねぇー」


「毎月の給料から引いて投資してあげてるぞ」と俺は言った。


「だから給料が少ないのか」

 とチェルシーが言う。


 こいつ等の給料は一般の家庭よりも多い。

 猫のくせに何に使ってんだよ?


「俺、お金を持ってる。ヒゲを生やした女のところに行く。お金を下ろす」

 興奮しすぎて、バランが起動したばかりのロボットみたいな口調で金貸し屋のところに向かって行く。


「俺、金下ろす。俺、金下ろす」


 俺はドワーフのくせにハゲた男のケツを蹴った。

 蹴りが痛かったのか、半泣きになって膝から崩れ落ちた。


「そのお金は、お前が本当に困った時に使う金なんだよ。遊ぶためのお金じゃねぇー」


「俺、ヒゲボーボーの女のところに行く。絶対に行く。金下ろす」


「すみません。コイツが来てもお金はおろさないでください」

 と俺は金貸し屋に言った。


 エッチな店に行けると思っていたのに行けなくなってバランがションボリしていた。




 店を出ると泥まみれの獣人じゅうじんの子が花を抱えて待っていた。

 雑巾で作ったような服を着ている。

 顔は汚れすぎて男か女かもわからなかった。

 垂れた犬耳も尻尾も泥まみれだった。

 胸の膨らみがあるから女の子だろう。

 いつも俺のことを見つけて花を売って来る子だった。


 獣人。この街で差別をされている種族。

 もともと人間を襲い、金品を奪って生活していた種族と言われている。

 でも実際は温厚で、人間を襲うとは俺には思えなかった。

 どれだけ政策しても差別は消えない。俺が考えうることはもちろんやったし、他の人の意見を聞きながら差別を無くすように政策したけど、根付いてしまった差別意識は消えなかった。


「領主様、お花を買ってよ」


「獣くせぇー」

 と言ってバランが鼻を摘んでいる。


「お前、獣人の子に失礼なことを言うな」

 とチェルシーが言う。

 なぜかチェルシーは獣人の肩を持つ。


「あぁ、わかった。いくらだ?」と俺は尋ねた。


「銀貨5枚」


「私が買います」

 とアニーが言う。


 でもアニー、君は銀貨2枚しか持ってなかったよね?


「この花はなんて言う花ですか?」

 とアニーが尋ねた。


「……ボク、花の名前知らない」

 と獣人が言う。

 

 女の子だけど一人称はボクである。ボクっ娘という奴であった。


「名前を知らない花を売るんですか?」


「……」


「銀貨1枚で購入します」


「銀貨4枚」

 と獣人の女の子が言った。


「名前も知らない花なのに? 銀貨4枚も取るんですか? 1枚です」


「銀貨3枚」


「1枚です」


 くぅーん、と獣人の子が鳴いた。


「でも、この花は、すごく希少なんだよ。そこの店だったら金貨3枚で売ってるんだよ。領主様のために死ぬ気で取って来たんだよ」


「そんなに高い物なら他の人に売ったらどうでしょうか?」


「でも」

 と獣人の子が言う。


「それじゃあ銀貨2枚でどうでしょうか?」

 とアニーが尋ねた。


「わかったよ。銀貨2枚ね」


 アニーが銀貨2枚を差し出した。

 そして花束を受け取り、大切そうに胸に抱えた。


 獣人の女の子が銀貨2枚を握りしめて、どこかに去って行く。


「交渉、うめぇーな」

 とチェルシーが言った。


「はい。私、人の気持ちわかるんです」


「そうか」とチェルシーが納得している。「エルフは耳がいいから、心臓の音で人の感情を聞き取ることができるもんな」


 そうです、と彼女が頷いた。


 昨晩のことを思い出して体が一気に暑くなった。

 俺の心臓はどんな風に彼女に聞かれていたんだろうか?


 アニーは大切そうに花を撫でていた。


「その花のことを知ってるの?」と俺は尋ねた。


「はい」とアニーが頷く。


「この花は薬草です。とても貴重な薬草です。……お母さんにあげたかった薬草です」

 花を見て、アニーは泣くのを我慢しているようだった。

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