辺境伯は何を考えているの?


 フレーザー侯爵の訪問は予定されていないかったと思う。

 寄親であるフレーザー侯爵の訪問だ。予定されているならば屋敷内が普通の雰囲気であるはずがないもの。突然の訪問に慌てる当主。そんな光景が目に浮かぶ。何しろボクに使用人以下のような挨拶をさせているのだ。それも、フレーザー侯爵がいる前でだ。

 普通はアウトです。それと、たまたまボクが屋敷にいたから良かったけど。ボクがいなかったらどうしたんだろう。なんて言い訳したんだろうな?子供の行動を把握できていないなんて言える訳ないじゃん。

 そんな事はボクが心配する事じゃないけどさ。


 応接間は目下誰も話さない。

 ・・・・沈黙が痛い。

 ボクはこのまま立っているままでいいの?

 そもそも用事はなんですか?説教なら早めに終わらせてくださいな。

 

 フレーザー侯爵が沈黙を破る。トラジェット家はビビっているのか?

 

「トラジェット伯爵。其方からご子息に用件を伝えぬのか?」

「は・・。わ、私からですか?」

「家中の話題であろうが。そも、お主の子息に関する事項だ。それすらも自身の口で伝えられぬのか?」


 背中しか見えないトラジェット家の肩がピクリと動く。呼ばれた時点で分かっているけど。ボクに何か用事があるのは確実だ。それも当主にとっては良くない方向かも。ボクにとってはいい話なのだろうか?

 ・・推測するに、どうやらボクが来る前に何かが決まったようだ。当主は相変わらず背中しか見えない。チェスターが呆れた顔で当主を見ているぞ。そんな顔なんだけど・・怖い顔だ。



 侯爵が諦めたようにため息をつく。それが合図だったのかチェスターさんがボクに顔を向ける。多分微笑んでいるんだと思う。・・・マジで怖いんですけど。殺されませんよね?・・どんな表情しても怖い顔なんだ。


「フェリックス殿。我が主であるフレーザー侯爵とあなたの家であるトラジェット家当主との間で、ある手続きが決まりました。書面による手続きはこれからになりますが両家とも合意しております」

「はい。その事が私とどのような関係があるのでしょうか?」


 家と家との手続き。それにボクが関係している。

 ・・・商会の事がばれたのか。いずれ分かる事だから王都に進出を進めて、この領内での商会は縮小しようとしていたのだけど。間に合わなかったか。それを侯爵が取り上げようとしているのか?

 分からない。

 

「何やら心配されておるようようですな。今回の件についてはフェリックス殿の同意なく決めてしまって申し訳ござらん。だが、悪い話ではないと確信しておりますぞ」

「その決定事項を・・お伺いしてもよろしいのですか?」

「勿論。正式にはもう暫くかかります。ですが、フェリックス殿は我が主フレーザー侯爵の養子となる事がこの場で決まったのですぞ」


 は?

 チェスターさんの笑みは祝っているように思えない。変わらず・・怖い。でも祝っているんだろうな。ちらりと侯爵を見るけど表情からは何も分からない。

 ・・それにしても養子か。一番想定していない方向だ。それもフレーザー侯爵からなんて。

 ビックリして・・ちょっと考えられない。

 どうしてそうなったの?

 


「ご理解されましたか?その顔を見る限りでは驚かれたようですな。ですが揶揄っている訳ではござりませんぞ。この話は我が主から持ち掛けたのです。トラジェット家当主も承諾されました。きっちり成立してますぞ」

「わ・・何故私なのですか?侯爵家に養子に入る理由が分からないのです」

「それは後程ご説明します。こちらの事情で申し訳ござらんが直ぐに出立したいのです。宜しいかな?」

「え?・・今からですか。せめて身支度の時間は頂けませんか?流石に着の身着のままでは失礼にあたるのでは」


 いきなりで色々理解ができていない。どうしてこうなった?考える時間が欲しいし。

 

「いやいや大丈夫ですぞ。身支度は後程にして頂きましょう。主も拙者も時間が限られておりますでな。まずは領地にご案内致します。あちらに到着してから色々ご説明します」

「成程。・・では、承知しました」

「それは何より。何やら拙者が悪者になているようですぞ。お館様、助けて頂きたく」


 本当に突然で、強制だ。断る事ができない状況になっている。ボクが養子になるとは想定外もいい所だ。できれば放っておいて欲しかった。あと数年で家から出れたんだ。


「色々言いたい事がありそうだな。少しは道中で説明しよう。ともかく時間が無いのは本当だ。領内をのんびりと空けておられるほど平穏ではないのだよ」


 侯爵が良く通る声で言ってくる。お願いしているようだけど、その声には強制力がある。従わないといけないような気持ちになってしまう。

 これが国境を護るフレーザー侯爵か・・・。


 この世界も思うようにならないようだ。

 

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