現実………

「ち……」


目を開けると、カチカチの床で寝ていた。


「葵、お腹すいたわ」


気色悪い男がいた!


千秋じゃない。


こっちが、現実だと言うの?


「わかった」


私は、起き上がって服を整える。キッチンに行って、冷蔵庫からブラウン液につけている鶏肉を取る。小麦粉をつけながら、剥げたフライパンに油を流し入れて揚げていく。


この家は、嫌い。


千秋と住んでいる時、私はよく絶望と切望を繰り返していた。ここ最近は、切望を繰り返していた。その結果、やってきたのが田辺葵の家だった。


私は、唐揚げを揚げてるのを見つめていた。あの家に帰りたい。千秋と住んでいた場所は、普通だったのだと今になって気づいた。

ご飯は、さっきの残りがあるから炊かなくていいか!


母乳を売って、娘を売って、この生活をどれだけ続ければいいの?


バットもないから、大きめのお皿にキッチンペーパーをひいて唐揚げをそこに並べていく。この唐揚げも、娘が稼いだお金なんだと思うと苦しくなる。


お野菜は、ほとんど買えなくて…。仕方ないから、玉ねぎの味噌汁を作った。

いつもなら、三つの野菜を入れてお味噌汁を作っていた。千秋との生活にもどりたい。


「お待たせ」


そのまま、唐揚げを出した。ご飯と味噌汁も渡す。


『いただきます』


そう言ったのは、寝惚けながら起きてきた雪那ちゃんだけだった。


ビールをプシュッと開けて当たり前のように唐揚げを食べている。この男は、「いただきます」さえも言わない最低な男だ!


お金を稼ぐ事もせずに、親の責任も果たさずに…。最低最悪な男だ!


「ママ、唐揚げ美味しい」


「よかった」


眠い目を擦りながら、雪那ちゃんは言ってくれる。


「麦茶、持ってくるね」


「うん」


冷蔵庫から、麦茶を取ってプラスチックのコップに入れてあげる。


「別の奴と結婚した方がよかったって思ってんのか?」


「何の話」


そうですと言いたい気持ちをグッと堪えていた。


「フッ!!お前みたいな売春婦もらってくれる奴いねーよ!」


そう言って、嬉しそうに笑っている。


「お前の両親が特にヤバいしな!」


そう言いながら、クチャクチャと唐揚げを食べる。

汚くて気持ち悪い男だ!


ただ、膝が悪いだけで働きもしないなんて!何ていう男なの…。


「ママ、食べて」


雪那ちゃんは、私の手を叩いて言った。


「うん!」


私は、唐揚げを口に含んだ。懐かしい味付け!千秋が作ってくれる唐揚げの味。


「美味しいね」


「うん」


私は、千秋を見つけたい!

千秋ともう一度人生をやり直したい。

そう思いながら、唐揚げを飲み込んだ。

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