知り合いじゃない男子高校生と女子高生を知り合いにする方法を考えなさい。

水嶋 穂太郎

本文

第1話 ちょっと待てよ。

 通勤時間帯の電車は満員だった。

 となりのおっさんとか汗が噴き出しているのか、ベトベトして気持ち悪い。


「あっ」


 と、そこで、妙な声に気づいた。

 すぐそば……反対側だ。ビジネスマン風のイケメン眼鏡がいる。その近くには女子高生と思われる制服姿の女の子。


「んっ」


 女の子の声が耳に届く。

 妙になまめかしい。


「やめっ」


 声のするほうから、まさかと思い、視線を下にずらしていく……。

 女子高生のスカートに細長いものが伸びている。


「んんっ」


 女子高生がつらそうな声を漏らしている。

 決して喜んでいる声ではない。

 念のため、視線を上に戻し、彼女の顔を見てみると、涙を浮かべていた。


 俺は意を決して、スカートに伸びる細長いものを掴んだ。

 ねじり上げる。


「いてててて!」

「おい、おっさん何やってんだ?」

「は? なんだね君は! は、離したまえ!」

「通りすがりのおせっかい野郎だよ、この変態」


 俺が変態の腕を締め上げていると、女子高生は驚いた様子で。


「どうして?」

「あん? なにがだ?」

「だれもわたしを助けてくれなかったのに……」

「俺は面倒ごとに首を突っ込みたい性分でな」


 ようやく周りの大人たちも動き出し、変態が逃げないよう包囲した。

 解放された女の子は、俺に向かって。


「あの、よろしければ、しばらくそばにいていただけませんか?」

「ん? べつに俺じゃなくてもいいだろ」

「見て見ぬ振りをしなかったのは、あなただけだったので……」

「ま、いいけどよ」


 こうして俺は、次の駅で痴漢(ちかん)を駅員に引き渡した。

 そして、事情を女の子といっしょに聞かれている。

 間違いなく学校は遅刻だ。ついてねえ。


「おい、いつまでひっついてるんだ?」

「……」


 女の子は無言。

 というか、震えている。


 そんなに怖かったのだろうか。

 まあ痴漢は怖いって言うもんな。被害者にしかわからないこともあるか。


「しょうがねえな、俺でよければしばらくいっしょにいてやるよ」

「ほ、ほんとうですか!?」

「警官がくるまでだが」

「それじゃあもう会えないじゃないですか!」


 なにを当たり前なことを……。

 俺が真意を測りかねていると。


「連絡先だけでも交換していただけませんか?」

「なんでだ?」

「お礼がしたいので……」

「いらんいら……やっぱそのうちな」


 女の子が真剣なまなざしで見つめてくるので、ひるんでしまった。

 駅員がほっとした様子で眺めていて、なにがなんだかわからなくなった俺だった。

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