第2話 カレンダー

 「もう九月間近かぁ。早いな……」


 「あっという間だったね」


 「ああ、そうだな」


 (おや? このカレンダーだけ月が違う。捲ってなかったのかな……)


 僕はカレンダーに手を伸ばしかけて、ふと動きを止めた。

  

 ※ ※ ※

 

 家の壁に掛けてあるカレンダー

 五月のまま掛かっている

 今は八月

 本当は捲る筈だけど

 捲らないといけないけれど

 まだその気になれない

 

 三ヶ月前まで

 あなたは確かにいた

 息をしていた

 存在していた

 この家に


 だけど……


 今はもういない

 五月末のあの日

 消えるようにいなくなってしまったから


 一緒にどこかに行くことも

 時を歩むことも

 二度と出来ないのだ


 ――どんなに望んでも……

 

 今でもまだ

 あの病院に入院しているような

 そんな気がする

 病院に行けばまた会える

 そんな気がする

 

 ――会える筈なんてないのに……

 

 やっぱり

 カレンダーは五月のまま

 捲る気になれない

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