王子として育てられた私は、隣国の王子様に女だとバレてなぜか溺愛されています
八重
第1話 隣国の王子様に女だとバレてしまいました
「リオ様、国民の皆が『王子』の登場を心待ちにしております」
「ああ、大丈夫だ。建国700年式典はめでたい場だからしくじらないようにがんばるよ」
そういって首元までの黒髪が輝くリオに王子衣装を着せるメイドは、その衣装姿を称賛する。
「今日もお見事な着こなしでございます! いってらっしゃいませ」
「ありがとう、行ってくるよ」
そうして、リオは宮殿の2階部分に立って国民に手を振った──
◇◆◇
「暑いな……さすがに」
「お疲れ様でございました」
「ああ、そして式典衣装は重い……」
そうやってメイドに服を脱がせてもらうリオは、かなり汗ばんでいる。
「今日もよかったわよ~! キャロル~♪ もうママ、キャロルがかっこよすぎて卒倒しちゃいそうだったわ~!」
「母上、着替え中に入ってこないで下さい!」
「いいじゃない! 親子なんだし!!」
「それに、女の名で呼ばないでください、私には『リオ』という名があります。母上もいくら宮殿の中の最奥部のサンクチュアリだからといって、『王』の口調から戻さないでください!」
この王族はかなり特殊で、何百年も前に女しか生まれない呪いをかけられた王族だった。
ゆえに、生まれた女児はみな最初から「王子」として育てられ、やがて「王」になる。
呪いのことを知るのはごく少数のみであり、王族は基本女であることがばれないように「サンクチュアリ」と呼ばれる区画で過ごす。
つまり、この国の「王」も「王子」も女としての名前と女であるという秘密を抱えて生きている。
「ああ、そうそう。リオにどうしてもお願いしたいことがあるの」
「なんですか?」
「ほら、リオももう17歳でしょ? ちょっと公務を手伝ってほしいのよ」
「それはもちろんです。何をいたしましょうか」
「隣国の外交担当」
「え?」
リオは着替える手が止まって嫌そうな顔をする。
「あそこの王は確か……」
「ええ、女好きで遊び人のあの王よ」
「はぁ……」
リオの母親であり王であるノエルが、ため息をつく彼女の肩を叩く。
「まあ、気をつけてれば大丈夫よ」
「……善処します」
ノエルはそういってルンルン気分で自室へと向かって行った。
(苦手だな……あの王……)
こうして隣国の外交担当になったリオは翌日早速、就任挨拶のため、隣国に向かっていた。
馬車に揺られること1時間ほど、隣国の宮殿へとたどり着いた。
リオの国の宮殿と隣国の宮殿は実はとても近く、すぐに到着することができる。
「久しぶりに来たな」
リオは5歳のときにここにきて以来の入国だった。
宮殿の入り口ではとても手厚い歓迎でもてなされ、隣国の王への謁見の場所へと案内される。
謁見の間はそれはそれは豪華で、シャンデリアがいくつもあり赤い絨毯が敷かれている。
奥の階段の上に王がおり、これまた大人の身長ほどの大きな椅子に腰かけていた。
リオは絨毯の上に跪き、王室の礼をする。
「リオ王子、よく来てくれた」
「お久しぶりでございます」
「ああ、幼い頃以来だな。立派になられたことだ」
「まだまだ精進が足りませぬ」
「今日は挨拶だけだと伺った。別室で食事を用意しているので、よかったら召し上がってくれ」
「ありがとうございます」
そういってリオは立ち上がり、メイドに促されるまま立ち上がって食事の間へと向かう。
長い廊下には豪華な美術品の数々が並んでおり、客人をもてなすように立ち並んでいた。
しかし、ここでリオは身体のある異変に気付き、メイドに声をかける。
「申し訳ございません、すぐに戻ってまいりますので」
「あっ! リオ王子!?」
メイドの声に耳を傾けることなく、廊下の突き当りを左に曲がる。
そのまま近くにあった部屋に慌てて入った。
(申し訳ございません、少しお部屋をお貸しください!)
そう心の中で叫びながら部屋に入ると、急いで服を脱ぐ。
脱いだ服の中には案の定、虫が入り込んでいた。
「ひぃ! 気持ち悪いっ!!」
いつから入っていたのか、その小さな虫を窓から外に逃がす。
(はあ……よかった……)
安堵して先程メイドと離れた場所に戻ろうとしたその時、リオは誰かに声をかけられた。
「なにをしている?」
その人物はベッドから起き上がると、リオを見つめる。
(人がいたのか、いや、そんなことより服がっ!)
リオは虫に気を取られ、まだ男装用の服を脱いだままだった。
ベッドから立ち上がった男性は、ゆっくりとリオに近づいてくる。
その姿にリオは見覚えがあった。
(第一王子フィル・ガードナー?!)
隣国外交担当の初日、すでにリオをピンチを迎えていた──
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