第11話

「魔女狩りに特に熱心だった国がふたつある。パドキアとルーランドだ」


 話を聞いていたのか、ずっとおとなしくしていたドーがクェーッと叫んだ。カンはショックで頭を抱えてうずくまっている。シャーマンは彼らから目をそらして話を続けた。


「これでわかったじゃろう。この戦は人の意思ではない。呪いなのじゃ」


「でも、なぜ戦をさせるの? こんなこと言うのもどうかと思うけど……」


 綾は間をおいてから続きを口にした。


「一思いに全滅させることだってできたでしょう?」


「彼女の憎しみは深い。一瞬の苦しみより、永遠の苦しみを与えることにしたのだろう」


 綾は大きなため息をついた。自分の人生を通して憎しみ続けるなんて。復讐のために生き続けるなんて。そのエネルギーの大きさを思うと、強い恐怖と深い悲しみにおぼれそうになる。


「……わかったわ。闇の魔術師に会って、呪いを解いてもらうしかないのね」


「そのとおりじゃ。彼女はこの世界の人々を憎んではいるが、おぬしは異世界の人。おぬしの話なら、もしや耳を傾けるかもしれん。闇の魔術師がどう出るかまでは、わしにもわからんがの」


 大いなる太陽はすでに天頂に届こうとしている。北に傾き始める前に出発しないと、また一日が終わってしまう。急がなければならない。だが、カンのことが心配だった。カンは綾とはちがい、この世界の人間なのだ。呪いも戦も身近なものなのだ。


 しかし、カンは勢いよく立ち上がった。


「闇の魔術師はどこにいますか?」


 カンはドーの手綱を握りしめ、真っ直ぐシャーマンを見つめている。綾はカンを頼もしく思った。

 シャーマンも同じ思いなのだろう。カンを見つめ返し、深くうなずいた。


「光の都じゃ」


「光の、都……」


「ここから北西に向かうのじゃ。林を抜けると、町に出る。その向こうは数ヶ月前に戦があった場所じゃ。戦場跡とはいえ、今なら危険はなかろう。そのまた先の国境付近に岩山が連なっておる。その谷に光の都があると聞いてはいるが……なにしろ、はるか昔のことじゃ。確かなことはわからん」


 カンは力強くうなずき、ドーはクゥーッと鳴いた。綾は立ち上がると、シャーマンに近づいた。


「……ありがとう」


「綾、おぬしはまだまだ人として未熟じゃ。だが、それは悪いことではない。その澄んだ瞳で真実を見極めていくのじゃ。真実は、心の底から見ようと思う者には必ず見える」


 綾は魚臭いシャーマンに抱きついた。

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