【おまけ⑤】音色の彼方に

 ある日のお昼頃、ソフィはアフタヌーンティーを窓辺に座って楽しんでいた。


「今日もいい天気ね」


 外にある庭に目を遣っていると、ふと窓枠に一匹の白い小鳥が止まった。

 その小鳥は首を何度も傾けて鳴き声を上げて楽しそうに日向ぼっこをしている。


「ふふ、可愛いわね」


 そんな様子を見ていたときにソフィは昔の記憶を思い出した。


(確か、あの時も白い小鳥がいて……)




 裏庭の小屋に閉じ込められてジルに助けられた少し後の事、ソフィはいつものようにピアノを弾いていた。

 まだ椅子から足が床に届かないので、ブラブラとさせながら弾いている。


「ラララ~♪」


 ソフィはピアノに合わせて歌うことが好きだった。

 主旋律だけ弾けるようになったメロディーに合わせて上機嫌に口ずさむ。


 すると、窓のほうから小鳥の声が聞こえたため彼女は振り向くと、そこには白い小鳥とそしてその小鳥と戯れるジルがいた。


「ジルっ!」

「やあ、ソフィ。相変わらず可愛い歌声だね」

「もうっ! 盗み聞きしないでよ!」

「なんでさ、僕は好きだよ、ソフィの声」

「──っ!」


 そう言いながらゆっくりとジルはソフィのもとに近づくと、そのまま彼女の背中に自分の胸をあてて鍵盤に手を置く。

 そして同じ曲を弾きながらジルは口ずさみだした。


「ジル……」


 その歌声はまだ少年の声だけれど、ソフィは彼の中にある優しさと純粋さ、美しさを感じて心地よかった。

 それと同時にすでに美声というのが足りないほどの甘い声を鳴らし、ソフィの心を掴んだ。




 白い小鳥をきっかけに思い出した歌声の思い出は、ソフィを微笑ませる。

 ピアノの椅子にそっと腰かけると、ポロンと音を奏で始めた。

 あの時とは違って手には指輪が光っている──



(確かあの時の曲はこれだったはず……)


 うろ覚えの記憶を頼りに弾き始めるとその細く白い手に、男らしい大きな手が覆いかぶさる。

 慌てて振り返るとそこには密着するようにジルがいた。


「ジルっ!」

「もう、同じところで間違ってる。ここはこう」


 そう言って正しい旋律を奏でて教える。


「あら、そうだったかしら」

「ソフィはいつも昔から同じところを間違って覚えてるんだよ」

「でもこのほうが綺麗なメロディーじゃない?」

「まあ、確かに悪くはないね。じゃあこうしよう」


 そう言って同じ部分をもう一度弾くと、今度は正しい旋律をピアノで奏でながらジルは自らの歌でソフィの旋律を奏でる。


「──っ!」


 その声はあの時とは比べ物にならないほどの男らしくてそしてより甘い甘い声になっていた。

 思わず旋律に耳を傾けることもできずに俯くと、それを察したようにジルは意地悪そうに口角を上げる。


「ふふ、実は昔から僕の声が好きなんだよね?」

「もうっ! からかわないでよ」


 そういってソフィはジルの胸をポンを叩いたが、その手はすぐに捕らえられてそして唇もふさがれた──

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