第12話 伯爵令嬢様の可愛いお願い
「ソフィ、本当にこれでよかったのかい?」
「ええ」
ソフィとジルの目の前には豪華なアフタヌーンティーセットが並べられている。
ルノアール邸の庭園にあるガゼボにて、二人はお茶会を開いていた。
「でもなんで『ジルの好きなものを一緒に食べたい』って言ってきたんだい?」
「だって、ジルっていつも私の好きなことばかりに付き合ってくれるでしょう? だから、今日は私がジルの好きなものに付き合うの! それで、一緒に美味しいもの食べたいな~って」
ソフィの細く白い指が、気恥ずかしそうにティーカップの持ち手をなでる。
ジルはくすっと笑ってソフィに微笑みながら告げる。
「ソフィらしい優しいお願いだ」
そういってジルは好物のタルトケーキを口に入れる。
それを見たソフィも同じものを取り一口食べると、口いっぱいに広がるいちごの甘酸っぱさに、顔がほころぶ。
「美味しい……」
「ああ」
紅茶を一口飲むと、ジルはいいことを思いついたというような顔でソフィを見つめる。
少し意地悪そうに笑うと、ジルのサファイアブルーの瞳が、ソフィを捕らえた。
「ん……」
ジルはソフィを見つめながら、自らの口を大きく開けてアピールをする。
「──っ!」
ソフィは瞬時にそれが「あ~ん」を要求されていると気づき、真っ赤になって照れる。
「ソフィ、お・ね・が・い!」
ジルは甘えたような声でソフィに「あ~ん」を促す。
ソフィは覚悟を決めて、口をぎゅっと結びながら恥ずかしそうにジルの口にケーキを持っていく。
「ん……美味しい……」
ジルは満面の笑みでソフィを見つめると、今度は自分のフォークでケーキを持つ。
そのフォークをソフィの口元に運んでいく。
「え……私も……?」
「そうだよ、今度はソフィの番」
恥ずかしさから唇を震わせながら口をゆっくりゆっくり開くソフィ。
ジルはその動作に合わせてゆっくりとソフィの口にケーキを運ぶ。
「美味しいかい?」
「……恥ずかしくて味がわからないわ」
ジルはくすっと笑いながら、頬杖をついてソフィに告げる。
「まだソフィには早かったかな?」
「……練習しておくわ」
「お願いだから僕とだけにしてくれると助かるな」
そういってジルはもう一度紅茶を飲んだ。
「そういえば、ジルの本棚にある本って私の部屋にあるものとよく似てるわよね」
先ほどジルの部屋で気づいた疑問をソフィはぶつけてみる。
「ああ……気づいた?」
「ええ、あまりにも似てるけど、ジルってそもそもあんなに本を読んだかしら?」
すると、ジルは気恥ずかしそうに目を逸らしながらソフィに告げる。
「実は君が本が好きだから一緒に話したいと思って、子供の頃父上に頼んで買ってもらったんだよ」
「え……」
ジルの口から意外な理由が飛び出し、ソフィは驚く。
「ソフィと少しでも同じ気持ちになりたくて……」
ジルは恥ずかしさを隠すように紅茶を一口飲むと、椅子から立ってソフィから顔を逸らした。
(なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら……)
ソフィもジルと同じように椅子から立ち上がると、ジルのもとに近づき両手でジルの手を握る。
「──っ!」
ふいをつかれたジルはソフィのほうを驚いて見つめる。
そこにはとても優しく可愛らしい笑顔のソフィがいた。
「ありがとう、ジル」
「ああ……その笑顔を見れただけで僕も幸せだよ」
二人はその後もしばらく幼い頃の話に花を咲かせていた──
◇◆◇
「失礼いたします」
「クロードか、入れ」
夜で暗い部屋に明かりがぼうっと執務机のあたりだけ照らされている。
クロードが一礼すると、そのまま仕事をするジルのもとへと向かう。
「ご依頼があった件、調べてまいりました」
ジルは手紙を書く手を止め、机の前に姿勢よく立つクロードのほうを見た。
クロードはジルの目を見ながら淡々と告げる。
「やはり、ソフィ様の婚約解消はエミール様からの強引なものでした」
「……そうか」
その後もクロードは婚約解消の仔細、そしてその後のエミールの動向を伝える。
「エミール……ソフィを傷つけた罪、その身をもって
ジルは静かに怒りを表し、持っていたペンを片手でへし折った。
ペンについたインクが、床に飛び散った──
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