第39話 責任

 退院したディルは、宿の部屋で旅の仲間にザーナ姫と自分との関係をかいつまんで話して聞かせた。ベルが洋館への道中ミック達に話してくれた内容とほぼ同じだった。


「姫に何度か会いに行っていること、姉さんにばれてるとは思ってなかったな」

「何年一緒にいると思ってるのよ。ばればれよ」

「はは……返す言葉もないよ」


ベッドに腰かけたディルは、俯き乾いた声で笑った。


ミックは城巫女の言葉を思い出した。姫は誰かにどうしても自分の真名を伝えたかったようで手紙に書いた――。


姫との出来事を思い出したからだろうか、ディルの目には涙が溜まっている。


「姫が手紙を書いていた相手は、多分、俺だ。俺が……最後に、姫の話を聞いていれば……こん、な……。」


ディルの言葉は嗚咽で続かなかった。涙を隠すように、ディルは細く長い指のきれいな手で顔を覆った。


ずっと責任を感じていたんだ、自分のせいで姫の真名が知られてしまったと思って……とミックはやりきれない気持ちになってディルを見つめた。


ディルが姫の話を聞いていれば、確かに姫は手紙を書かなかったかもしれない。しかし、ディルが取った行動は、姫や国を想ってのものだ。お互いを大切に想うがゆえに起きてしまった悲しい出来事。ミックは胸が締め付けられるようだった。


「私は、あなたが本気であの姫様のことを好きなの知ってたわ。だから、会いにいくのを何度も止めようと思ったけど、できなかった。……何もしてあげられなくて、ごめんね」


ベルの言葉に目元を片手で覆ったまま、ディルは首を振った。窓際でうつむき加減で話を聞いていたラズが、首から下げていた石を取り出しディルに突きつけた。


「まだ返していなかったな。これは、やはり貴様が持つべきだ。起こってしまったことに、自分なりに責任を果たそうとしているのだろう?城巫女も貴様のその考えがわかっていた。だから、姫を想い最後まで石を死守し旅をまっとうすると信じて預けた」


ディルは顔を上げ、石を受け取った。


「占いを信じてないってそういうことだったのか。自分が果たすべきことだと、ディルは初めから思ってたんだな」


シュートが呟いた。ディルは自分が旅に選ばれた理由がわかっていたし、自分でも行くべきだと思っていたのだ。


「そう……だね。ごめん、弱気なところ見せて。俺がやることはこれからも変わらないよ。」

「弱気だなんて……行動で表しているディルは、強いよ。」


優しくも力強いミックや仲間たちの言葉は、暗い道を照らす赤々と燃える炎のようにディルには感じられた。ディルは石を一度ぎゅっと握ってから、首からかけ服の中にしまった。


誰も何も言わない時間が流れた。窓辺に飾られた花が、風に吹かれて優しく揺れていた。





 まだディルが本調子ではないということで、食堂には行かず部屋で昼食を取ろうという話になった。ミックとシュートが買い出しに行き、パンやチーズなどを抱えて再び部屋へ戻ってきた。


「ところで……私ラズに聞きたいことがあるんだけど」


食べ始めてすぐ、ベルがラズの方へ向き直った。


「……俺の魔力についてか」


ベルは頷いた。ミックもずっと気になっていた。ゾルを攻撃したとき、剣に纏わせていた魔力は闇の属性だった。闇属性はガラやゾルしか使わない。


「え、魔力がどうしたんだよ?」


シュートが不思議そうな顔をしている。あの時シュートのいる位置からは、ラズの攻撃は見えていない。気を失っていたディルも知らないので、何のことかわからないようだ。


「あなたからは敵意を感じないし、今まで見てきて信用しているわ。ただ……」


ラズはため息を吐き、ベルの言葉を遮るように話し出した。


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