第五章 旅の仲間になった理由

第21話 調査開始

 ベルたちはマルビナ近くの涸れ井戸の下に、別れたその日のうちに着いたそうだ。二人は井戸をよじ登れたが、クリフはそうはいかない。途方に暮れていると、運良くさすらい人の一団、鷹のかいが近くを通りかかった。そこに助けを求め、ロープを使い大人数でクリフを引き上げたそうだ。


「で、お礼と路銀を稼ぐのも兼ねて、見世物をしてたってわけ」


ディルは窓から広場を指さす。なるほど、さすらい人は違う塊であっても、お互い助け合うのか、とミックは感心してしまった。




 

 夜、星々がマルビナの石造りの街を優しく照らす。シュートとも無事合流できたミック達は鷹の塊のキャンプで夕食を取った。焚き火の周りで、丸太をベンチにしてわいわいと賑やかな食事だった。老若男女集まり、食べ物を分け合う。大きな鍋に作られたトマトベースのスープには鶏肉や旬の野菜がたっぷりと入っており、ミックはあっという間に平らげてしまった。


「その興行はどうだったんだ?」

「大盛況だったぞ!」


シュートの質問に一緒に火を囲んでいた鷹の塊のリードが満面の笑みを浮かべた。


「ベルもディルもそれぞれファンが付いちまうくらい人気だったぞ」


今日の座長はリードだった。ベルの情熱的で魅力たっぷりの踊り、ディルのナイフ投げや軽業のパフォーマンスは拍手喝采だったそうだ。投げ銭もいつもより多かったらしい。自分が出演したわけではないのに、ミックは誇らしい気持ちになった。


「明日も興行はあるが、お前たち出てくれんのか?」

「そうだな……仲間が揃ったから、明日は調査の方に行かないとかな。」


ディルは申し訳無さそうにリードの誘いを断った。リードのすぐ傍にいる数人の若者たちは「えー!」と不満の声を漏らす。


ディルは、自分達は王都周辺の地域のガラやゾルの出現調査をしている、ということにしていた。厳密には違う目的で動いているが、嘘ではないので、ミックは助かった、と思った。変なことを口走ったり怪しげな態度を取ったりすることがない。


「残念だな。また機会があればいつでも歓迎するぜ」

「ありがとう。とっても助かったし、楽しかったから、またぜひ参加させてほしいわ」


ベルはリードに礼を言う。ミックはベルの踊りもディルの軽業も見ることができなかったので、少し残念だった。


「リード、この街には情報屋はあるのかな?」


情報屋……?ディルの口から耳慣れない言葉が出た。ミックが夕方散策して見た限りでは、そのような店はなかった。王都でも聞いたことがない。


「ああ、もちろん!俺達はここを拠点にすることが多いからよく使ってるぜ。明日誰かに案内させるよ」


不思議そうな顔をしているミックとシュートにベルが説明した。


「情報屋っていうのは、名前の通り、情報を扱っているお店。さすらい人は専ら売る側で利用するわ」


そう言われても、ミックにはいまいちピンとこない。さすらい人の他に、どんな時に誰が利用するのだろうか。


「怪しげな商売だな」


ミックはシュートの言うことにうんうんと頷いた。


「探偵業の人が使うことが多いんじゃないかしら」

「顧客情報は漏らさないから知らないけど、場合によっては裏稼業の人も使ってるかもね」


近くに座っていた鷹の塊の踊り子たちが事も無げに言ったが、つまりそれは犯罪の手助けをしているということだ。ミックのような近衛兵や一般人のシュートが知らないわけだ。


時折爆ぜる温かな火を囲みながら、夜が更けるまでミック達は鷹の塊の人々と交流を楽しんだ。





 次の日、朝日が昇ってすぐミックとベル、ディルはその日の鷹の塊の興行に出ない若者に案内されて、情報屋へと向かった。シュートは大図書館へ行き、引き続きガラの毒について調べることになった。


 シュートは開館と同時に図書館へ入れるよう、荘厳な入り口へと続く幅の広い階段に座った。入り口上のファサードには本と羽ペンがデザインされた紋章と、それを取り囲むように高名な学者たちが議論を交わす様子が彫られている。しかし、シュートはそちらに目をくれず、朝食を探して石畳をつついている鳩をぼんやりと眺めていた。


ラズは恐らく今日か明日あたりで目覚めるだろう。ただ、そうでなかった場合の手立ては、講じておかなくてはいけない。今回の件だけではなく、今後も役に立つはずだ。できる限りガラや毒については調べてまとめようとシュートは一人気合を入れた。ラズが怪我をしたのは自分のせいだ。使者の道でラズが足を怪我しなければ、自分がもっと魔法を使えていたら、恐らく怪我は免れただろう。


昼になったら一旦病院へ行ってラズの容態を確認することになっていたが、その時に悪化していないことを祈った。

 

 開館時間になり、シュートは昨日と同じように受付へ行き、地下の古い文献がしまわれている部屋へ案内してもらった。受付の担当者は昨日と同じだったので、すんなりと通してくれた。


地下の書庫にはシュートの他には誰もおらず、真っ暗だ。年季の入った紙の匂いが部屋を満たし、古代の知識が息をひそめる。


ランプの明かりを頼りに、昨日の続きの場所からまとめて両手で抱えるようにして本や書類を取り出し、部屋の中央に置かれている大きな一枚板の立派な机の上へドサッと置いた。


資料の中には神聖語で書かれているものもあった。日常生活ではほとんど使われることのない聖なる言葉。人々の名字と真名にはその神聖語が用いられている。名前の伝統は建国より遥か昔の神話の時代から、受け継がれ守られてきた。


神聖語を読むのに時間はかかったが、内容は理解できた。学生時代真面目に勉強しておいて良かったとシュートは心から思った。


蛇のガラについての文献には今のところ当たらないが、過去の様々なガラの被害については多く残されている。昔からエンの民にとっては、恐怖の対象であったことがよくわかる。


「うおわっ!」


一通り見終わって次の文献を取りに行こうと顔を上げて、シュートは思わず大声を上げた。


向かいに誰か座っている。フードを被っているがこちらを見ているのがわかる。机の上に一冊も本を置いていない。気味が悪い。


「な、何か用か?」


シュートに話しかけられた相手はフードを下ろした。


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