第17話 右か左か
ベルの言った通り、しばらく進むとところどころ天井に窓のように穴が開いており、
正確な場所はミックには分からないが、人が普段は通らない森や手つかずの草原の下を歩いているようだった。時折外から鳥や猿の鳴き声が聞こえた。
「なぁ、本当に家ぐらいでかい生き物がいることってあんのか?おとぎ話とか冒険物語にあるみたいにさ」
篝瓶を使う必要がなくなり、シュートの声は少し安心したような響きだ。
「私も実際に見たことはないけど、ばあさまや
蟹と聞くとあまり怖いイメージではないが、そのサイズだとさすがに敵わなそうだ。でも、上手く倒せたら蟹食べ放題だ、と自分の想像にミックはよだれが垂れないよう口元を引き締めた。
「恐らくそんなにおいしくないぞ」
ミックの顔を見ながらラズがため息混じりに言った。なぜばれた。
「この道、歩けなくはないが……入り口の水車小屋と床のレンガを見る限り、ずっと使われていなかったようだな」
ラズはボロボロになっているレンガの破片を軽く蹴飛ばした。よく見ると壁もひびが入っている。
夜は念の為見張りを立てていたが、何事もなく五日間歩き、このまま順調に行けば目的地のマルビナに今日中につくというところまで来た。結果的にこの使者の道を使って良かったのではないかと、シュートと話しながらミックは考えた。
「お医者さんって超難関資格だよね?」
「って言われてるけど、まあ必要な勉強しとけば取れるぜ」
「一日どのくらい勉強するの?」
シュートは会話をしながらも掌で氷の塊を作り続けていた。
「高等教育の4年間は、起きている間はずっとかな」
「う、私にはちょっと無理かな……」
想像以上のハードな回答にミックは眩暈がしたと同時にシュートに尊敬の念を抱いた。シュートは直径十センチメートル程度の氷なら眉間にしわを寄せるほど力まなくても作れるようになっていた。できた氷を投げてみると、氷玉が当たったところを中心に周囲一メートルほどを凍らせた。白く冷気が立ち上る。
話に夢中になっていたミックはすぐ前を歩いていたラズが立ち止まったのに気付かずぶつかった。
「わっ、ごめん!どうしたの?」
ラズの視線の先……道が二股にわかれていた。
先頭のディルが例の石が入った巾着を取り出し、ベルと一緒に方向を確認したところ、右側の道の方向を指していた。しかし、右の道は下り坂だ。ミックが覗き込んでみると左の道は起伏がなさそうだが、明かり取りの窓が見える範囲にはなく暗かった。どちらに進むべきか、判断が難しい。
「ベル、祖母から何か聞いていないのか?」
ベルは眉間にしわを寄せてラズに首を振った。手がかりなしだ。ぽっかりと開いた二つの入り口は、何も言わない。
一行が立ち往生していると、カタカタカタ、とレンガのかけらが鳴り出した。地面が微かに揺れている。揺れは段々と酷くなってきて、立っているのもやっとな程激しくなった。壁のひびがピシッと音を立てて広がり出した。ミックはそれを凝視する。すぐ隣に立つシュートが息を飲む音がする。
ひびが天井まで達した時、鼓膜を殴るような大きな音を立ててトンネルは崩れだした。
「走れ!!」
ディルの叫び声で全員が二股に分かれている通路へ走り出した。轟音が腹の底まで響く。ベルとディルが右側の通路に行くのが見えた。クリフは右側の通路に手綱を持つミックを引っ張るように走ってくれていたが、共倒れになるといけないと思い、ミックは手綱を手放した。すぐ傍にミックの頭程の大きさの岩が落ちる。
ミックのスピードでは、もう瓦礫に阻まれてディル達は追えない。やむを得ず、夢中で左側に駆け込んだ。土の匂いが鼻に充満する。
ミックが通路に駆け込んですぐ、トンネルの崩落は収まった。静けさの中、自分の乱れた呼吸の音だけが聞こえた。仲間は大丈夫かと後ろを振り返ったが、土煙で何も見えなかった。
視界がようやくはっきりしてきたところで、ミックは自分の後方に倒れている人影を見つけた。
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