第四章 使者の道

第15話 鳶の塊(かい)

「お……もう朝か。おはよう!ってなんでベルとミックもいるんだ?」


シュートの爽やかな挨拶。何から話そうかな、操られてたことは言わないべきかな、というかここは私よりディルとかラズの方が適任か、等とミックが考えているうちに、シュートがまた口を開いた。


「何でそんな難しそうな顔してんだよ。あ!もしかして……」


シュートもさすがに全員があつまっているのを見て、異常事態が起きたことは察したようだ。火事が起きたことも思い出しただろうか。


「宿の主人に朝飯は代金に含まれてないから出せない、とか言われたのか?」

 

シュートののんきな声に、ミックはふふっと思わず笑ってしまった。ディルとベルも呆れたような、安心したかのような笑顔だ。ラズは小刻みに肩を震わせて、うつむき口元を手で覆っている。好奇心に駆られミックは覗き込んでみたが、顔を背けられてしまった。シュートは不思議そうな顔で、みんなを見回していた。





 朝食を食べながら(代金にはきちんと含まれていた)、昨夜の出来事を整理してディルがシュートに話して聞かせた。


シュートはまた自分だけ役に立てなかったどころか、操られていたことに肩を落とした。しかし、今回はどうしようもなかったのではないかとミックは思ったし、実際そうシュートに伝えた。シュートの向上心が裏目に出てしまっただけで、本人の力量や気持ちの問題ではない。


「とりあえず、引き続き基礎訓練を俺は頑張るよ」


シュートはじっと、自分の掌を見つめた。


「さて、このあとマルビナへ出発するんだけど、これからの道をどうしようか」


ディルが仲間の顔を見つめた。


もしも、見張られているのであれば、今後街道を行くのは危険だ。歩きにくいが山の中を進んでいく方が、姿はくらましやすい。しかし、それではマルビナまで、倍ほどの日数を要するかもしれない。


「山道を行くしかないだろう。敵の位置も数もこちらは分からない。身を隠しながら行くのが妥当だ」


ラズの意見は正論だ。


しかし、シュートは大丈夫だろうか。ここまでの旅でも大分疲れている。山道を何日も歩き続けることができるのだろうか、と心配になったのはミックだけではなかった。


「ん?…ディル、ちょっと貸して」


ベルはディルが持っていた地図を自分の前に広げ、注意深く眺めた。何かを思い出そうとしているようだ。表情は険しい。と思ったらにっこりと笑顔になった。


「ばあさまに教えてもらったことがあるのを思い出せたわ。使者の道がある。この町からマルビナのごく近くまで」

「使者の道?」


ミックとシュートが同時に尋ねた。


「王国がまだ統一されてなくて、人ともガラとも今よりずっと沢山争っていた時代に、陽月家、今の王族が密偵の組織を作ったの」

「おお、そんな昔までさかのぼるのか。すげぇな」


話のスケールが想像より大きく、シュートが驚きを素直に吐く。ベルは笑顔のまま頷いた。


「その組織は秘密裏に国中を移動して情報を集めるために、独自の移動ルートを開拓した。それが使者の道よ」


ベルの後をディルが続けた。


「世の中が平和になって密偵の数がそんなに必要じゃなくなった時、王からめいを解かれたものの中に定住しないで各地を移動し続けた人達がいた」

「それが貴様らの祖先か?」


ご名答、とディルはラズに笑顔で頷く。


興味深い話だとミックは目を輝かせた。この国が平定されてから、およそ千三百年。それ以前の出来事は、学校では「混沌とした世界」としか教わらない。


さすらい人の起源がそんな話だとは思いもしなかった。さすらい人はもしかすると、ミックたちが知らない歴史も知っているのかもしれない。しかし、そんな前に作られたという使者の道は今でも通れるのだろうか。


「その道は、今でも使われているのか?」


恐らくラズもミックと同じようなことを考えているのだろう。使われなくなって久しい道は、最早道ではない可能性がある。


「そこが賭けなのよ」


さすらい人にも、いくつかのグループがある。そのグループをかいと呼ぶ。ベルとディルが属しているのはとびの塊という。鳶の塊はベルとディルが知る限りその道を通ったことはない。他の塊が使っている可能性はあるが、確証はない。行ってみたら通れなかったり、ガラや獰猛な動物がいたりするかもしれない。ただ、もし今も通行可能なら、旅程は短くマルビナまで行ける。しかも、敵の目を避けながら。


「……というわけなんだけど、どうする?」


ディルはまたみんなを見つめた。ラズが口を開いた。


「その使者の道とやらの入り口はどこにある?様子だけでも見てみたらどうだ」

 




 厩でクリフを引き取り、ベルに案内されて一行が来たのは、人通りのない町外れのボロボロの水車小屋だった。水車は回っていない。かろうじて川だったであろう溝が確認出来るが、干上がってかなりの年月が経ったと思われる。


「あの中に、隠し扉があって地下道に続いてるはずよ。出口はマルビナの近くの井戸」


小屋は入るのさえためらわれる程の朽ち果てようだ。これはしばらく誰も使っていないのでは、と誰もが思ったが、とりあえず中を見てみることにした。


ドアに鍵は掛かっておらず、軋みながらも簡単に開いた。中は普通の水車小屋だ。一体どこに隠し扉があるのだろうか。


「どこかにこれと同じマークがあるはずよ」


ベルは左の二の腕にある入れ墨を見せた。鳥のシルエットがデザインされている。

 

ぱっと見回しただけでは見当たらなかった。が、部屋の隅に置かれていた物入れの中にミックはそれを見つけ、胸が高鳴った。そこをディルがぐっと押した。押された場所こぶし大程度が少しへこみ、小屋全体がガタガタと揺れだした。ミックたちはよろめき咄嗟に壁や窓枠につかまる。天井からは埃が舞い落ちる。


 

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