第10話 夜襲

 ミックははっと目を覚ましたが、まだ真っ暗だった。夜明けまではまだ時間がありそうだ。こんな時間に目が覚めるのは見張りをしていた名残だろうか。


「ミック、起きてる?」


隣の窓よりのベッドで、ベルが起き上がった。声が緊張している。


「今起きたよ。どうしたの?」

「何かおかしいの。胸騒ぎが…。」

「伏せて!!」


何かが窓の外から飛んでくるのが見え、武器を手に取り、ベルの上に覆いかぶさった。


ベルに触れるか触れないか、その瞬間に部屋の窓がパリンと割れた。狙撃ではなかった。何かが投げ込まれた。


「火炎瓶…!」


窓の外を警戒しつつ、ミックとベルは火が燃え広がる前に布団を被せその上から汲み置いた水をぶっかけた。


「消火できたみたいね。あっちの部屋は大丈夫かしら?」


ベルの声音からは緊張感がなくならない。ミックが様子を見に行こうとドアを開けると、ちょうどラズが来ていた。勢い余って、ミックは額をラズの顎にぶつけた。


「いっ…貴様、気をつけろ!」

「ったー!ごめん!それより、状況は?」


ラズは剣を抜いていた。


「火炎瓶を投げ込まれたが、消火した。」


同じだ。何者かが襲ってきている。ミックたちを狙っているのか、それとも別の目的なのか、わからない。ディルとシュートは他の部屋にも投げ込まれている可能性を考えて、宿屋の主人を起こしに行ったそうだ。


「ここから出ましょ!隣が燃えてる!!」


窓から慎重に外の様子をうかがっていたベルが叫んだ。隣も宿屋だ。



 


 外へ出るとディル、シュート、それに宿屋の主人と宿泊客と思われる人々がいた。隣の宿屋にいたと思われる人々もいた。町人たちが協力して、消火活動に当たっている。


「ラズ!良かった。姉さんとミックも無事だね。」


ミックたちを見つけてディルは呼びかけた。


ディルによるとこれはガラの仕業らしい。隣の宿屋から慌てて避難した人が、目撃したそうだ。宿の前で怪しい動きをしている者がいると思って近づいたら、燃え盛る炎に照らされているにも関わらず影ができていなかったそうだ。


「関門であのじいさん、チェックしてたんじゃなかったのかよ。」


シュートはカタカタと震えている。確かにそうだ。この町は高い塀や自然の地形などを利用して外からは簡単に入れないようになっている。ガラが町中にいるとなると、関門を突破したということになる。


「じいさん…?門は三つあるけど全部町の若いもんが管理してたはずだよ。」


シュートの言葉を近くで聞いていた宿屋の主人が訝しげな顔をした。


「え…東の関門の門番はおじいさんだったよ。ガラが出るって噂があるから、私達がそうでないことを確認してた。」


ミックの言葉に旅の一行はうんうんと同意した。しかし、宿屋の主人は眉間にシワを作って言った。


「ガラが出る?そんな話はきいてないぞ。それに、東の門番は俺の甥っ子で、最近担当になったばかりだ。絶対に、じいさんではない。」


ミック達は顔を見合わせた。




 

 茂道(しげみち)は打ち合わせていた通り、宿屋から少し離れた路地へと入り込んだ。フードを目深に被った約束の相手がいた。


「予定通り、青い髪に翡翠色の目の女がいる部屋とその周辺に投げ込んで来ました。」


深く一礼して報告した。


「ご苦労さま。まだ残ってるよね?」

「はい、あと三、四個ですが。」


茂道は羽織っているコートを広げてみせた。そこには火炎瓶がぶら下がっていた。


「じゃ、あとは適当なところに投げ入れておいて。終わったら、お前は好きにしていい。」


好きにしていい…ということは人を襲っても良いのか。そろそろ魔力を調達したいところだった。茂道は喜び勇んで路地をあとにした。


「で、環(たまき)はあと五分くらいしたら、魔法を発動だ。」


路地の更に奥にいた大きな葛籠を持った男にフードの人物は言った。


「はっ。しかし、お言葉ですが四、五人程にしか、かからないと思われます…。」

「構わないよ。別に町を潰しに来たわけじゃない。ちょっと混乱させられればいいんだ。発動後はお前も好きにしな。」


承知しました、と深々と頭を下げて環は路地を出ていった。




 

 一番隊ではとにかく前に出るように教わるのだろうか。宿屋の主人の話しを聞き終わるとすぐに、ラズは飛び出していってしまった。


先程の話が本当ならば、門番の老人は少なくとも味方ではない。ガラという可能性もある。眼鏡をかけていたのは、自分の目の色を誤魔化すためだったのかもしれない。しかし、目的がわからない。なぜ門番のふりをしていたのか。


「っ!…シュート!?」


考え込んでいたミックに、シュートが突然殴りかかってきた。ガードできたが、力加減からして本気だ。


「どうしたの?シュート!!」


ミックの声が聞こえていないのか、また襲ってきた。慌てて避けたが、何が何やらわからない。そんなに怒らせるようなことしたっけ?と攻撃をかわしながらミックは考えた。いや、そもそも怒らせるようなことをしたとして、シュートがこんな風に暴力を振るうはずがない。まだ一週間程しか一緒にいないが、その点についてはミックは自信があった。

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