終章

第218話 長い話のその後で……

 エディットの長い話が終わった。


「そ、それじゃ……エディットは……架純ちゃんだったのかい?」


 2人で並んでベンチに座り、隣にいるエディットの瞳を覗き込むように尋ねた。


「はい、そうです」


 エディットは顔を赤らめながら、僕をじっと見上げる。

 今の僕はエディットのお陰で完全に失っていた過去の記憶も全て取り戻していた。


「そうだ……よく見れば……架純ちゃんに面影が良く似ている……」


 気付けばエディットの頬に触れていた。


「アドルフ様……」


 僕より2歳年下で、儚げだった架純ちゃん。手を離せば何処かへ行ってしまいそうで、付き合っていた頃も僕はいつもどこか不安だった。


 だから、自分がどんなに忙しくても……必ず毎日時間を作って会っていた。目を離したすきに消えてしまいそうだったから。


 それだけ……架純ちゃんは僕にとって大切な彼女だった。




「ごめん……エディット……」


 両手でエディットの頬を包み込みながら謝った。


「何を謝るのですか?」


「何をって……今迄全てのことについてだよ。僕にはエディットに謝ることしか無いよ。前世の時だって……架純ちゃんが心臓が悪かったことなんか何も気付かなくて……無理をさせてしまっていたかもしれない。それにいつ、心臓がとまってしまうか分からない、不安な気持ちを抱えていたなんてことも知りもしなかったし」


 思わず俯くと、僕の手にエディットが触れてきた。


「アドルフ様。そんなこと気付かなくて当然です。だって私は……氷室先輩とお付合いしている頃は普通の恋人同士でいたかったんです。その時だけは心臓の病気のことを忘れられていたから……本当に感謝しています」


「エディット……」


「むしろ、謝りたいのは私の方です。一緒に行った手芸店で買った毛糸でセータを編んでクリスマスにプレゼントしたかったです。日本を発つ時……最後に先輩にお別れをしたかったです。だって……まさか、自分が……手術中に……し、死んでしまうとは思っていなかったから……元気な姿で……戻って来れると信じていたから……」


 エディットの目に、みるみるうちに涙が浮かび……頬を伝って流れていく。


 その涙を自分の指で拭うと、エディットを強く抱きしめた。


「架純ちゃんは何も悪くないよ。もし逆の立場だったら僕だって同じことをしていたよ。病気のことは黙っていたし、アメリカに心臓の手術を受けに行くことだって黙っていたよ。だって、僕達はまだあの時は高校生だったんだから」


「アドルフ様……」


 エディットが僕の腕の中で泣いている。彼女の熱い涙が僕にも伝わってくる。


「だけど……本当に運命ってあるんだな……」


「え……?」


 抱きしめていたエディットが顔を上げて僕を見る。


「日本とは……いや、地球とは全く異なる異世界で僕達は生まれ変わって……こうして再びまた巡り合うことが出来たんだから。……運命の相手としてね」


「アドルフ様……」


 すると、エディットは目を閉じた。


「エディット……」


 僕は迷うこと無く、顔を近づけ……エディットの唇にキスをした。



 それは、この世界で……2人にとって初めてのキスだった――。

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