婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第216話 覚えていますか？

　アドルフ様が馬に蹴られて目を覚まさなくなってから既に４日が経過していた。

　お医者様の話では、このままではこの先も目を覚まさないかもしれないと言われてた。

　私は毎日毎日学校が終わった後はアドルフ様の元へ直行した。

　おじ様やおば様は毎日訪ねてくる私を迷惑がることもなく、温かく迎え入れてくれた――。

　そして今日も私はアドルフ様のお部屋を訪ねていた。

「アドルフ様、今日も来てしまいました。毎日訪ねて来られて、さぞ迷惑に思っているかもしれませんね？」

　アドルフ様の眠るベッドの側に椅子を寄せると、いつものように私は話しかけた。こんなことをしてもアドルフ様に伝わっていないのは分かっていた。それでも話しかけずにはいられなかった。

　だって、アドルフ様がこんな状況で無ければ……私は側にいることも出来ないから。

「今日は学校のお迎えに来てもらうときに、温室からお花を持ってきて貰いました。カトレアのお花ですよ？綺麗だと思いませんか？」

　メイドさんから借りた花瓶に白いカトレアを飾りながら私は眠っているアドルフ様に声を掛け続ける。

「アドルフ様……いえ、氷室先輩。覚えていますか？２人で最初に行ったデートのこと。あの時、一緒に動物園と植物園に行きましたよね？それで帰りに初デートの記念にって……私にカトレアの花をプレゼントしてくれたこと……。先輩は、母子家庭でアルバイト代を生活費に……充てていたのに、お金に苦労していたのに……わ、私の為にプレゼントを……っ」

　私の目に涙が浮かぶ。

「私……そ、そのお花をずっと大切にしたいと……思ったのでドライフラワーにして部屋に飾っていたんですよ……？」

　ポタリと私の涙がアドルフ様の枕元に落ちる。

「お、お願いです。目を覚まして下さい……もし、目が覚めたのなら……アドルフ様の望み通りに致しますから……二度と目の前に現れるなと言うなら……その通りにしますから……」

　そして、私は少しの間……眠っているアドルフ様に縋り付いて泣いた――。

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「大丈夫なの？エディットさん」

　アドルフ様の面会を終え、おば様の待つリビングに行くと心配そうな顔で私を出迎えてくれた。

「はい……大丈夫……です……」

「目が赤いわ。またアドフルの部屋で泣いていたのね？」

　おば様が私を抱きしめてきた。

「本当にごめんなさい。アドルフのせいで貴女をこんなに苦しめてしまって。突然乱暴者になったかと思えば、今度は馬に蹴られて昏睡してしまうなんて……」

　おば様が私を抱きしめたまま苦しげに話しかけてくる。

「おば様……」

「エディットさん。本当にアドルフと婚約解消する気はないの？あの子は貴女に酷い態度を取って遠ざけようとしてしているわ。エディットさんはとても可愛らしくて気立ても良いのだから、もっと素敵な婚約者がみつかるかもしれないわよ？」

「いいえ、おば様……」

　私は首を振った。

「私はアドルフ様でなければ……嫌なのです。アドルフ様は私の運命の人だから……」

　そうですよね？氷室先輩。

　だから私達は……この世界で生まれ変わって再会したのですよね……？

　神様、お願いします。どうか、アドルフ様の目を覚まさせて下さい……。

　おば様の腕の中で私は神様に祈った。

　そして、翌日。

　私の祈りが通じたのか……奇跡が起きた――。