第178話 それぞれのパートナー

 エディットと手を取り合って馬車から降りると、周囲にいる学生たちが一斉に注目した。

 それはそうだろう。何しろエディットはこの世界のヒロインで、とても綺麗だから皆の注目を浴びるのは当然だ。

 

 そんなヒロインの隣を僕なんかが一緒にいていいのだろうか……?

 するとエディットが僕だけに聞こえるような小さな声で話しかけてきた。


「見て下さい、アドルフ様。他の女子学生達が皆アドルフ様を見ていますよ?」


「え?!何を言ってるんだい?そんなはず無いよ。それよりエディットの方こそ男子学生たちの注目を浴びているじゃないか」



「そうでしょうか……?」


 エディットは首を傾げる。

 彼女は全く気付いていないのだ。自分がどれほど人目を引く程の美貌をもっているかなんて。

 

 その時――。



「アドルフーッ!!」

「ヴァレンシュタイン!!」


突然、入口の方から大きな声で呼びかけられた。

振り向くと、ドレスアップしたクラスメイト達がこちらへ駆け寄ってくる姿が目に入る。


「皆!」



駆け寄ってきた20名ほどのクラスメイト達が一斉に僕にお礼を言ってきた。


「ありがとう!お前は恩人だよ!」

「貴方のお陰で追試が通ったわ!」

「凄いだろう?全員追試に受かったんだぜ!」

「学院側も驚いていたのよ?」


 勿論、クラスメイトたちの中にはラモンとエミリオの姿もある。


「良かった……皆受かったんだね」


 僕は胸をなでおろした。クラスメイト達が追試に受かったかどうかを聞かされていなかったので、気になっていたからだ。


「ああ、お陰でこうして記念式典パーティーに出ることが出来たのさ」


 ラモンがヴィクトリアの肩を抱きながら僕に教えてくれた。


「俺たちもパートナーが見つかったしな?」

 

 エミリオが腕を組んでいる女子学生はエレナだ。


「あれ……?もしかして皆……」


 よく見ると追試組だったクラスメイト達は全員パートナー同士になっている。


「そうなのよ、追試試験の勉強を頑張っているうちにね……?」


 エレナが言いながら、エミリオを見る。


「ごめんなさいね。エディットさん。今迄色々意地悪して。やっぱりあなた達はお似合いね」


 ヴィクトリアがエディットに声を掛けた。


「いえ、お2人の方こそ、お似合いです」


 はにかみながら返事をするエディット。

 

「よし、それじゃ皆会場に入ろうぜ!」


 ラモンの言葉に、集まってきたクラスメイト達はぞろぞろと再び入り口の方へ向かって戻っていく。


「エディット、僕達も……行こうか?」


隣にいる彼女に声を掛けた。


「はい、アドルフ様。行きましょう」


僕を見上げて笑みを浮かべるエディットに胸の鼓動が高鳴る。


そして僕とエディットは腕を組んで、オレンジ色にユラユラと揺れるガス燈に照らされた会場へと入って行った。



ようやく今夜……エディットに思いを告げられるんだ。


少しの緊張と不安な気持ちを抱えながら、僕は隣を歩くエディットの横顔をそっと見つめた――。



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