婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第174話 懐かしいあの頃の夢

　我が家に帰宅したのは午後7時を過ぎていた。

「ただいま戻りました……」

　リビングに顔を覗かせると両親が揃って僕の帰りを待っていた。

「遅かったじゃないか、アドルフ」

「まさか今までエディットさんを連れ回していたの？」

　父と母が交互に尋ねてくる。

「いえ、違いますよ。エディットを送り届けた後、町に戻ったんです」

　なるべく両親に持っている物を見られないように隠しながら返事をした。

「そうか？ならいいが……ところでアドルフ。一体後ろに何を隠しているんだ？」

「え？！」

　父の言葉に慌てる。そ、そんな扉から顔を覗かせているだけなのに……気づかれたのだろうか？

「あ、あの……こ、これは……」

「まぁ、いいじゃありませんか。あなた。明日は記念式典パーティーでエディットと2人で参加するのですから、彼女へのプレゼントなのでしょう？そうよね？アドルフ」

　母が笑いなが僕を見ている。

「え、ええ。そう……です」

　すべて見透かされていたことが恥ずかしくて、つい顔が赤くなってしまった。

「それではすぐにプレゼントを置いてきなさい。我々はダイニングルームで待っているから」

「はい、すぐに行きますね」

　父に促され、僕はエディットへのプレゼントを持って急いで部屋へ戻った。途中すれ違った何人かの使用人の人達は僕を見て一瞬ギョッとした表情を浮かべ、挨拶してくる。

「アドルフ様。お帰りなさいませ」

「うん。ただいま」

　挨拶を返しながら思った。

　やっぱり、僕が持っていると違和感を感じるのだろうか……？

　その後、自室に戻りエディットへのプレゼントを置くと、急いでダイニングルームに向かった。

　食事の最中は両親と進学についての話をした。両親は僕が著しく成績が急上昇したので、この様子だと学院の付属大学の推薦を取れるかも知れないだろうとのことだった。

　エディットも付属の大学へ進学するのだろうか……？

そんなことを考えながら両親との食事を終えた――。

＊＊＊＊

　部屋に戻ると、エディットへ贈るプレゼントをじっと見つめた。

「エディット……喜んでくれるかな」

　前世でもこれはプレゼントした事は無いけれども、明日エディットへ渡すプレゼントとしては一番これが最適に思える。

「明日が楽しみだな……よし、今夜は早めに寝ることにしよう！」

　そして僕は早速入浴の準備を始めた――。

　その夜、僕は夢を見た。

　懐かしい……日本の高校生だった頃の夢。

　それは彼女に告白されたときの夢だった。

　彼女はうつむき加減に……真っ赤な顔で僕に言う。

『……好きです。ど、どうか……私と付き合って下さい』

　気の弱い彼女は肩を震わせながらギュッと目を閉じて、僕の返事を待っている。

『うん、こちらこそ宜しく』

　すると彼女は顔を上げて僕を見る。

　余程嬉しかったのか、その目は涙目になっていた。

『あ、ありがとう……ございます……！』

　そして彼女は嬉しそうに笑みを浮かべて僕を見た――。