第165話 緊張する元・悪役令息
その後の2日間……僕は図書室に籠もり、本を読みふけった。
そして、いよいよ今日から試験休みが終わって学院が始まる。やっとエディットと会えるんだ……。
****
いつもと同じように外に出てエディットが馬車で迎えに来るのをドキドキしながら待っていた。
「早く来ないかな……」
フットマンのジミーからは外で待つのはまだ早いのでは無いですか?と言われた。けれど、それでも構わず外に出てしまった為にかれこれ10分近く待っている。
「それにしても、こんなにエディットに会えるのを楽しみに思う気持ちは初めてだな……」
思わずポツリと口にしたとき、遠くに見える門を潜り抜けて真っ白な馬車がこちらへ向かって来るのが見えた。
エディットの馬車だ!はやる気持ちを抑えながら、馬車が近付いてくるのをじっと待った。
「おはようございます」
馬車が目の前に止まると、まず御者のギルバートさんが帽子を取って挨拶してきた。
「おはようございます」
僕も挨拶を返すと、馬車の扉が開かれた。
「おはようございます、アドルフ様」
笑顔で挨拶をしてくるエディットは……やっぱり綺麗だった――。
****
向かい側の席に座るとすぐにエディットに話しかけた。
「久しぶりだね。元気にしていた?」
「え?ええ。元気にしていました」
一瞬、キョトンとした目で僕を見たエディットはすぐに笑みを浮かべて返事をしてくれた。
う〜ん……。5日間会えなかっただけで、久しぶりと言う言葉はふさわしくなかっただろうか?
「今朝は緊張しながらエディットを待っていたんだよ?」
気を取り直し、どれだけエディットに会えるのを楽しみにしていたかを言葉で表すことにした。
「そうですよね。緊張するのも無理はないと思います」
頷くエディットに期待で胸が膨らむ。ひょっとして、僕と同じ気持ちで……?
けれどエディットの口から出てきたのは意外な言葉だった。
「恐らく、本日成績結果が張り出されると思いますから緊張されるのは無理ないと思います」
「え?!きょ、今日?!」
「はい。毎年そうでしたから……あ、すみません。確かアドルフ様は記憶が無かったのですよね……?お伝えせずに申し訳ございませんでした」
「それは別に謝ることは無いよ。だけど……今日だったのか……ますます緊張してきたな……」
「アドルフ様ならきっと大丈夫ですよ。ですが……先程は何で緊張されていたのですか?」
「ううん、何でも無いよ。登校するのは5日ぶりだから緊張するなって思っただけだから」
まさか、エディットと久しぶりに会えるから緊張していたなんて今頃言えるはずは無かった。
「そうですね。確かに少し緊張しますよね」
「うん、ましてや今日試験結果が出るなら尚更だよ。これでクラス編成もどうなるか決まるんだよね?」
「はい、そうです」
試験結果に少しだけ不安がこみ上げてきた。
「エディット……」
「どうしましたか?」
「もし、クラス編成でAクラスになれなかったら……ごめんね」
万一のことを考えて、今から謝っておこう。
「何を謝られるのですか?もし、仮にアドルフ様がAクラスになれなかったとしても私はどれほどアドルフ様が努力されたかを知っています。その時はまた次回考えればいいのですから。でも……きっと大丈夫ですよ?」
そしてエディットは僕に笑顔を向けてくれた。
「ありがとう、エディット」
そうだ、悩むのは結果を見た後でいい。自分を信じるんだ。
今迄、やれるだけのことは全てやってきたのだから――。
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