第150話 ヒロインの心の内が知りたくて

 2人で向かい合わせに座り、僕とエディットは生物学の勉強をしていた。


 いつものようにエディットが問題を出して僕が答えるという、いわゆる一問一答式の勉強方法だ。


 幸いなことに、この世界の生物学は日本人だった時に学んでいた授業内容と左程違いは無かったので余裕だった。

 

 エディットが出した20問の問題を全て答え終えたところで、丁度メイドさんがお茶を運んできてくれたので僕たちは休憩をとることにした。




「それにしてもアドルフ様はやはり賢い方ですね」


エディットが紅茶を飲むと話しかけて来た。


「そうかな?でも理数系なら大丈夫そうかな?勉強内容は殆どあっちと変わりないし」


「え?何のことですか?」


 首を傾げるエディット。

 しまった。つい、うっかり日本の頃の話をしそうになってしまった。


「いや、何でもないよ。言葉の綾だから気にしないでいいからね。だけど、それを言

うなら頭がいいのはエディットの方だよ。何しろ学年で一番成績が優秀じゃないか」


 コーヒーを飲みながら自分の思っていることをエディットに伝えると、意外な台詞がエディットの口から飛び出した。


「いいえ、私はただ勉強を頑張っているだけですから。少しでも……追いつきたくて……」


 そしてエディットは頬を赤く染めて、僕をじっと見つめて来る。


「え?」


 その言葉に一瞬耳を疑った。一体エディットは誰のことを言っているのだろう?

顔を赤らめてこちらを見つめて来るということは……多分その人物は僕のことだと考えて良いはずだ。

 

 だけど、エディット程の才女が頭が良くて憧れていた……等と言う事は僕ではないはずだ。何故なら今の僕はAクラスのエディットとは違い、出来の良くないCクラスに所属しているのだから。

それとも記憶が無いけど子供の頃の僕は頭が良かったようだから、その時のことだろうか?

 もしくは別の誰かか?まさかエディットには好きな人がいたのだろうか?


 どうしよう……ここは確認するべきだろうか……?

 けれど、その考えはすぐに否定した。

 

 駄目だ。今は試験に集中しよう。

 エディットと一緒に記念式典パーティーに参加すると決めたのだから。

 それにきっと好きな人は過去の話に決まっている。そうじゃなければ……僕をそんな目で見つめてくるはずはないのだから……。


 エディットが笑みを浮かべながら僕をじっと見つめてくる。その視線が照れくさくて思わず顔が赤面しそうになり……誤魔化すために苦いコーヒーを口にした――。




****


 昼食は両親と僕とエディットの4人で食事をした。てっきり、ブラッドリーのことが会話に上るのではないかと思ったけれどそれはなかった。

 ひょっとして両親は僕とエディットの為に気を使って彼の話をしなかったのかもしれない……。



 午後、再び僕とエディットはサンルームで勉強をしていた。

2人で計算問題を解きながら、向かい側に座るエディットの様子を伺った。


 エディットの口からブラッドリーの話は出てこない。もう彼のことは気にならないのだろうか?


 エディットの心の内が知りたい……。


 その時、ふとエディットが顔を上げて僕を見た。


「どうかしましたか?アドルフ様?」


「うん、エディットは勉強頑張ってるな〜と思ってね」


「はい。記念式典パーティーに参加したいですから。でもアドルフ様も頑張ってらっしゃいますよ?」


「ありがとう、エディット」


 そうだ、ブラッドリーのことは忘れて、今は勉強に集中しよう。

 

 僕は再び計算問題に取り組んだ――。





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