第85話 悪友からの意外な話
「ああ、申し込みならしたぞ?今から大体1ヶ月前位じゃないか?」
ブラッドリーはいつもと変わらぬ口調でサラリと言った。
「やっぱり……」
何故、ブラッドリーはエディットに記念式典パーティーの申込みをしたのだろう?
彼女は僕の婚約者なのに……。
思わずブラッドリーをチラリとみると、今度は不快そうな顔を浮かべて僕を指さしてきた。
「おい、お前なぁ……何だよ、その顔は。大体、お前の方から言い出したことだろう?『俺は記念式典パーティーにエディットと参加するつもりはない。パートナーがいないならお前から誘ってみろよ』って。だから俺はお前に聞いたんだ。『本当に誘ってもいいのか』って。そしたら『勿論だ』と言って頷いたのは何処のどいつだよ」
「えっ?!そ、そうだったのか?!」
知らなかった!まさか……エディットをブラッドリーに薦めたのはアドルフ自身だったなんて!
「その顔から見ると、やっぱり完全に忘れてるみたいだな?って言うか、お前馬に蹴られてから本当に別人みたいになっちまったもんな。記憶喪失になったんだっけ?けれど記憶喪失と言うより、今のお前はまるで別の人間みたいだ」
「え?」
別の人間…。
その言葉にドキリとする。
「まぁ、もっともエディットにはあっさり断られたけどな。婚約者がいるのに、別の人をパートナーには出来ませんって」
「そ、そうだったのか……」
その言葉にホッとする自分がいた。それと同時に、エディットにもブラッドリーに対しても酷い罪悪感を抱いてしまった。
「何だか……ごめん。ブラッドリー」
「そうか?なら俺に悪いって思う気持ちがあるなら、今日こそ式典に着るスーツをお前にも探して貰うからな?」
「うん、分かったよ」
「よし、その言葉忘れるなよ?その代わり俺もお前に似合うスーツを探してやるよ。エディットと同じ水色のスーツにするんだろう?」
「うん、そうだよ」
「よし、任せろ!お互い格好いいスーツを選ぼうな?」
そしてブラッドリーは快活に笑ったので、僕も彼に合わせて笑った。
何故、アドルフはブラッドリーにエディットをパートナーにするように薦めたのか…少しの疑問を持ちながら――。
****
沢山の店が立ち並ぶ繁華街で僕達は辻馬車を降りると、早速スーツ専門店に向かった。
「どうだ?アドルフ」
真っ赤なタキシードに着替えたブラッドリーが試着室から出てきた。
「……」
その姿に呆れて口がポカンと開いてしまう。
「何だ?あまりにも似合いすぎて言葉を失ってしまったか?俺の赤毛に合わせて、赤いスーツにしてみたんだ」
得意げに語るブラッドリーだけど、その姿はまるで……。
「お笑い芸人かサンタみたいだ……」
「何だ?オワライゲイニンだとか、サンタだとか…?お前、何言ってるんだ?」
首を傾げるブラッドリー。
しまった!この世界には当然お笑い芸人もいないし、サンタクロースの存在も無い世界だった!
「い、いや。何でも無いよ。とにかくブラッドリー」
ゴホンと咳払いすると僕はブラッドリーを上から下まで見渡した。
「赤いスーツは良くないよ。ブラッドリーの赤い髪には…うん、そうだな。紺色が似合いそうだ」
「紺色かぁ…何だか地味だな……」
ブラッドリーは不服なのか、試着室の鏡に映る自分を見ている。
「いいからいいから。ほら、探しに行こう!」
「わ、分かったよ」
そして僕はブラッドリーを連れて紺色のスーツ売り場へ向かった――。
**
2時間後――
僕達は満足した気分でスーツ専門店を出た。
「良かったな。お互い良い買い物が出来て」
ブラッドリーは機嫌良さそうに声を掛けてくる。
「うん、そうだね。でもやっぱり紺色のスーツが合っていただろう?」
「そうだな、アドルフの言う通りだった。お前も水色のスーツ似合ってたぞ?」
「ありがとう、スーツの出来上がりも式典に間に合って良かったよ」
「出来上がりは10日後かぁ…楽しみだな」
「そうだね。それでブラッドリー。そろそろお昼だけど、この後はどうする?」
前を見ながらブラッドリーに尋ねた。
「……」
けれど返事がない。
「ブラッドリー?どうかしたのか?」
振り向くと、ブラッドリーは立ち止まって道路を挟んだ反対側の通りを見つめていた。
「ブラッドリー?」
一体何を見つめているのだろう?
「……なぁ、アドルフ」
突然ブラッドリーが口を開いた。
「何?」
「今日……エディットはどうしてるんだ?」
「エディット?彼女ならクラスメイトの女子学生と式典のドレスを見に行くと言ってたけど……」
「2人だけでか?」
「ブラッドリ―?一体何を……え?」
その時、僕達は見た。
エディットがアリスと王子と一緒に街を歩く姿を――。
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