第57話 悪友たちに絡まれる悪役令息
「お、おはよう……」
ズキズキと痛む身体を引きずって、授業開始の何とか5分前に教室へ辿り着くことが出来た。
「お?今日も真面目に登校してきたのか?偉いじゃないか」
着席する僕にブラッドリーはニヤニヤしながら声を掛けて来た。
「うん、まあね。勉強は学生の本文だからね」
僕の話し方にまだ慣れないのか、ラモンが大げさに驚いた。
「ま、まじかよっ!お前がそんな台詞を言うなんて、入学以来初めてだぞ!」
「鳥肌が立ったじゃないかよっ!」
エミリオが袖をまくって、自分の腕に鳥肌が立っているのをわざわざ見せて来た。
「な?アドルフはおかしくなっちまっただろう?こいつ、馬に蹴られてから別人のようになってしまったんだよ」
別人‥‥。
ブラッドリーの言葉にドキリとする。
確かに僕には驚くほどアドルフに関しての記憶が殆どない。唯一顔を見て思い出せたのがヒロインのエディットとヒーローの王子。そして今僕の周りにいる悪友たちだけなのだから始末に負えない。
「ところで、アドルフ。お前昨日は俺たちの誘いを断ったんだから、今日は大丈夫だよな?放課後、ダーツをしに行こうかって話していたんだよ」
ブラッドリーが身を乗り出してきた。
「ごめん、悪いけど無理なんだ」
「は?即答かよ?」
「うん、そうなんだ。約束があるし……第一この腕じゃ無理だよ」
そして両袖をまくって3人に見せた。
「うわっ!何だよ…その青痣は!」
「内出血してるんじゃいないか?」
ラモンとエミリオが顔をしかめた。
「その怪我‥‥昨日の剣術の練習試合で出来た怪我だろう?対戦相手は誰だっけ?」
ブラッドリーが腕組みしながら質問してきた。
「え~と、確か隣のDクラスのマーチンって言ってたかな‥‥?」
首を捻りながら答えると、途端に3人の表情がこわばる。
「あいつか…?マーチンだったのか?」
「あの…家柄が騎士の出の?」
「巨漢の大男だったよな?」
「そうだよ」
こくりと頷いた。
「お前…その怪我くらいですんで良かったじゃないか」
エミリオが背筋の寒くなることを言ってきた。
「え……?ど、どういう意味だい?」
「そうか。お前は馬に蹴られたせいで頭がおかしくなってしまったんだよな?なら覚えていなくても仕方がないか」
「いや、別に僕は頭がおかしくなったわけでは……」
ラモンの言葉に反論仕掛けた時、ブラッドリーが僕の方をポンと叩いた。
「いいか?よく聞け。以前剣術の練習試合でマーチンの対戦相手になったオースティンという学生がいた」
「う、うん」
「彼は愚かなことに、マーチンを挑発したのだ。『俺はお前のようなただの大男になど負けるものか!5分以内にお前を倒してやる!』と。だが運が悪いことに、この日マーチンは教師に素行が悪いとこっぴどく叱られて苛ついていたのだ。当然奴を挑発したオースティンはそんな話など知る由も無かった。そして……ついに戦いの火蓋は切って落とされた。その結果……」
「その結果……?」
僕はゴクリと息を呑んだ。
「や、奴は……オースティンは……」
ブラッドリーは肩を震わせた。
「か、彼は……」
ゾッとしながら先を促した。
「いや?試合開始1分も経たないうちに倒されてしまった。奴はその場で気絶して、翌日恥ずかしくていたたまれなくなったのか学院を退学していったんだ。お前は運が良かった。打撲だけで済んだんだからな」
「あ…はははは…な、なるほどね…」
いやいや、既に彼が対戦相手だということだけで十分運が悪かったとしか思えないけれども……。
「それで?約束っていうのは何のことだ?」
ラモンが尋ねてきた。
「うん、実はエディットと一緒に帰ることになっていて…」
「げ!またエディットかよ!」
「お前、エディットの話題すら口にしようとしなかったくせにっ!」
ラモンとエミリオが口々に驚きの声を上げる。
「だ、だけど彼女は僕の(まだ)婚約者なんだから別に一緒に帰ったっておかしくないだろう?」
「何が婚約者だ!」
「のろけやがって!おい!ブラッドリー!お前も黙っていないで文句の1つくらい言ってやれよ!」
エミリオがブラッドリーに声を掛ける。
「あ、ああ?そうだな。…まぁ、エディットが相手なら仕方ないだろう?アドルフもようやく婚約者を思いやる気持ちが持てたってことじゃないか?」
ブラッドリーが肩をすくめた。
「えっ?!」
「おい!なんだよ、その反応は」
「そうだ、いつものお前らしくないぞ!」
彼の意外な反応に僕達が驚きの声を上げた時……。
キーンコーンカーンコーン
授業開始の鐘が教室中に響き渡り、この話はお開きになった―。
**
1時限目は数学の授業だった。
駄目だ…腕が痛くて鉛筆を持てない。
授業開始5分で、黒板を写すことを僕は諦めた
「ブラッドリー」
隣の席に座るブラッドリーに声を掛けた。
「何だよ」
横目で僕をちらりと見る。
「腕が痛くてノートを写せないから後で写させてくれないかな」
「別に構わないが…俺のノートなんていい加減だぞ?」
「それでも構わないよ。どうせ帰宅したら復習するから」
「ふ〜ん……お前、やっぱり変わったな。まるで昔に戻ったみたいだ。勉強するのはやっぱりエディットの為なのか?」
「え?」
その言葉にドキリとした。
少しの間、ブラッドリーは真剣な表情で僕を見ていたけれども……。
「な〜んてな。冗談だ、今の話は忘れてくれ。勉強は学生の本分だからだろう?」
「う、うん。そうだよ」
「よし、分かったよ。お前の為に今日は真面目にノートを取るか」
そしてブラッドリーは授業終了後、宣言通りに真面目に板書したノートを僕に手渡してくれた――。
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