第43話 あれこれ悩む悪役令息

 シンと静まり返った教室では学生たちの鉛筆を動かす音だけが教室に響きわたっている。


今は1時間目で歴史の試験の真っ最中、僕は一心不乱に問題を解いていた。


すごい、面白い程に問題が解けていく。

そして改めて思った。

やっぱリエディットはすごい女性だと。


何しろ彼女が僕に出してくれた問題がそのままテスト問題に反映されていると言っても過言では無いくらいに的を得ていたのだから。


僕はあっという間に解答用紙を埋め……前方に座る学生たちの様子を眺めていた。


ほとんどの学生たちは頭を抱えたり、鉛筆を動かす手が止まっている。

中には机に突っ伏して眠っている学生たちもいる。

彼らはひょっとして試験の解答用紙を全て埋められたのか、それともお手上げ状態で匙を投げたかのどちらかだろう。


けれど恐らくは問題に手も足も出なくて諦めてふて寝をしている‥‥といったところだろう。

何しろ悪友たちの話で知った事だけれども、この『エステル学院』は成績順にクラス分けされているというのだ。


ちなみにクラスは全部で4クラスあり、当然ながらAクラスが成績上位者ばかりが占めている。

そして才女のエディットはこのAクラスに所属している。

かたや、僕はCクラス。

Dクラスじゃなくて、本当に良かった……と思う反面、今朝の会話で僕はエディットと交わした内容を思い出していた。


幾ら記憶になかったとは言え、僕は彼女に何て言った?


『エディットと同じクラスでないのは残念だ』


思い出すだけで、顔から火が出そうだ。

僕の話を聞いてエディットは何と思ったのだろう?


馬鹿な男が何を馬鹿なことを言っているのだと思われてしまったかもしれない。

それとも、僕みたいな馬鹿な男と自分を一緒にしないで欲しいと思ったかもしれない。


そしていつしか考え悩むうちに、僕は本日Aクラスに転校してきた青年のことを考えていた。

……今日、Aクラスに転校してきた金の髪の美形の青年。

恐らく彼はこの漫画の世界のヒーローに違いない。それなのに、肝心な名前が思い出せない。


う~ん‥‥。


喉まで名前が出かかっているのは確かなのに、記憶が曖昧で思い出せない。

多分、顔を見れば即座に思い出せる自信はあるんだけどなぁ……。



だけど、何故この時期に転校してきたのだろう?

確か原作では12月の中旬…しかも学院のパーティー直前に転校してきたはずだった。

そうだ。リーシャとは殆ど面識がないまま、2人はパーティー会場の中庭で出会って良い雰囲気になったはずだ……。


同じAクラス同士……ということは、アドルフと違って頭がいいんだろうな。

エディットも才女だし、きっと2人はさぞかしお似合いのカップルになるに違いない。

何しろ、この世界のヒロインとヒーローなのだから。



うう‥‥それにしてもあんな恥ずかしい台詞を口にしてしまった後で、次エディットに会った時に、一体どんな顔をして会えばいいのだろう……?


こうして残りの試験時間の間、僕の思考は再び負のスパイラルに陥るのだった――。




****


キーンコーンカーンコーン



1時限目の歴史の試験が終了した。


「おい、アドルフ。どうだった?試験の方は。お前、頭抱えていただろう?さぞかし難しくてお手上げだったんじゃないか?」


解答用紙が回収されるとすぐにブラッドリーが話しかけて来た。


「え?一応全問解いたけど?」


「げっ!嘘だろ?」

「マジかよっ!」


前方に座っていたラモンとエミリオが振り返った。


「嘘じゃないよ。一応全問解いたよ。」


かなり手ごたえがあったから、満点は取れないとしてもそれに近い点数なら取れそうな気がする。


「どうせ解いたって言っても適当に解いたんだろう?何しろお前昨夜はエディットとデートしてたんだからなぁ?」


ブラッドリーがニヤニヤしながら話しかけて来た。


「え?デート?」


「とぼけるなよ?お前昨夜ランタンフェスティバルに行ってたんだろう?さっきは黙っていたけど、エディットと仲良さげに手を繋いで歩いていたもんなぁ?」


「そうだったのか……」


まさかあれをブラッドリーに見られていたとは思わなかった。


「何だよ、やっぱりお前エディットと仲良かったのか?」


「あれほど、俺たちの前では嫌ってるふりしていたのにな~」


ラモンとエミリオが次々と口を挟んできた。


「別に嫌ってなんかいないよ。むしろ幸せになって欲しいと心から願ってるくらいだしね」


真のヒーローと共に……。


「「「お前、一体どうしてしまったんだよっ?!」」」


すると何を勘違いしたのか3人の悪友たちが揃って驚きの声を上げた。


「だから、言っただろう?馬に蹴られて生まれ変わったって」


まぁ、実際は前世の記憶を思い出しただけなんだけどね‥‥。

とは、口が裂けても言えるはず等なかった。


そして思った。

この世界に、僕と同じような転生者がいればいいのに……と。


仲間たちに囲まれていながら、妙な孤独感を感じつつ……僕は次の授業の準備を始めた。


やがて意外な出会いが待っているとはつゆとも思わず――。


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