監禁、少女、頭蓋骨。

猫とホウキ

第1話 牢獄

 ここは都会のど真ん中。見上げるばかりで、住むことなどないと思っていた高級マンションの一室にわたしはいます。


 窓からは、大中小すべての建物を見下ろすことができ、また夜には美しい夜景を見ることができます。


 望んでここに住めたのなら、さぞかし幸せだったことでしょう。しかし望まぬ『わたし』にとって、ここはただの牢獄でした。


 無力に鳴くことしかできない、まるで羽根の折れた鳥のようです。窓から外を眺めることはできても、その窓を開けることも叩き割ることもできません。


 笑うことも泣くことも怒ることも許されていますが、笑っていることも泣いていることも怒っていることも、誰かに伝えることができません。


 叫んでも声は届かない。暴れても苦情はこない。わたしのそんな足掻あがきを、子犬のような弱々しい抵抗を、あの男はにやにやと眺めるだけでした。


 わたしは監禁されています。ずっとずっと閉じ込められています。自由に動けるのはこの部屋の中のみ。わたしの行動は常に監視され、わたしのあらゆる仕草があの男にとって欲望を満たす道具となります。


 わたしはおもちゃ。あの男のおもちゃ。肉体的にも精神的にもグチャグチャにされて、もうなにも残っていません。それなのにあの男は、まだこんなところにわたしを閉じ込め続けて、希望なんてない空を毎日眺めさせているのです。


 彼は楽しいのでしょうか、彼は楽しいのでしょうね。自分の壊した人形にんぎょうの残骸を鑑賞することは、自分の壊した人形ひとがたの悲鳴を聞くことは。映画では絶対に体験できない本物の『映像』と『音楽』がそこにあるのだから。


 こんな有様ありさまになって何日が過ぎたのでしょうか。こんなようになって何年が過ぎたのでしょうか。監禁されてからの月日の経過を、もうわたしは覚えていません。壊されてただの石ころのようになってしまったわたしには、時間の経過など意味のないものなのです。


 もちろん祈ってはいます。いつか誰かが、この石ころのようになってしまったわたしを助けにきてくれることを。もちろん願ってはいます。いつか誰かが、あの悪魔のような男に裁きを下してくれることを。


 わたしは今日も窓から外を眺めます。この窓は椅子を投げつけても壊れないほど頑丈で、中からは外が見えるけど外からは中が見えなくなるように加工がされていて、防音効果でわたしの悲鳴を閉じ込めています。


 この窓はまるで牢獄の扉。だから誰か、これを壊してください。

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