法国の滅亡
西玉
第1話 プロローグ 凱旋と戦後処理
カッツェ平野において、リ・エスティ―ゼ王国の兵士18万人をたった一つの魔法で虐殺した魔導王アインズ・ウール・ゴウンは、結局使用することなく終わった自らの兵力を帰還させ、ついでに大地に横たわる18万の死体をナザリック地下大墳墓に回収すると、転移魔法を用いてナザリックに移動した。
自分に仕える守護者と呼ばれる強者の中でも、最精鋭の一人、階層守護者のマーレを伴ってである。
「お帰りなさいませ、アインズ様」
墳墓の中央にある霊廟前で、目の覚めるような美女が出迎えてくれる。
アインズの右腕であり、階層守護者の頂点である守護者統括アルベドだ。
黒と白のコンストラストが映える、絶世の美女である。白磁の肌に漆黒の髪、白いドレスに腰から生えた黒い翼と、まるで影絵の中から浮き出てきたかのような錯覚すら覚えさせる。
見えているもの全てが幻覚ではないかと疑いたくなる。それほどまでに、美しかった。
「出迎えご苦労」
アインズはナザリックにおける絶対者であるため、労うということはあまりしない。ただ、この日は少しだけ浮かれていたかもしれない。
自分の試みが上手くいき、その力に6万人の帝国兵が喝采したのだ。アインズの認識では、諸手を上げて喝采したのだと感じていた。浮かれても仕方がない。
アルベドとマーレを連れ、第九階層に転移する。
「守護者達は集まっているか?」
「はい。皆、アインズ様の執務室で、すばらしい魔法を堪能させていただきました」
「そうか」
ナザリックの第九階層はかつてのプレイヤー達の自室がある。一つ一つが大変な広さの部屋が、ギルドメンバーの数に加えて、予備の部屋まである。
その全てが、通路まで含めて目をみはるほどの贅が凝らされている。
銀色に磨き上げられた通路を、アインズは進む。
カッツェ平野で超位魔法を使うと知った守護者達が全員、近くで見たがったのだ。
結果として、マーレが同行することになった。全員が出動したら、それこそ魔法を使うまでもなく王国兵は全滅してしまうだろうことを危惧したのだ。
だが、もちろん自分たちの主人が、階層守護者ですら使えない超位の魔法を使うと知って、見たくない者はおらず、アインズの執務室で、全員で見ることになったのである。
アインズを迎えに来たアルベドにしても、アインズが帰還の連絡をするまでは他の守護者たちと一緒にいたはずだ。
「マーレ」
「は、はい」
少しだけ浮かれたままのアインズは、付き従う麗しい顔をした小さな女装の少年を呼ぶと、持ち上げて片腕に抱いた。
「ア、アインズ様……」
マーレが声を裏返す。しかし、逆らうことはない。ぶるぶると体を震わせながらも、結局はアインズに体を押し付けるように収まった。
「ア、アインズ様!」
マーレと全く同じ台詞を言いながら、明らかに違った感情を載せるのはアルベドだ。
「どうした? アルベド」
「ず、ずるいです。マーレばかり……わたくしも、守護者統括として……」
「お前の働きは、評価しているとも」
「で、でしたら、わたくしにも……」
と言われても、アルベドを抱いて歩くのはさすがに恥ずかしい。
アルベドの目は本気だった。血走っていたといってもいいほどだ。もともと瞳は金色なので血走ってもよくわからないが、らんらんと輝いているような気がした。
アインズは、ここできっぱりと断るのも悪いと感じた。確かに、アルベドはよくやっているのだ。何の不満もない。
「……これで許せ」
アインズは、付き従うアルベドに向けて、骨しかない片腕を差し出した。
「許すだなんて、とんでもございません。アインズ様は至高の存在。ただお命じくださればいいのです」
言いながら、アルベドはアインズの差し出した腕の骨に絡みつくようにしがみついた。アインズの逆の腕には、マーレを抱いたままである。うれしそうに体重を預けてくる少年を下ろしたいとは思わなかった。何より、100レベルのプレイヤーであるアインズは、重いとも思わなかったのだ。
※
一人を抱え、一人を引きずるように連れ、アインズは自室の前に至った。
一般メイドが一人、アインズの姿を見て目を丸くした後、表情を整えて深く礼をする。目を丸くしたのは、抱いているマーレと引きずっているアルベドを見たからだろう。
「マーレ、ここまでだ」
「……はい」
名残惜しそうにする闇妖精の少年を降ろす。
「アルベドも、もう離れなさい」
「よろしいではありませんか」
アインズの腕の骨に、まるで軟体動物のように絡みついているアルベドは『くふふ』と笑った。とろんと蕩けたような目は、欲情におぼれているようにしか見えない。
「シャルティアがうるさい。見られたところで構わないが、お前たちが口論を始めると、大事な話がはじめられないのだ」
アルベドは、じっとアインズを見つめた。目が大きく開き、すぐに、腕から離れた。理解してくれたのだろうかと思ったが、アルベドが妙なことを口にした。
「アインズ様……」
「どうした、アルベド?」
「先ほどの言葉、もう一度お聞きしとうございます」
「……どの部分だ?」
「『シャルティアに見られても構わない』……と」
アルベドの瞳が大きく見開かれている。これはまずい、とアインズは察した。扉一枚先に、守護者たちが集まっているのだ。通路の会話も聞いているかもしれない。
かつて、感極まったアルベドに押し倒された経験があるアインズは、危機を察して、アルベドを冷静にさせる言葉を探した。
「いくらでも時間はあるのだ。まずは、皆に報告をしなければな」
「はっ……そうでした」
アルベドの顔が普段の頼もしい守護者統括のものへと戻る。アインズは深呼吸したくなったが、肺は一体どこに行ってしまったのかわからない。呼吸すらできない身だ。
一般メイドに視線を向ける。
「いいぞ」
「はい。アインズ様がお戻りです」
メイドが部屋の扉に向かって呼びかけると、待っていたかのように執務室の扉が左右に開く。部屋の中にも、一般メイドが控えていたのだろう。
アインズの姿が見えた瞬間、部屋の中にいた全階層守護者、デミウルゴス、コキュートス、シャルティア、アウラ、加えて守護者ではないがセバスが、一斉に膝をつく。
その様を当然のこととして受け入れ、アインズは部屋に入り、執務机に向かってまっすぐに進む。
執務机を回りこみ、机の向こうから室内を見回す。
共に歩いてきたマーレも、アウラの隣に並んで同じように膝をつき、アルベドは執務机のすぐそばで、やはり同じように膝をつく。
全員が首を垂れ、最大の敬意を払っている。
「面を上げ、楽にせよ」
守護者たちが顔を上げ、一斉に立ち上がる。
「アインズさま、素晴らしい魔法でした」
「凄かったです」
「人間たちのあのざま、面白かったでありんす」
「サスガ至高ノ御方」
「お見事でした」
守護者たちが口々にアインズを絶賛する。どの顔も、きらきらと輝いて見える。表情の読みにくいコキュートスすら、感動しているような気がした。
先に感想を聞いていたアルベドに目を向けると、ほんのりとほほ笑んでいた。
「まあ、当然の結果だがな。だが、あれを5匹も同時召喚したのは、私だけだろうな」
「ご勇名が広く轟くでしょう」
「うむ。ありがとう、アルベド」
手をかざして守護者たちを落ち着かせながら、アインズは椅子に腰かけた。
戦争は終わった。
話し合わなければいけないことがあった。
※
守護者たちが落ち着くのを待ち、アインズが口を開く。
「一つ、はっきりしたことがある。ここに居るのは全員が100レベルの者たちだから言うが、我々は、もはやレベルアップすることはないようだ。10万以上の経験値が入っているはずなのに、私のレベルが上がった様子はない。だが、これは悪いことばかりでもない。この世界に間違いなくいるであろうかつてのユグドラシルプレイヤーが、私たちより格段に強いということがないと断言することができるからだ」
言葉を切り、守護者たちを見回す。どの顔も、一様に理解の色があった。アインズは頷いて続ける。
「我がナザリックが保有する世界級アイテムの数は、どのギルドよりも多い。この一点に置いて、我々が最強だと言える。だが、隙を突かれれば個人での敗北は常にある。これからも、油断することがないように」
「はっ」
デミウルゴスの力強い返事に合わせて、守護者たちが一斉に頭を下げた。
「さらに、我々が有利なのはマーレに渡した『強欲と無欲』があることだな。経験値を消費しなければ召喚できないシモベや魔法を、レベルダウンなしに使う事ができる。我々がレベルアップできるかどうかという実験は終わりだ。できないという結論を踏まえて、次の段階に進まなければな」
マーレは、両腕に世界級アイテムであるガントレットをつけていた。左は強欲、右は無欲だ。100レベルに達した者が、経験値を貯め込み、貯めた経験値を使用できるというものだ。ユグドラシルでは、世界級アイテムという割にはかなり微妙な能力のアイテムだったが、この世界では絶大な力を発揮するだろう。
「アインズ様、いよいよ決心なされましたか」
「アア。実ニ喜バシイ」
(なに? 何を言っている……デミウルゴスに、コキュートスだと?)
デミウルゴスはあまりにも優秀で、アインズの言葉から想定以上の結論を導き出すことは珍しくない。それも、このタイミングでは何を考え付いたのか全くわからない。それだけでも驚きなのだが、デミウルゴスと同じ結論に達したのが、唯一コキュートスであることは驚愕である。
コキュートスも経験を積んで成長している。単純にそれならば、むしろ喜ぶべきことなのだが。
「デミウルゴス、どういうこと?」
尋ねたのが、アルベドであることも驚く要因となった。ほとんどの場合、デミウルゴスが考え付くことは、時間差があってもアルベドは理解できるのだ。だが、全くわからないという顔をしている。
「アルベド、本気で尋ねているのかね? むしろ、君こそが望んでいたのではないかと思っていたのだがね」
「えっ? どう言う意味?」
(そうだ、どう言う意味だ?)
「アインズ様、以前にコキュートスと話していたことなのですが……アインズ様なら当然そのために、今日お話になったことと存じておりますが、理解できない者がいるようです」
「そうだな……デミウルゴス、皆に説明してあげなさい」
いつものパターンだな、と思いながら、アインズは一体デミウルゴスとコキュートスがどんなことを思いついたのか、興味を持って聞いていた。
デミウルゴスは、彼にしても珍しいほど、丁寧に説明を始めた。
「つまり、アインズ様は今までにも『強欲と無欲』に経験値を溜めることはできたが、ご自身のレベルアップができるかもしれない可能性を捨ててまでやることではないと、見送っていらしたということだ。それはつまり、今後は『強欲と無欲』に経験値を貯めるということを意味する」
(まあ、それは当然だな。守護者たちも、それがどうしたという顔をしているし……)
「アインズ様が経験値を貯めてまですべきこと。それが何か、考えてみたまえ」
「……アンデッドの副官の召喚かしら? 以前、お願いしたことがあったのだけれど……」
「それだけかね?」
正解ではなかったようだ。デミウルゴスは顔の前で指を振る。そんなきざなポーズが格好いいと思わせる男だ。
「魔法かな?」
呟いたアウラに、デミウルゴスはぴしっと指を向ける。正解だったようだ。
「超位魔法〈星に願いを〉」
「シャルティア、その通りだよ。我々守護者の全員が望んでいるにも関わらず、最後まで我々と共に残られた慈悲深いアインズ様が、唯一手をつけなかった事項があるだろう。しかも、アルベドとシャルティア、さらにプレアデスに41人の一般メイドの誰一人として、今までアインズ様のお手付きとなった者がいない」
(ちょっと待て……デミウルゴス、お前、何を言いだすんだ……)
アインズは焦った。アンデッドであることにより、精神の鎮静化が発生するほどに焦った。
「アインズ様は、高潔なお方だから……」
「アルベド、もちろんそれもあるだろう。だが、ナザリックに仕える全員がアインズ様のお子を望んでいるのに、それを顧みない理由は、他にあるのではと考えるのは当然だろう」
「な、何の理由? 私やシャルティアでは……至高の御方のお相手には不足だというの?」
「そんなことはないだろう。むしろ、より実際的な理由ではないかね。たとえば……アンデッドであるアインズ様が、どうやって子どもを成すか、ということだがね」
(そういう話を……本人の前でするか……しかし、俺の子供をナザリックに仕える全員が望んでいるだと? どういうことだ?)
「た、確かに……でも……超位魔法であれば……」
「可能ではないか。そのために『強欲と無欲』を使用する。これほど、ナザリックの強化もでき、全員の望みが叶う使い方は他にないだろう。世界級アイテムをアインズ様は常備されているが、ご本人が受け入れれば超位魔法の効果は得られるだろうからね」
アルベドの視線が、マーレに向いた。明らかに目の色が違う。視線を向けたのはマーレ自身にではなくガントレットにだったが、マーレがびくりと震えた。
「マーレ、どのくらい、経験値がたまっているのかしら?」
アルベドはほほ笑みながら尋ねた。慈愛に満ちた、優しい笑みを浮かべていた。
「いえ、あの、使っていなかったので……」
「何ですって!」「どうしてでありんす!」
アルベドとシャルティアの声が響く。これはマーレの責任ではない。アインズの命令なのだ。
仕方ない。アインズは切り札を出した。
片手を上げる。
「騒々しい。静かにせよ」
もっとも練習した動作、口調である。いかにも支配者に相応しい、とアインズは思っている。
「はっ」
アルベドが控える。シャルティアも黙った。
「マーレ自身のレベルアップの可能性もあったのだから、使わないように私が命じたのだ」
「では、今後はわたくしが……」
「アルベド、お前はすでに世界級アイテムを自分のものとして携帯しているではないか。マーレに任せよ。それに……アルベドに任せると、経験値を得るために人間を皆殺しにしかねん。マーレ、お前なら心配ないと思うが、理由もなく殺すな。敵対しているわけでもない周辺国に対する攻撃も禁止する」
「はいっ!」
マーレは元気よく返事をした。アインズは正しいことを言ったと感じた。上出来だ。我ながら、支配者の演技が板について来たのだろうか。だが、アインズは、自分が致命的な失敗をしていたことを、デミウルゴスに気づかされた。
「アインズ様がその気になられたのです。後は、マーレが『強欲』に経験値を貯めるまでに、誰がお心を射止めるか、ということだね」
(あっ……そうか。マーレに『任せろ』って言ってしまったな。失敗した。でも……いいのか? いや、なんか違うぞ)
アインズは、動揺が表情に出ない現在の顔に感謝した。ただ、アルベドだけはどうしたわけか骸骨の顔に表情を読み取るらしい。
アルベドとシャルティアが、激しくにらみ合っている。アインズは、守護者同士が争うことを望まない。
「私がいただきます」
何を、とはさすがに聞けない。アルベドははっきりと断言した。一方のシャルティアは、余裕の笑みを浮かべた。
「いいでありんすよ。でも、アンデッドの体は、わらわが一番詳しいでありんす。超位魔法が本当に効果があるかどうかわからないでありんしょう。私は別の方法で、アインズ様のお体を研究させていただくでありんす」
「それはいいね。なかなか、面白い研究対象だ」
(デミウルゴス、お前はもうしゃべるな)
アインズは頭を抱えたかった。黙っていたアウラが元気よく手を上げた。
「あっ、じゃあ、あたしも!」
アルベドとシャルティアがぎょっとしてアウラを睨んだ。予想外だったのだ。アインズも驚いた。口を開いたのは、アインズが黙ってくれと願ってやまないデミウルゴスだった。
「ほう。アウラは魔獣を使役する。魔獣の繁殖はナザリックの強化に直結するね。そこから、何かわかるかもしれない。図書館の司書長に言って、私も儀式や魔法で解決できないか研究してみよう。ナザリックに属する者で、アインズ様のお子を望まない者などいないのだから」
(だから、俺の子供を全員が望んでいるという前提がおかしくないか?)
アインズは声を大にして叫びたかったが、デミウルゴスの最後の言葉には守護者全員がうなずき、セバスすら大きく首肯していた。
「そのような……」
アインズは、『くだらない』と言おうとして、自分を見つめるアルベドの視線に凍り付いた。大きな目がさらに見開かれている。否定的な言葉を口にしたら、確実に泣かれそうな雰囲気だ。アインズは空気が読める男だ。そう思っている。
考えた。何を言えばいいだろう。
咄嗟に、まだ話すべきことが終わっていないことに気づいた。
「……そのような、大切なことは、軽々に決めるべきではない。日を改めるとしよう。それほど重要ではないが、早急に決めるべき問題が残っているのだから」
「はっ」
アルベドが頭を下げ、守護者たちが真面目な顔になった。アインズはひとまず安どし、課題を上げる。
※
「問題は二つ、魔導国の都市となった人間の街、エ・ランテルをどのように支配するか、それと王国への賠償の請求だ。誰か意見はあるか?」
自分の考えはすでにあるが、という雰囲気を出しながらアインズは守護者を見回す。特に意見は無く、アルベドが守護者統括として口を開いた。
「アインズ様のお心のままに」
予想通りの答えが返ってきた。守護者たちにとって、関心が薄いことなのだろう。
「我が支配を受け入れる者は保護しようと思う。たとえそれが、人間であってもだ。では、エ・ランテルには平穏を与えよう。方法は、現在の街の統治者と相談して決める。それと、さきほどの戦いで、魔導国が王国に勝利したが、帝国の依頼を受けてのことだ。戦争の勝利国が敗戦国に賠償を請求するのは当然だと思うが、やはり帝国に筋を通すべきだろうか」
「必要はないかと。帝国兵は戦ってすらいないのですから。それならむしろ、帝国にも戦勝祝いを要求すべきかと」
アルベドは、さっきまでとは打って変わって事務的に話していた。普段は優秀なのだ。どうしたわけか、時々おかしくなるのだ。
「……それもそうだな。反対の意見は?」
誰も声を上げない。帝国のことなど、どうでもいいと思っているのが明白だ。
アインズはセバスを見た。ナザリックの家令として設定された老人は、つい最近王国で失敗をしたが、やはり交渉に出すのであれば適任だ。
「では、セバスよ。帝国に行き、ジルクニフに戦勝の祝いを要求してくるのだ。プレアデスを何名か同行させよ。アルベド、帝国に対する要求を文書にして、セバスに渡せ」
「はっ」
「それと……王国への賠償請求ということであれば、確かめなければならないことがある。カルネ村に行く」
カルネ村が国王軍に襲われたということは聞いていた。無事に退けたという話だが、一体どんな状況なのか、詳しくは聞いていなかった。
王国が攻めたというのなら、カルネ村の復興費も要求したほうがいいだろう。カルネ村の復興を手伝いたいという親切心ではなく、より高く要求してやろうという意地汚い考え方だが、必要なことだ。
一人で行っても危険はないだろうが、守護者たちがうるさい。それに、具体的に損失を計算するのであれば、アルベドかデミウルゴスを連れていくべきだ。
アルベドには別の命令を下したばかりだったので、アインズはデミウルゴスの同行を命じた。
何より主君に忠実な悪魔は、命令を受けて深く腰を折った後、隣で立ち、先ほどからずっと黙ったままで身動きもしないコキュートスに視線を向けた。
「さて、私はアインズ様から拝命したことを実行しなければならないのだが、そろそろ戻ってはこないかね?」
「そいつはどうしたんだ?」
「いえ。時折あるのです。妄想に囚われているのでしょう」
「……ほう。コキュートスにそのような癖があったのか」
意外だった。もっとも人間離れした外見に関わらず、まじめで、精神的にはもっともまともかと思っていたほどなのだ。
「その時の内容は、常に一緒ですが……コキュートス!」
「ハッ……アア……幻カ。実ニ楽シカッタ。ヤハリ、アインズ様ノオ子ニハ、少シデモイイノデ剣術ヲ学ンデイタダキタイ」
アインズは、病気になるはずの無い体で頭痛を感じた。
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