第35話中古品が奏でる旋律
「今の話、語り手は死んだのでしょうか?」
「亡くなったよ。少しだけ関わったことがあるんだ。この話は本人の体験談、事情を知っている人、事故の目撃者の話をあわせて作られたんだ」
「ええー! 関わっていただなんて聞いてませんよ!」
「君は海外に飛んでいたからね。帰ってきたら話そうかと思ってたんだけど、すっかり忘れていたよ。その後もいろいろあったしね」
「今聞かせてくださいよー」
「また今度ね。今日はもうゆっくり休みたいんだ。ほら、君はフィールドワークに行くんだろう」
「むぅ……じゃあ白紙の本貸してください。怪談話を追加しておきますよ」
「人がいないところで話すんだよ」
「わかってますよ」
知人に本を渡す。ちょっと、いやかなり心配だけど良い機会だ。話の内容によって真贋を見極められる。
「それじゃあいったんアパートに戻りましょうか」
一回部屋の外に出て扉を閉じる。そして扉を開くとアパートの部屋が現れた。
「本当に便利だねぇ」
「良い怪異でしょう? 最初の一歩さえ間違えなければこれほど便利なものはありませんよ。では、行ってきますね」
「ああいってらっしゃい」
※ ※ ※
スーパーは夕飯を買う人たちで溢れていた。スーパーにまつわる怪談も良いけど、今回は隣のリサイクルショップをターゲットに設定した。
怜司さんがこの話を読んだら疑いを強くするだろう。しかしもう終わりが近い。怪異は最後にでかい花火を打ち上げるものだ。
「いらっしゃいませー」
低い、やる気のない声が店内に響く。嫌そうに接客をしている若者がじっとこちらを見ている。「面倒だから何も買ってくれるなよ」という声が聞こえてきそうだ。
僕の目的は楽器だ。楽器コーナーに向かうと予想通りギターが一番多い。中には一度でも音を鳴らしたか怪しい、ピッカピカのギターもある。せっかく買ったのだから壊れるまで使えばいいのに。
しかしこういう楽器こそ都合がいい。ああ、見える聞こえる。【どうして使ってくれなかったのか】そんな怨嗟の声と黒い靄。
許可しよう。さあ、奏でるがいい。大丈夫、僕は君の仲間だ。気にしなくていい。
「いらっしゃいませー……あ、来たのかよお前ら」
誰か入店してきた。若者の知り合いのようだ。店員の若者は業務を放り出して話に夢中になっている。彼の後ろで𠮟責している年配の店員の言葉も無視している。しばらくしたら店長も出てくるだろう。あの若者はクビかな。
「そうだ、あのギター売れたか?」
「いいや全然。デザインがわりぃからだーれも手に取らねぇ。お前のセンスもねーけど、作ったやつのセンスもねーわ」
「おいおいヒデーなぁ!」
笑い声を聞いたギターは激しい旋律を奏で始めた。最初は控えめだったのに、今は殺意しか感じられないほど酷い音だ。
ギターの旋律はリサイクルショップ全体を覆った。店員と客は耳を抑え、中にはすでに耳が取れている人もいる。
床に鮮血の零れ落ちる音が加わる。ギター、悲鳴、滴る音、人が倒れる音、そして首が落ちる音。
まったく、聞くに堪えない演奏だ。
さあ、白紙の本。どうだった? 新しい怪異の誕生だ。お気に召したかな?
タイトルは……【中古品の奏でる旋律】なんてどうかな。
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