第14話闇の中身

 知人から追われる霊の調査報告が入った翌日、家の前で追いかけっこをしている霊を目撃した。

 はて、私は寝ぼけているのか? 目を擦って、顔を洗って、普段はやらないラジオ体操までして頭をすっきりさせたが、やはり夢や幻覚などではなかった。小さなお化けが大きなお化けを追いかけている。あの話と同じ光景が繰り広げられていた。


 しかしアレは本当に追いかけ、追いかけられる幽霊なのだろうか。私は本物を見たことがない。もしかしたら偽物かもしれない。

 家の前を通ったタイミングで撮影し、写真を知人に送ってみると「あれ? 昨日は町にいたはずなのに……一晩かけて移動したんでしょうか」と返ってきた。ああ、本物なのか。感慨深いとは思わなかった。とてつもなく面倒なことに巻き込まれる――そんな予感がしたからだ。


「君がいる町からはだいぶ離れている。一日中走り続けたとしても三日はかかるだろう。いや……幽霊に人の常識は当てはまらないな。実際この町にいるのだし……」


 思考の海に沈みかける。


「考えても答えが出ないことをいつまでもこねくり回していても埒が明きませんよ。次の怪談を調査しましょう」

「あっ、ああうんそうだね……ええと、じゃあ次は」

「おっと忘れるところだった。もう調査してきましたんですよ。暇だったので」

「おいおい! 私の知らないところで調査しないでくれよ。何回でも言うけど、身体的にもうきつい私は遠いところまで調査できない。若者である君が私の足になるんだ。だから妙なことには首を突っ込まないでほしい」

「気を付けまーす」


 まったく反省しているようには思えない返事だ。これでは今後も似たような苦言を言ってしまうだろう。


「ハァ……で、何を調査したんだい?」

「ちょっと刺激が欲しくて『闇の中身』を調査したんです。まあまあ楽しめましたよ」



【闇の中身】


 闇というものは人の恐怖心を引き出す。しかしこの怪異から引き出されるものは恐怖心だけではない。正反対ともいえる『喜び』の感情をもたらしてくれるのだ。


 望んだものが手に入ると嬉しいだろう? 目の前に欲しいもの……わたしは今とても読みたい本があるのだが、それがパッと現れたら最初は驚きはすれど喜んで手にする。


 自分が望めば現れる。そんな素敵な『闇』が存在するのだ。闇が出てくる場所はランダムだ。幸運にもその闇と巡り合えたら君はラッキーだな。

 ただ、闇は急に現れるから咄嗟に願い事なんて出てこない。与えられた時間は十秒もない。闇は辛抱強くないんだ。目の前の人間がいつまでも願わずにいると、しびれを切らした闇はその人間を吞み込んでしまう。恐ろしいね。


 呑まれた人間は闇から出られない。出てきたという話は聞いたことないし、わたしの友人も目の前で消えてしまってから姿を見ていない。未だ出てこられないのだろう。


 友人が闇に取り込まれたのはわたしが願ったことだからそれでいいんだけどね。元気にしてるかな。生きて出てきたら是非とも感想を聞いてみたい。

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