ゲームブック【外伝】(四十七頁目)
「うおおおおおっ!」
実体剣と魔法剣を交互に振り抜いていく。人造人間は両の手に持った短剣でそれを防御する。カッ!と一合打ち合うたびに火花が散り、眩い光で暗闇が照らされた。
技量の差、そして獲物(ぶき)の攻撃力の差によって、押しているのは明らかに俺の方だ。
打ち合った剣を持つ手に確かな手応えがある。
フラッシュのように空間が瞬(またた)くたびに、人造人間が半歩、一歩、二歩と後ろに下がっていく。
「ふっ!!」
俺は空気とともに気合を吐き出す。
奴のぽかんと空いた空洞の目口からは何の表情も読み取れない。だが、確実に勝てる。そう踏んで、さらに大きく一歩踏み出した。
「ちぇああああああーっ!!」
光剣(フラムベルジュ)に込めるMPを増大させて出力を上げる。瞬間、威力を増した一撃が人造人間の左手に持った短剣を砕いた!
ぐらりと人造人間の体勢が崩れた。
「貰ったーっ!!」
右手の剣を大きく引いて、真っ直ぐに相手を突いた。
ガァン!!
金属をえぐる音が響いて、導きの剣は胴体の一部をぶち抜いた。
「キィィィィ!!」
人造人間が悲鳴にも似た音を上げながら、大きく後退した。一本しか残っていない短剣を両の手で構える。逃すか!さらに距離を詰めて、俺は光剣を身体ごと捻った回転斬りをはなつ。
「……っ!?」
「リーダーあぶねえ!」
一瞬、背中がゾクリとした。嫌な予感、だがもはや技は止められない。ぴたりと正眼の構えで静止する人造人間。
あれは……どうかで見た!
人造人間は俺の回転斬りを紙一重で身を引いてかわして、そのまま振り抜いた俺の手首を狙って刃が走った。パッと赤色のものが虚空を舞う。左手の手首、その内側をぱっくりいかれた!
「くそっ!?」
ぴしゃりりと鮮血が人造人間の顔にかかる。そのかかった血が自分の意思を持つかのように、目と口の位置にある空洞に吸い込まれていった。
足元からぞわりと、無数の蟻のような虫が這い出す感覚がした。下を見ると、自分の足がない。
それどころか、地面もない。
大きく空いた暗い穴に俺は落ちていった。
……
「おい!リーダー!大丈夫か!?」
ノブがユウに声をかけるも、その返答はない。ぽかんとした表情で、ユウはその場に立ち尽くしている。
やられた、あの構えと剣術は戦士である山本の技。記憶を吸っただけじゃなくて、その技術すら奪い取れるのか。
「……ってことは?」
残ったのはノブと、人造人間。二人の一騎打ちだが。
「フラムベルジュ……」
人造人間はどこから出ているのかわからない声でぼそりと呟いた。その空手の左手に魔法剣が実体化した。
「おいおい、どうしろってんだよ」
表情のない人造人間が、笑みを浮かべた気がする。少なくともユウと、山本の二人の力を持った強敵だ。彼らよりも高レベルであるとはいえ、偵察者であるノブに勝ち目はないだろう。
ノブは静かに、銀色の金属筒を取り出した。指を鳴らすようにポンと音を立てて破裂した。
ノブの周りを優しい光が包む。
ミカが補助魔法(ブレス)を詰めた魔法の筒だ、しばらくの間使用者の筋力などを増強させてくれる効果がある。
そして、そのまま後ろを向いて駆け出した!
「逃げ足も速くなるってか」
意表をつかれたのか、一瞬動きを止めた人造人間だが。次の瞬間、弾けるようにノブを追いかけた。
「追いかけてくるのかよッ!?」
そう毒づいて逃げ回るノブ。それを人造人間が大きな体躯を持って、恐ろしいスピードで追いかけてくる。だがこれで、無防備なユウと山本から人造人間を遠ざけることができる。
「追いつかれる……!ってな」
補助魔法込みでも、筋力、スピードは人造人間の方が上だ。いよいよ捕まるという瞬間、人造人間がぐらりと体勢を崩して倒れた。勢い余って思いっきり、墓石に腕をぶつける。
そこにダメ押しとばかりに、目の空洞向けてノブは短刀を投擲した。ズ……っと目玉の奥に突き刺さる。
「地形は把握済みだぜ。この辺りは、先のゴブリンゾンビ事件のせいで地面に大穴が空いてるところがあるんだよな、まるで落とし穴だ、気をつけろよ」
「キィィィィ!!」
怒りの叫び声をあげて、人造人間が立ち上がる。ダメージはあるようだが、致命的なものではない。強すぎか?
「ゆイいツのブキをうシナッて、ドウスるツモりダ。アキらメてクワレるガイい」
「ああ、お見通しってわけね」
いろんな人間の声を混ぜたような音で人造人間が言う。そのままのそりと立ち上がって、両の手に剣を構えた。対するノブは素手、奴の言うように短刀を投擲に使ったので手元に武器はない。
「絶体絶命だなぁ。もう一回追いかけっこしてみるか」
「……」
そう言っても、補助魔法(ブレス)の持続時間から考えると実際はそれも難しいだろう。
「ルルリリが命の保存のために作った人造人間。己のない、記憶の入れ物。脳喰(ブレインイータ)それがお前の正体だ。なんか哀れで、そして親近感がわくな」
「……ギギギ」
大きく人造人間が踏み込んだ。
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