ゲームブック【外伝】(四十四頁目)
「死んでいない……?」
「そう、本当の意味で殺人じゃあなくて、記憶が消えた他の理由があるんじゃないかってことだ」
「デスペナルティで記憶が消えたんじゃなくって、記憶喪失になったってこと?」
「そうなるな」
アルが複雑な顔をする。突然の推理を消化しきれていないようだ。
「ならなんで短剣が刺さって、血だらけで倒れてたっていうの?」
「それは……」
「それは?」
「さあ、わかんねえな」
ええっ!?とアルがリアクションを取るが、ウーン、俺もわからん!とりあえず考えてる風の顔をしていると、アルがこっちを見てきたので、一応意見を言うことにする。
「胸を刺されたときの出血性のショックで記憶喪失になった、とか?」
「だとしたら殺人事件が殺人未遂事件になっただけで結局かわらないよ!」
たしかに、どっちにせよ短剣を突き立てて記憶を奪ったのには変わりはない。
「どっちにしても、殺そうとしたやつがいるのは間違いなくって、それでぼくのことをアロロさんが忘れてしまったんだ!ぼくがやるべきことは同じだ!」
「そうなんだよなぁ……でもなんか引っかかるんだよ」
俄然やる気のアルと、なんだか考えているノブ。そこへミカさんが入っていく。
「逆なんじゃないかしら。命を奪おうとした結果記憶を失ったのじゃなくって、そもそも記憶を奪うのが目的だったとしたら」
「そんな都合よく、記憶喪失になるかぁ?」
「さあ?」
「さあっておまえ……まぁわかんねえよな」
記憶を奪うのが目的?だったとしても、誰が何のためにアロロの記憶を奪うというのか。
みんなで天井を見上げて考える。
「ふわあー」
あくびが一つ。
これはさやのあくびだ。
「ぶえっくしょい!!ううぅんちくしょうめ」
これは山本さんのくしゃみ。
「今日はもうお開きにして、明日また調査してみようか」
「そうだな」
俺の提案に、ノブが頷いた。
……
久しぶりの月白の葡萄亭での宿泊。
ダンジョンが閉じられて、プレイヤーの数が激減しているので部屋はガラ空きだった。おかみさんの好意で、大部屋価格で個室を使わせてもらえたのだった。
なんと二人で一部屋だ、俺と山本さん。さやとミカさん。そしてノブとアルがそれぞれの部屋割りになっている。
ふかふかとは言えないが、清潔なシーツとベッド。あの馬小屋みたいな大部屋に比べると十分な設備だ。
同室の山本さんはすでに眠りについているが、抱き枕の代わりに刀を抱いて眠っている。ちょっとヤバい。
「ふわあ」
ベッドに腰掛けるとあくびがでた。
なんだか知らないうちに探偵ごっこをすることになってしまった。慣れないことをすると疲れるな。もう眠ってしまおうと思った時、それは起こった。
「ひゃああー!!?」
宿全体に響き渡るような大きな叫び声。びっくりして目が覚めた。これだけ声が聞こえるって壁薄すぎだろ!ドタドタと木の床を走る音が聞こえる。今のは……さやの声に聞こえた。俺も部屋を飛び出して、彼女らの部屋に飛び込んだ!
ばっと扉を開けると、さやが胸から血を流して仰向けに倒れている。それに回復魔法(ヒルラ)をかけて介抱しているミカさんが居た。
「一体どうしたんだ!?」
「わからないわ!暗闇の中、突然誰かが入ってきて……!」
「さやは大丈夫なんです?」
「そうね、私と同室で良かったわね」
ミカさんの言葉に胸を撫で下ろす。すぐにノブとアルも騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた。ひとまず治療が終わるまで、その場で待機する。
「何があったんだ?」
「何者かが突然入ってきて、胸を一突きよ。暗かったしよく見えなかったけど」
「俺らを狙ってきたってことは、アロロの周りを嗅ぎ回っているのを気付かれたってわけか」
「タイミング的に無関係とは考えにくいわね」
皆が心配そうに見つめる中、さやの治療が終わった。すっかり傷は塞がっている。そして、さやが目を覚まして俺たちを見回して言った。
「えっ……あなたたち、誰?」
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