ゲームブック【外伝】(四十二頁目)

「憐(あわ)れな……」


うるんだ瞳で、山本さんが言った。アルの境遇を聞いて、かの侍は怒りを覚えたのだ。


「このような悪行許し難い。アル殿、我らが貴殿の仇討ちを手助けしましょうぞ」

「は、はい」


山本さんが、アルの両の手を上から包み込むように握っている。そのままジッと瞳を見つめて……。


「ちょっ、山本さん。ソーシャルディスタンス!ソーシャルディスタンスとって!」

「おっと、これは失礼した」


パッとアルの手を離すと、一歩引いた。

ウインナーにフォークを突き刺しながら、ノブが口を開いた。


「それで、アロロが殺されたってのはわかったからよ。もっと詳しく状況を教えてくれ。俺たちはどこのどいつを追いかけりゃいいんだ?」


左手にストロングマックス、右手にウインナーの構えだ。ノブまさかの二刀流。


「はい、それはある小雨の夜のことでした。毎晩の見回りを騎士団がしている時に、アロロさんの叫び声が響いたのです」


ふんふんと頷きながら話を聞く。


「そして、同僚の騎士達が駆けつけた時には。街の入り口の門の近くで、すでに血だらけでアロロさんは倒れていたのです。そして、その胸には短剣が突き刺さっていました」


短剣を握りしめるようなジェスチャーをして、アルは続ける。


「駆けつけた同僚の騎士達に向けたアロロさんの最後の言葉は。アローシアを頼む、だったそうです」

「なんと、最後まで、自らの身より護るべき街を憂(うれ)いているとは……まさに武人!アル殿ッ……!」


また何かややこしそうなことを始めそうな山本さんを牽制しながら、アルに問いかける。


「今の話って、誰視点なんだ。アルが誰かから聞いたのか?」


アルが、アロロの叫び声を聞いて殺害現場に駆けつけたというのは考えづらい。


「はい。アロロさんの同僚の騎士から話を聞きました」

「そっか、それで?」

「死んだ次の日、アロロさんは復活したのですが、ぼくが話しかけても誰だか分からない様子で……」

「うん」

「アロロさんを殺した犯人が憎くて憎くて、街を飛び出してここまで走ってきました」

「いや、すげえ行動力高えな!」


びっくりだよ。それじゃあ「ある小雨の夜」とか言ってるけど、一昨日の晩とかの話じゃないか!


「アルど……」


何か言いそうになった山本さんの頭を、さやがパンっと叩いた。話をややこしくするなという意味らしいが、叩かれた本人はキョトンとしている。ウインナーを炭酸で流し込んだノブが口を開いた。


「それで、死んでいたのは街の中だな?」

「はい、ちょうど街の門のところだと聞いています」

「確かか?」

「血痕が、門の外でなく街の中……にあったので街の中だと思いますけど」

「ふぅん、まぁ。一回見てみないとなんとも、だな」

「何か気になることあるの?」


さやがノブにそう聞いた。ノブが軽く頭を掻きながら応える。


「街の中ってさ、俺らプレイヤーはNPCに攻撃できねえんだよ。門の内側、つまり街の中で短剣を刺したってなると、プレイヤーの犯行じゃねえって事になるよな?」

「あ、なるほど」

「でもちょっと引っかかるんだよな」


ウーン。


「NPC同士ならやりようはあるかも知れないけど、動機がないわよね」

「そうなんだよな」

「門の外で刺して、引きずって門の中に入れたか?それならプレイヤーでもやれる」

「出来過ぎじゃない?」

「だよなあ、いかにもなロジックだ。愚直すぎるだろ?」


ミカさんとノブが話し合う。昔付き合ってたって聞いたけど、こうしてみるとなかなか様になっているペアだ。賢そう。

一方、さやは木の棒で自分の帽子をくるくる回していた。やべえ。話し合うつもりは毛頭ないらしい。


「ユウくん」

「えっ!?な、なに」


突然、真面目な顔をしてさやが言った。


「ハーブのやつと、ペッパーのやつ。どっちにすべきかな?もうあと一本くらいしか食べれそうにないんだけど」

「……ハーブかな」

「……」

「……ペッパー?」

「やっぱりペッパーだよね。じゃあそれでシメることにするね!」


彼女にとっては殺人事件より、ラスト一本のウインナーについての方が重要な話題らしい。パリッと音を立てて食べる、でもその姿がかわいい。


「おい、リーダー!」

「はい」


ノブの呼びかけに応える。


「とりあえず現場見ようって。アローシアに行ってみようぜ」

「わかった、とりあえずそれで!」


とりあえず生、そんなノリで返事をする。

まぁ行ってみたらなんとかなるだろ、今までだってそうしてきたんだしな。

そしてアローシアに向かったのだけど、道中ずっとストロングマックスを飲み続けたノブが二回ゲロを吐いていたのは見なかった事にした。

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