ゲームブック(三十三頁目)
四階のボス以降。俺たちの進軍を止められるものはなく、順風満帆な行軍となっている。
またそのガニラ戦での消耗も、俺とさやが活躍したおかげで想定より少なかったそうだ。殆ど、その後に影響のある障害は残らなかった。
順風満帆なのは良いんだが……。
「ちょっとつまんないね」
「うーん、まぁ」
さやが、放置される宝箱を横目に不平を言った。
罠や敵の配置を事前に察知して、宝箱も無視する。冒険というにはあまりに無味乾燥な作業に近いものだ。確かに、ちょっとワクワク感には欠けるな。
うっすらと、青白い灯りに灯された室内を進んでいく。
地下五階は、ゴーレムやアンデットなど、生命を持たないモノが集まっている石造りの迷宮だ。以前に聞いた情報だと、この階層にもボスがいるはずだ、スケルトンロードだったかな。
「そういえば、他の階層のボスはどうなってるんだろ?一階とか二階とかさ」
「そういえば見たことないな。低階層には居ないのか。もう討伐されていたからか」
そういえば四階ボスのガニラも、他の攻略班の人は、以前にも戦った経験がある様子だったよな。ボスって復活するのかな。
そうすると、帰り道もあれと戦うのか……?
「もしボスが復活するとしたら?」
「えぇ復活って、復活なんかするのかなあ。そしたらやばいよね」
「確かに……キツイ」
休憩中に俺たちがボス談義に花を咲かせていると、博士が解答を持って横から入ってきた。
「ボスは復活するぞ」
「げぇ……やっぱりですか」
「うん、ただ。しばらくは大丈夫だ。およそ一週間は復活しない」
だからー予定通りなら、ガニラは帰り道にはまだいない計算になる。なるほど、と相槌を打つ。
彼の話では、俺たちが偶然(低階層のボスはアイテム目当てで狩るパーティがいる)出会わなかっただけで、各階層にはもれなくボスが居るとのことだ。
一階 巨大カマキリ
二階 オークキング
三階 狼男
四階 ガニラ
五階 スケルトンロード
六階は、未だに詳細不明だが上半身人間の巨大な女王アリがいるようだ。攻略はできていないが、目撃情報はすでに入手されている。
「それで、スケルトンロードっていうのは、どうなんですか?」
「うん、手強いよ。アンデットというのは性質上、物理的な小細工が通用しづらいのだ。我々の世界のコトワリの外にいるものは、この世界のルールに則って相手をせざるを得ない」
「ゲームブックの思うツボですね」
「悔しいが、な」
今の世界と共通するものについては、生態について想像出来る事から、いくら強力なモノでも対処しやすい。
でもゲーム特有の、魔法生物だとか命のない魔物だとかは常識が通用しない分、面倒である。例えば件のアンデットならば、初めから「呼吸をしない」し「心臓も動いていない」のだ。
勝利条件から考え直す必要がある、どうすれば無力化できるんだ。バラバラにしたら良いのか?であるとするならば、どれくらいの大きさに刻めば良いのか。
まぁ一事が万事、そんな調子であるから、そう言ったゲーム特有のモノは、博士は特に嫌がっている。
「世の中、わからんモノが一番怖い」
そういう博士に、それはそんなものなのかもな、と思ったのだった。
……
五階のボスに対する作戦会議を行おうと、各班のリーダーが呼び出された。
今度はしっかり話を聞こう、そう思って努めて真面目に座しているところに、大きな声が飛び込んだ。
「報告!五階のボスがいなくなっているぞ!」
息を切らせて、赤い顔の男がやって来た。あの顔は、三班の偵察者だったかな。名前は知らない。ガリオスが男に歩み寄り、問いただした。
「いない!?確かか?」
「ああ、探索したが隠れても居ない。姿を隠したというよりも、すでに倒されていた。という方が可能性が高いと思う」
「そうか……討伐したものがいると言う事か」
ガリオスの目線が博士に向かう、と博士は頭を横に振った。
「いや。この一週間は、どこからも討伐の連絡は受けていない」
「ならスケルトンロードを、単独パーティで撃破する。そんなやつがいたという事か。それも、俺たちの知らないやつが。」
「イレギュラーだな」
話は、単純に労せずボスを素通りできてラッキーとはならないようだ。ああでもない、こうでもない、とガリオスと博士が話し合っている。しばらくすると他の班のリーダー達の間でも、何やら相談会が始まった。
割とアウェイな俺は話に入れず、エリート集団を眺めていると、隣の男から声がかけられた。高校野球を思わせる、背の低い坊主の男だ、九班の班長だったかな。
「なぁ、兄さん。ガニラ戦の時凄かったな!あれは固有スキルなのか?」
「えっ?あ、そうみたい。固有スキル魔法形状変化(SR)の応用と言うか……」
「うおぉ!良いなぁSRスキル!俺ってNランクのスキルしか無いんだよなぁ。ああー羨ましい!」
もう一回見せてくれよ、とせがまれたが、さすがに形式上は会議中なので断った。隣の男と話しているうちに、どうやら話はまとまったようだ。
ひとまずは、今のうちにボス部屋を抜けて六階に辿り着き、そこでキャンプをする事に決定した。今回のダンジョン攻略、全く順調ではあるのだが、どこか気になるところが残るのだった。
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