第4話 消失

 

「あの子、また人形と?」


「ええ……」


「まったく、気味が悪いったらないわ」



 屋敷の奥方と、メイドたち数人が厨房で話をしている。

 人形と話をするテスタは、奇行として屋敷の者たちに気味悪がられていた。 


 メイドたちは屋敷に住み込みで働いている。

 だから、常に人形と一緒にいるテスタのその様子は端々で散見されるという――。


 とあるメイドは言う。


「夜、小用の時にもあのお人形をお持ちで……」


 夜の屋敷は真っ暗闇。

 そんな中、用を足しに出るとなれば、手にしたロウソクの明かりと。

 月明かりくらいしか、光源は無い。


「あの真っ青な眼が、月の光で輝いていて……その」


 とても不気味なのだと。

 メイドは小声で続けた。




 とあるメイドは言う。 


「あのお人形、日に日に髪が伸びている気がするんです。――たまにまばたきをしているようにも……」




 とあるメイドは言う。


「お嬢様とお人形の会話も、大道芸の役者よりも自然すぎると言いますか……」



 ――そして、奥方は言う。



「やっぱり、呪われているんだわ……!」



 メイドたちが震えあがる。



 なにせ、テスタの人形は死んだ実母の形見だ。

 その亡霊が乗り移っていてもおかしくはない。


 魔術も。

 神の奇跡も。

 物の怪も。

 アンデッドも。


 この世界には存在する。


 つまり。

 テスタの人形が『呪いの人形』という可能性は、決してゼロじゃなかった。

 



 そして、屋敷の奥方には、メイド達に隠しているもう一つの心当たりがある。



 それは、お金に困っていたこの屋敷の夫婦が。

 テスタを引き取った理由――。


 つまり。

 テスタを引き取ることによって得られる、相続金が目当てだったこと。


 

「――……なんてことなの」

 

 本当に実母の呪いかもしれない。


 そう思い。

 頭を抱えた時、メイドの一人が言った。



「お、奥様、もう、あのお人形どこかに捨ててきましょうよ」――と。


  


 それだ。

 と奥方は思い。


「ええ、是非そうしましょう。あなた、あの子の隙をついて、どこか――そう、あの森にでも捨ててきなさい」



「それなら、いっそ『古捧の大井戸』にでも」



「そうね。そうしなさい。あそこなら、二度と探せない筈よ」

 

 







 ◆◆◆◆








それから暫く経った朝。



テスタがいつものように目覚めると。




セニアの姿が消え失せていた――。


錠前のかかっていたはずの、箱の中から。



 




 

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