40 ~いつかみんなを護れる魔法少女になるために~


「……こいつらは、日本トップクラスの魔法少女達、日本の国家こっか魔法少女まほうしょうじょ最高峰のマギアールズ、五つ葉の白詰草フィブスクローバーよ」


 リサ先輩が言い終わるのと同時か、影の巨人と五人の魔法少女達がぶつかり合う。


 先ほどまでのあたし達や他の魔法少女との戦いとは違い、彼女達は、さながら子供とたわむれるかのように人型ディザイアーを相手あいてっている。


 その様子を見ていた薄黄うすき色の少女は、ポロリと心のうちらす。


「………どうやら、日本最高峰というのは伊達だてのものではないようね。これは正直、純粋にすさまじいわ……」

「……うん。凄い」


 あたしも、無意識に相槌あいづちを打っていた。


 そしてそれは、まるでわたし達の、あたし未熟みじゅくさをしめしてるようなものだった。


「ふっき飛べー!!」


 水色の少女がそう叫び、無数の五寸ごすんくぎが宙に浮かぶ巨大な魔法陣から現れる。

 それは攻撃をかわされて無防備になった人型ディザイアーの胸の真ん中へ続々と吸い込まれていき、次の瞬間、せきを切ったかのように大穴をけた。


「ギァッ……ガァぁァアアアア!!!」

「「!?!?」」


 胸に大ダメージを受けた影の巨人の化け物は、くるまぎれの雄叫おたびを上げる。

 それは反撃の咆哮ほうこうとなり、周囲のあらゆる全てを吸い込み始めていく。


「これは……! 報告にあったなんでも吸い込むってゆう欲圧よくあつか………!」

「確か、どげん魔法まほう打ちこーんでもきよらんばい」


 深緑ふかみどりくろの魔法少女達が砲撃ほうげきやぬいぐるみの魔法を放つが、そのどれもが例外なく無残むざんに吸い込まれてしまう。

 オレンジ色の魔法少女はまとう修道服を棚引たなびかせながら、地面の瓦礫がれきにタイヤをませて吸い込まれるのをふせいでいる。


「わー。吸い込まれるぅー。こんなのよく止められたわねー……」

「あー。うん。これはちょっとヤバいな。アタシのこぶしも無事じゃ済まなさそうだ」

「てゆーか、なんであいつ死なないの! ディザイアーなら胸のコア叩き壊せば死ぬはずなのにー!」


 ボヤく黄色きいろの背の高い少女も、はげしい吸気きゅうきの嵐の中、直立不動でながめている。

 よくよく見ると、くつひらたいヒールのところにセミメタル粒子入りのアスファルトへ水色の魔法少女が撃ち込んだのであろう五寸釘が引っ掛けられているが、よくあれだけで飛ばされないものだ。


 そのみず色の魔法少女はというと、巨大な釘を地面に打ち付け、器用にしがみ付いて叫んでいる。


 だけど、そんな悠長ゆうちょうに見てはいられない。が言っていたとおり、吸収の欲圧これを破れるのはあたしだけなのだから。


 火の気配に気付いたのか、影の巨人の黒い視線があたしへ向けられたように感じる。


「ルナちゃん!」

「押さえているから存分ぞんぶんにかましなさい。フレア!」

「っ―――うぅ~~~~~~~~~りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 野良のらの少女に身を預けながら、立ちこめる熱い魔力を練り上げたそばからき飛ばしていく。


 あかい杖から放射状にさかる炎は、たちまち嵐の元凶へ押し寄せていき少しの抵抗の余韻よいんの後、爆発的に燃え上がらせる。


「ギガっ……クエェエアがァァァああアアア!!!」


 瞬時にその巨体を焼き上げられた影の怪物は、よろめき、近くのビルに倒れ掛かった。


 それを見て、黄色の衣装を身にまとう直立不動の魔法少女はつぶやく。


「フレア……………? へぇ、ネームレス、か」

「………それに驚異的きょういてきな魔力量や。なるほど、あの子があの人型ディザイアーの侵攻を食い止めてたってゆうことか。凄いな、普通に」


 何か気になるようなことが聞こえたような気もするが、深緑ふかみどりの魔法少女の感嘆かんたんを無視してルナちゃんの腕からさらに身を乗り出す。


 それよりもずっと感じていた違和感を、彼女達に伝えなければならない。


 抱き上げられる腕から身をよじって降りる。足はまだひどく痛むが、えられない程ではない。


「フレアっ!?」

「あたま!! あのディザイアー、頭が気持ち悪い! ずっと《られてる》!!」

「っ!! ――そういうこと」


 あたしの声をすぐ近くで聞いていたオレンジ色のライダー少女はそう言うと、赤黒あかぐろい鉄の馬を、バルルルルォォオン!! と低くえさせる。


 彼女の動く気配を感じたのか、影の巨人はもたれ掛かるビルの瓦礫がれきつかみ出して、次々に放り投げてくる。

 が、一切の掛け声もなく、オレンジ色の少女以外の四人の魔法少女まほうしょうじょは、それを阿吽あうんの呼吸でふせいでいく。


 バロロロロオオン!!


 赤黒いいななきが、ひびく。

 オレンジ色の言葉と共に。


I'm prayerアイム プレイアHis saint ヒズ セイントthat's sad desireザッツ サッド ディザイアーWe areウィアーDestroyerデストロイヤー――」

 バルルルルルルルルルルルルルルンンン!!!

don't worryドン ウォーリーbecauseビコーズgivesギヴズ―――」

 バォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!


 オレンジ色の少女の言葉がつむがれると同時に、今までで一番の爆発音が辺り一面にとどろわたる。


 思わず目を閉じすぐさま開けた場所には誰も居らず、つらなる轟音へ顔を向けた先、四人の少女達によって開かれた影の怪物の頭部への軌跡きせきの上に、彼女は走っていた。


saveor セイヴァー!!」


 ギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィ!!! と空中で一回転された内燃式大型バイクの後輪は人型ディザイアーのひたいへ容赦なく叩き込まれ、


 ロロロロロロロロォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!

「ギ…………っ―――」


 次の刹那せつな


「ギャァぁアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 影の頭の中から一瞬のうちに削り出されたどすぐろ真紅しんく宝玉ほうぎょくを、オレンジ色のブーツによって絶叫ぜっきょう断末魔だんまつまを響かせながら跡形もなく粉々こなごなくだき割られた。


 名古屋なごやのコンクリートジャングルに残響ざんきょうはなち、残された黒い影の巨体も後を追うように風にけ消えていく。


 オレンジ色の魔法少女がまたがる赤黒い大型バイクは、バオン!! とひときしてひび割れた本町通ほんまちどおりのアスファルトになんなく着地する。

 他の四人の魔法少女達も、なんでもなかったようにわらわらと討伐者とうばつしゃの元へ集まっていく。


 それは、どうしようもなく、格好良かった。


 そして、うたがいようもなく、助けられてしまった。



「………ルナちゃん」

「……えぇ」

あたし、強くなる。今のままじゃ、弱いままじゃルナちゃんが言ったとおり、本当に大事な人達しか、まもれない」

「それは、私も同じ。ただそれさえできればいいと、思っていたわ」


 いつの間にか衣装が白色に戻っていた隣に立つ野良のらの少女は、そう返す。


 その姿が、彼女の後ろの夕焼ゆうやけごとゆがんでいく。


「でも、それじゃダメなんだ。あたしは、の、笑顔をまもるために、魔法少女になった! 欲望よくぼうかなえるために、テリヤキと一緒に、魔法少女まほうしょうじょになったんだ!」


 熱い目頭めがしらを腕で強くこすって、決意を、決断を、もう一度むねに抱きめる。


「ルナちゃん。あたし、強くなる。みんなの笑顔をまもれるように。いつか――」


 胸の内にひそむ、相棒のねつを感じながら。

 鮮明せんめいになった、正面に立つ将来は美人さんになりそうな少女の可愛い顔を強く見つめながら。


「いつかみんなをまもれる魔法少女になるために!!!」

「……私も、分かりきっていたことを、気付かされた。人一人に出来る事には、限界があるということを。……だから、あなたとチームを組むわ」


 目の前の少女は、足元をふらつかせつつも、しっかりと大地を踏み、声をむ。


「マギアールズ、だったかしら。国家魔法少女国の狗にはならないけれど、それはいぬでなくとももうけられるのでしょう。大切なものを、この両の手からこぼとさないために、私も、なりふりかまっていられないわ。それにあなたなら、信頼はまだ無理でも、信用しんようはしてあげられるから」


 夕日に当てられてか、肌の白い美麗なお顔は、あかまる。


「――っ。……うん。………あと、テリヤキをもとに戻す! テリヤキは言ってた。戻すのは難しいって。つまり、不可能じゃない、ってこと。その方法を探すためにも、強くならなくちゃ。よろしくね。ルナちゃん。二人で、強くなってこう……!」

「……ええ―――」





 その後は、淡々たんたんと事後作業が行われた。


 《あたし達》は折り返しのリニアモーターカーに乗って、来た時とはまた違う形であっというに関東へ戻る。



 自衛隊や警察の人達が瓦礫がれき撤去てっきょや死傷者の確認といった事後作業に入る前、ルナちゃんは一人抜け出す前に、あたしささやく。


「言い忘れていたけれど、私の存在は、あの子———十六女いろつき深輝みきには内緒にしておいてくれないかしら」

「え? あ……うん。いいよ、大丈夫。ルナちゃん秘密なんでしょ? 話せないことは誰にだってあるから。それに、ルナちゃんはルナちゃんだし、深輝みきちゃんは深輝みきちゃんだもん」

「――まったく、あなたって人は変わらないわね。………でも、そういうところは、変わらないままでいなさい」


 言って、薄白はくびゃくの少女はくるりときびすを返して歩き出す。


 無茶をしなければ、変身を維持いじしたまま今日中に関東まで帰れるらしい。

 ただ認識にんしき疎外そがいの魔法は無理らしいから、一人の方が都合がいいのだという。少しさびしい。


 しかし、数歩すすんだところで、「それから」とルナちゃんは振り向いた。


「トモナ、これからはしたくのをやめなさい。あなたは抜けていることが多いから、よくミスをして落ち込んだりするでしょうし、気が滅入めいってそうしたくなるのは分からないでもない。けれど、下を向いてばかりだと大切なものまで見逃みのがしてしまうわよ」

「………?」

「あなたが護ったは、顔を上げなければ見えないものなのだから」

「―――っ」


 うつむいていた目線を上げた先には、とてもほがらかな笑顔があった。


 戦いの中で見せてくれたものとはまた違う、心があらわれるような、素敵すてきな笑顔が。



 そしてルナちゃんと別れたあと、リニアの駅で待っていたのは。


「お、来た来た今日は助かったわトモナ……いやフレアだったかしら」

「おーほっほっほ! 岐阜ぎふいちの魔力量とうたわれたわたくしを差し置くだけの働きでしたわ。トモナさん!」

G Jぐっじょぶ

「あんましやぐにたてなぐっで悪かったおしょーしだ。今日はありがとさまね。トモナちゃん」

「今日はホントに助かったわ。野良ノラのヤツにも今度サンキュってつたえといてくれ」


 それは、今日、確かにあたしまもった、一緒に戦った魔法少女達の、色とりどりのまぶしい笑顔だった。


 だから、あたしも、こたえる。



 誰にも心配させないような、今度こそ最後までつらぬく、最高の笑顔えがおで。





 終章 - 覚悟         完

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