第一編 国家魔法少女 ふれあ🔥トモナ

序章 - 邂逅

 0-1 ~魔法の少女~ MAHOU


あたしは、魔法精霊獣まほうせいれいじゅう■■のちからを、思いを宿やどして、お前を倒す■■国家魔■■女。■■■■■をまもる――魔法少■■■■だ!!』



 これは、ゆめだ。


 夢の中なのに、今、あたしは夢の中に居ることを自覚している。

 今までそんなことはなかったのに、変な感覚だ。

 これはあれだ。確か、正夢マサユメ? とかいうヤツだろうか。ハクチュウム、だったか。


 そんなことはどうでもいい。

 さっきまで、おばあちゃんやお母さんが出てきていたような夢だったかと思ったら、今、夢を見ていると認識した途端とたん、場面がうつり変わった。


 としの影もバラバラな色とりどりの少女達が、それぞれの魔法をあやつり、戦っている。


 顔も声も、所々がにじんでその全体ははっきりとしない。

 そもそも、その前のお母さんやおばあちゃんも、本人だと分かったけど、どんな格好をしてどんな顔をしていたのかも覚えていない。

 というか、なんでこんな夢を見ているのだろう。


 何故なぜか、は、からなくはない。



 あたしも、魔法少女まほうしょうじょだからだ。



 姿かたちはちがえど、ゆめの中の女の子達はあたしと同じ魔法使いの少女。魔法少女だ。

 とはいっても、あたしは最近魔法少女になったばかりだから、正直まだ右も左も分からない。


 少しして、また場面が変わる。


 今度は、愉快ゆかいな姉妹にイタズラをされている。

 ……誰が? ……どうやって?


 また、場面が変わる。元気な少女が、台風をき飛ばした。……えぇ?

 少し困惑する。また場面が変わる。

 泣きじゃくる女の子。この女の子は、どこか見覚えがある。いつも会っている。なのに、誰だか分からない。場面が変わる。目の前で、誰かが死んだ。――かと思ったら、すぐに生き返った。ワケが分からない。

 日本の山奥で、修行。なぜ急に? 世界中を旅している。キャンプをしている。何か、女子トークをしている。海で水着大会。いかりと、哀愁あいしゅうがないまぜになって、大好きな人とあらそっている。影が、勇者を飲み込む。大好きな人と、笑い合っている。大好きな人と、めぐり会う。

 次々に、場面がうつり移り変わっていく。


 『次は、かみ板橋いたばしかみ板橋いたばしです』


 次は、かみ板橋いたばしだ。




「――って降りなきゃ!!」


 飛び起き、視界に入ったのは、動作の音を微塵みじんも立てずにスライドして開く、金属の二枚扉。

 代わりに、それを知らせるピロンピロン、という電子音が鳴っている。

 扉の近くに立っていた人達が、続々と外へ歩いていく。


「わー! 待って待って! あたしりる!」


 眠りこけていたシートから飛び起き、あたしは外へ出ていく人達の次に入ってこようとする人達をき分け、コンクリートの地面に足を降り立たせる。

 その背後で、また軽快な電子音が鳴り響き、あたしが出てきた扉がめられる。


 安堵に一息き、振り向いたそこにあったのは、大きな金属の箱。電車だ。


 その時、短い電子音のメロディーが降り立ったホームに響いた。

 そして良く耳をまさないと聞こえない静かな駆動音を残し、電車は走り出した。


 何両か連なるそれを見送って、ふと視線を上げて液晶掲示板えきしょうけいじばんひとみうつす。そこには、次の電車の出発時刻が表示されて――。


「そうだ学校! 早く行かないと! コマリちゃんが先に行っちゃう!」


 今日は寝坊して、いつもより一本遅い電車に飛び乗ったのだった。






「遅いわよトモナ。あと四十秒で来なかったら先に行くところだったよ」


 国道245号線のなかなか変わらない信号にヤキモキしてから、急いで走って向かった住宅街の交差路。

 そのかどに身を預けながら、ハンドウォッチタイプの携帯端末を触っていた同級生の女の子小鞠こまりちゃんは、あたしの姿を見るや大空にでも飛び立ちそうな口調であきれ顔を向ける。


「うぅ……ごめんね小鞠こまりちゃん。今日は電車を一本のがしちゃって」

大方おおかた寝坊したか、ぼーっとしてたかなんでしょ」

「うっ」


 その通りだ。

 昨日は、魔法少女まほうしょうじょになったばかりのあたしのために、先輩達が遅くまで付き合ってくれたのだ。

 だけど、そのおかげで帰ってから寝る時間が遅くなってしまった。あんじょう、今日は目覚ましの時間に起きれなかった。


 けれど、それは小鞠こまりちゃんには言えない。


 魔法少女は、その正体をほかの人には知られてはいけないから。


「そ、そうなんだー。実は昨日、面白い本があって夜更よふかししちゃったんだ……」

「それで寝坊した、と。ま、どうせマンガだろうけど」

「あ、あはは」


 確かにあたしは、マンガ以外に自分で本を読むことは滅多めったにない。

 小鞠こまりちゃんには、よく色んなことを見透かされていることがある。恐ろしい子だ。

 だからごまかせるなら、それに乗るに越したことはない。

 それにしても、ヒドい言い草だ。


「…………。まぁなんでもいいけど、髪がよれてるわよ。どうせ電車でも転寝うたたねしてたんでしょ」


 何か考えるような仕草しぐさをしていた小鞠こまりちゃんは、あたしの横髪を手でほぐして整えてくれる。


「えへへ。ありがとう。小鞠こまりちゃん」

「まったく。ほら、にやけてないで、早くしないと遅刻するよ」

「あっ。待ってよ小鞠こまりちゃーん」


 頬をゆるめるあたしから手を放し、ダークブラウンのボブウェーブを揺らして小走りで駆け出す小鞠こまりちゃんを追って、あたしも中学校へ向かって走り出す。


 今日三度目のランニングだ。

 今日の授業に体育がなくって良かった。……あれ? なかった、よね。


 そんなことを考えながら、頭のすみで、思い浮かべる。

 さっきの、おぼろげな夢を。そして。

 昨日、魔法少女として、初めて戦った時のことを。


 不思議な、出会いのこと、を。

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