第13話 Prime minister's Job
自衛隊のヘリが避難キャンプとして使用しているエリアに墜落したという報告が入ったのは、三島慎一郎が寝酒のウイスキーを飲みながら、眠りにつこうとしていた時だった。
ここ数か月、酒なしで眠れたことは一度も無かった。ただ酒を飲んで寝たところで、1時間もしないうちに悪夢を見て目が覚める。三島は、そんな毎日を送っていた。
「――総理、夜分に失礼します」
ドアが乱暴にノックされ、血相を変えた秘書官の佐伯が入ってきた。
佐伯の顔も疲れ切っており、以前のような世間知らずのとっちゃん坊やという印象はなくなっている。
「どうした。なにかあったのか」
「自衛隊のヘリが……」
佐伯は避難キャンプエリアに自衛隊のヘリが墜落した旨を報告した。
そのヘリは非制圧エリアから人々を救出して来たヘリだということだった。
いままで色々なことがあったが、自衛隊のヘリが避難キャンプに墜落したのは初めてのことだ。
「わかった。防衛大臣を直ぐに呼べ。それと統合幕僚長もだ」
三島は佐伯に指示を出すと、ガウンを脱いでスーツに着替えた。
避難キャンプエリアとは、自衛隊がデッドマンたちから取り返したエリアで千代田、新宿、文京、台東の4区にまたがる広範囲エリアだった。そのうちの文京区にあるキャンプエリアで墜落事故が発生したようだ。
文京区のキャンプエリアには、三島の妻子も避難していた。それだけに安否が気がかりであったが、いまは公務が優先だと自分に言い聞かせて、防衛大臣と統合幕僚長に会うことを選択した。
ふたりが首相官邸にやって来たのは、三島が佐伯秘書官から報告を受けて30分後のことだった。
防衛大臣は眠っていたところを起こされたらしく、寝ぐせのついたままの髪型で現れたが、陸海空自衛隊のトップである統合幕僚長は一糸乱れぬ制服姿で現れた。
「今回の被害状況です」
統合幕僚長がタブレット端末を出して、説明をはじめる。
ヘリが墜落したのはキャンプエリアのほぼ真ん中であり、現在わかっているだけでも20人近い死傷者が出ていた。さらにどこから入ってきたのかは不明だが、デッドマンの姿も見られ、感染の拡大もはじまっている。
現在、自衛隊と警察でデッドマン排除に動いており、消防が被害者の救出を行っているとのことだった。
「確か、新宿エリアには総理の奥様とお嬢様が……」
防衛大臣が伺うような目でいう。
その言葉に三島は咳ばらいをして、余計なことはいうなと防衛大臣を制した。
「新宿エリアの制圧は、統合幕僚長に任せる。デッドマンたちをエリアから完全に排除してくれ。防衛大臣は今回の事故の原因を調べなさい」
「わかりました」
先に席を立ったのは、統合幕僚長の方だった。
防衛大臣は何を考えているのかわからないが、もたもたとしていた。
ふたりが首相官邸から出ていくと、三島は小さくため息を吐いた。
いつまでこの状況が続くのだろうか。
すでに感染爆発が起きてから、三か月の月日が経っていた。
あの日、記者会見場で噛みつかれたカメラマンはどうなったのだろうか。
あの時の映像が、何度も夢に出てきていた。
いっそのこと、すべてを投げ出して自分もデッドマンになってしまった方が楽なのではないだろうか。そんなことすらも思ったりもする。
だが、自分は内閣総理大臣なのだ。いま自分がこの職務を投げ出したら日本国民はどうなってしまう。こんな時にリーダーシップを発揮せずにどうするんだ。こんな時だからこそ、リーダーシップを発揮して、日本国民を導いていかなければならないのではないか。
三島は自問自答を繰り返しながら、悪夢を断ち切った。
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