第30輝 逃走

同士討ちフレンドリーファイアは勘弁して欲しいかな」


 両手を上げて降参のポーズを取りながら、見覚えのある魔法少女、レイドジェードと他2人の前に体を晒す。───リリーアメシストはいないな、まだ回復していないのか、ここへはスクワッドの1人が欠けた状態でここ来たらしい。周りにもそれらしい反応は無い。

 ───って、あれはバルクガーネットとリーテタンザナイトか。俺が昨日、それぞれ後衛シューター前衛アタッカーに割り振った2人だ。

 バルクガーネットとリーテタンザナイトはまだ魔法少女になって間もないはず。2人の職業を分類したのも昨日の夜……というか、時間的には今日だ。

 レイドジェードと一緒にいることを見るに、今日の未明にレイドジェードとリリーアメシストが『逃がした』と言っていたのはこの2人のことだろう。つまり、どちらか片方は病み上がりということになる。


「魔法省の人手不足は深刻みたいだね」


 新人で、しかも病み上がりを現地に送り込む程度には人手不足らしい。魔法省の魔法少女ってやつは。

 幸い、俺のつぶやきは3人には聞こえていなかったらしい。

 俺の方に向けた魔法具を下ろさずに、青紫の髪を肩ぐらいの長さで切り整えた、魔法少女というよりは侍に近い衣装を纏ったリーテタンザナイトが俺に質問をしてくる。───これは質問というよりは詰問か。


「ここら辺に現れたSOを探している。どこに行ったか知らないか」


 ここら辺に現れたSOって言うと、確実にさっき俺が倒したSOのことだろう。

 俺は回収しておいたSOの魔石をリンから受け取り、2人の後ろにいたツーサイドアップに少し長めの赤髪を整えた魔法少女、バルクガーネットの方に投げる。The魔法少女っぽい衣装だが、腰には無骨な拳銃っぽい魔法具が吊り下げてあるのが見える。

 バルクガーネットに魔石を投げたのは、キャッチできそうなのが彼女しかいなかったからだ。前2人はレイピアと刀手に持ったままだし、1人に至っては刀をこっちに向けたままだし。


「あわわっ」

「───これは?」


 投げた魔石を手榴弾だとでも思ったのか刀で斬ろうとしていたリーテタンザナイトを止めていたレイドジェードが、バルクガーネットが受け止めた物を見て俺の方に尋ねてくる。


「『ここら辺に現れたSO』だよ。昨日の蟹と同じタイプって言えば、その魔石の色も納得してもらえるんじゃないかな」

「カニと同じ?」

「それって……?」

「複数の属性を持っている個体……」

「そういうこと」


 3人が魔石に注目しているのを確認しつつ、俺はこの倉庫からの逃亡経路を探る。───あのクレーン、使えそうだな。

 今俺は魔法省にされている状態だ。さっきリーテタンザナイトが俺の方に向けた刀を下ろさなかったのはそういうことだろう。このままここに居続けるのはリスクが高い。

 よく見ると迷彩で姿を隠しているドローンが見える。壊して損害賠償とかになったら洒落にならないから、魔法で視界を塞ぐのが一番かな。

 低燃費版の『光速の導き手ギ・ドラ・ビテス・ドラ・ルミエ』はまだ余裕で発動できる。よし、このプランで行こう。


「『光よ』!」

「なッ!?」


 剣身の魔晶石から、攻撃性のない無害な光を3人の方へ放ち、その隙にクレーンに向かって走り出す。


「SOは殺した! これ以上は話すことはないからね! 『光速ギ・ドラ・ビテス───』」


 努めて女の子っぽい喋り方をしながら、光に紛れてガントリークレーンの方へ願いの魔法を唱えながら駆け出す。

 あとはあれを足場にして、強化された脚力を使って地面と平行に吹っ飛ぶだけだ。


「『───の導き手ドラ・ルミエ』……ッ!?」

「『平和のための破壊者ディトラクター・ディ・ラ・フェ』」


 俺の願いの魔法が、願いすぎない程度に発動した瞬間───横から飛んで来た、強烈な魔法の発動の気配に、思わず足を止めて剣でガードしようとする。

 けど、こりゃまずいッ……防ぎきれね───

 体の芯から死を察知した瞬間、魔法は俺の体を通り抜けるようにして消えていった。───発動した願いの魔法のみを狩りとって。


「なるほど……リリーアメシストか……」

「そ。今度は逃がさないわよ? クレイアンブロイドさん」


 振り下ろされたままの死神の鎌が、この後の俺の運命を暗示しているようだった。

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