第8輝 覚悟
「それで、行かなくていいのですか? セイ」
「行くってどこに? それに、セイって……?」
「あの爆発で巻き込まれた人がいるのか、気になるのではなかったのですか? セイは愛称のようなものです。そういう風に呼びたかったので」
確かにあそこの爆発は気になっていた。気になっていたが、俺が行ったところでどうこうできるとも思えない。
───愛称云々に関しては考えないことにする。なんでもいいや。好きに呼んでもらおう。
「……セイ。自分の置かれている状況、忘れましたか?」
白猫がじっとりとした目を向けながら俺に聞いてくる。
どういうことだ? 置かれている状況? いや、SOに襲われて死にかけて目が覚めたら魔法少女に───
「魔法少女になったんですよ。セイは」
「───確かに」
確かに、今の俺は魔法少女だ。
思い出したように頷く俺に、彼女は少し呆れながら続ける。
「……セイは、これからもその力を使うはずです……必ず」
少し溜息をつきながら、今日初めて会ったはずの俺へと的確な指摘をする白猫。彼女の俺への指摘は合っている。間違いなく、俺はこの力を使って戦いに身を投じるだろう。
SO、魔法省、そして魔法少女を無くすために。
「なら、自分の力を正確に把握しておく必要がある。違いますか?」
何も言わずに首肯する。確かに、まだ自分の力がどういうものなのか、どれぐらいの等級なのかとか、自分の魔法少女の力は未知数だ。
その状態で例えば魔法少女とSOが戦っているところへの介入などは出来ないだろう。考え過ぎかもしれないが、俺が力を制御しきれなかった場合、最悪、巻き込んでしまうかもしれないから。
───実例もある事だしな。
「なら、あとは覚悟の問題です。あなたに戦う覚悟はありますか? ……と言っても、これは愚問でしょう。だって───」
少し苦笑しながら続ける彼女は、俺から生まれた存在と言うだけあってか、俺の事をよく知っているようで。言わなくても、俺が覚悟は決めていることを見抜いているし、なにより───
「焦っているんですよね? あの爆発に巻き込まれた人がいないか、まだSOが暴れていないか確かめたいから」
「あぁ。俺は、救える命に手を伸ばさないなんてことはしない」
「───それでこそです」
猫の癖に表情豊かな彼女は、やはり普通の生き物とはちがうんだなと思いつつ、その不敵な笑みに応えるように俺も笑みを浮かべる。初陣の緊張を和らげるために。さっきまでの出来事の全て、考えなきゃいけないこと全てを、一旦忘れるように。
白猫が、俺の肩に器用に乗り、俺の顔を覗き込む。その目線に応えるように、俺は強く宣言する。
「行こう。助けを求めてる手を掴むために」
「はい。あなたの力を知るためにも」
───その後すぐ、魔法少女になったことで強化された脚力で軽々二階建ての一軒家を軽々飛び越えてしまい、俺はたまらず叫んでしまうのだった。
因みに、白猫は笑いをこらえるように肩の上で震えていた。覚えてろ。
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