10月29日(土)
昨日はテンション上げてはしゃぎすぎたせいか、今日は今朝からメランコリックでダウナーな気分だった。窓の外では名前の知らない鳥が二羽、元気よくじゃれ合いながら鳴いていた。よく晴れた風の冷たい日、なんのやる気も出ない俺はただ椅子に座って、鳥の声をボーッと聴いていた。
テストは終わった。しかし、どうせすぐに期末テストが襲い来る。今そんな事を考えても仕方ないというのに、そんなことばかり考えてしまった。ネガティブシンキング。そういえば、昨日の夜からお腹の調子もよくない。多分、カラオケでジュースとお菓子を食べ過ぎたせいだ。にきびもできた。多分それも昨日のせいだ。なにもかも、なにかのせいだ。ネガティブすぎる俺。
ま、そういう日もあっていいだろう。にんげんだもの。それに秋の日はメランコリックがよく似合う。俺は窓のカーテンを開けた。秋の斜陽が部屋に差し込んできた。日光の照らす部分と陰の部分がくっきり分かれた。秋らしいコントラスト。そしてネガティブな一般男子高校生。これも芸術の秋かな。
そんなことを思ったり考えたり、ときには耽ったり呆けたりしながら、俺はスマホを手に取った。メッセンジャーアプリを開き、タツミとのチャット画面を開いた。
『今日は楽しかったね!(木の絵文字) 次のテスト終わりもみんなで行きたいね~(ロケットの絵文字)』
昨日の夜にタツミから送られてきたメッセージだ。
なぜチャット画面を開いたのか、正確な理由は自分でもわからなかった。ほぼ無意識的行動だった。メランコリックでダウナーでネガティブな俺は、無意識的にタツミを求めてしまうらしい。
いいだろう、なら、無意識にもっと従ってやるさ。
俺は思い切ってタツミに通話をかけてみた。タツミはすぐに出た。
「お、どしたの? 寂しくなった?」
言われて、ハッとなった。
そうかもしれない、と思った。昨日、みんなで楽しくはしゃいだその翌日に、一人で過ごす休日の朝ほど寂しく感じられるのものはないのかもしれない。桜の散った後のような、祭りの後のような、枯れ葉が全て落ちた後のような……そんな寂しさだった。
タツミはやっぱり凄いやつだ。何も言わないのに、俺もわからなかった俺の心の内を見透かすなんて、さすがはタツミだ。おみそれしました、タツミさん。
「寂しいってなんだよ。そんなわけないだろ。今、暇しててさ。そっちは今暇?」
だが、俺は嘘をついた。さすがに寂しいなんて口に出して言えない。そんな甘えたようなこと言って、キモがられたら最悪だし、甘えん坊だって言いふらされたらもう目も当てられない。クラスに広まっちゃったりなんかしたら、その日から俺のあだ名は『甘えん坊将軍』になる……かもしれないし。
「めちゃめちゃ暇だよ~。あ! そこで提案です! 美術館に行きたいと思ってたんだけど、どう? 一緒にいかない?」
「おう、行こう」
俺は迷うこと無く即答した。メランコリックでダウナーでネガティブなマツザキくんはもういなかった。タツミの声を聞いた瞬間に、俺はいつもの才気煥発で風光明媚なマツザキくんだ。うん、褒め過ぎな上に意味不明だな。メランコリックダウナーネガティブの反動で、今度は陽気になりすぎているみたいだが、ま、タツミと遊ぶのだからこれくらいがちょうどいいだろう。
「じゃ、今から三十分後にそっちに行くね~」
「あいあい~、じゃ、待ってる」
それで通話は終わった。たった二分足らずの通話だったが、阿吽の呼吸があり、何もかも簡単に通じ合っていた。俺とタツミは馬が合う。馬といえば、天高く馬肥ゆる秋、という言葉もあるな。俺たちの馬も肥えていく時期なのかな……。
それに今からタツミと美術館。まさに芸術の秋だ。なんだかんだ言って、俺は秋を頭から尻尾まで、隅から隅まで堪能しているような気がする。それもきっと、タツミのおかげだ。タツミがいるから、俺の秋が充実するんだろう。やつには感謝しないといけないな。
チャイムが鳴った。俺は軽い足取りで、部屋を後にした。
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