第9話一線を越えて

ルーと行動を共にするようになってから、今日で三日目。

分かってわいたけど、ルーはめっちゃ強い。

今日だけでも七人狙撃で殺ってる。

正直、あの時ルーを見つけてなかったら、間違いなく頭を抜かれてた。

『ロシアの殺し屋恐ロシア』なんて言葉があるけど、シャレにならないくらい恐ろしい。

味方で良かった…


「ミドリ、足音」

「分かってる。数は三〜五かな?」


あと、私と同じくらい五感が鋭いから、ちょっとした足音も聞き取って教えてくれる。

まあ、教えてくれる頃には私も気付いてるけど。

私は、いつもの拳銃と、ルーと出会った時に手に入れた『デザートイーグル』を持って、会敵に備える。

ルーは、恐らく『モシン・ナガン』らしきライフルを構えてる。

そして、お客さんが角を曲がってきた。

ふ〜ん?角を曲がる時は誰か居ないか確認するのが鉄則何だけどなぁ。

そんな事を考えている内に、最初の一人の頭がルーの狙撃で吹き飛んだ。

この距離だと狙撃と呼んでいいのか怪しいけど、まあ、狙撃でいいでしょ。


「なっ、なんだぁ!?」


相手の慌てる声が聞こえてきたが、もう遅い。

私が距離に詰めて、角から銃身だけ出して引き金を引く。

経験則で、相手がどこに居るか大体予想はつく。


「ぐあっ!?」

「なんでっ!?」


見えていないにも関わらず、正確な銃撃を受けて、相手は混乱しているようだ。

私は近くに置いてあった鉢植えを掴むと、向こう側に向かって放り投げる。

すると、動くものを見て、髄反射で注意を引かれた奴等が銃を撃つ。

もちろん、あれは鉢植えなので誰も損はしない。

その隙きに、角から飛び出した私が正確に全員の眉間を撃ち抜く。

敵は三人、角撃ちで二人当ててるから、実質一人だ。

その一人は、右手に持っていたデザートイーグルで撃ったせいで、頭が吹っ飛んでしまったけど、残りの二人は比較的原型を留めていた。


「終わった?」

「うん、コインは山分けね」


功績で言えば私のほうが倒してるけど、道中狙撃で殺った分の回収は出来てないから、山分けにしても足りないくらいだ。

とりあえず、近くに倒れている奴からコインや道具を奪うと、使えそうな物を探す。

そこで、私は興味深い物を見つけた。


『使用済みのシールドチャージャー』


シールドだって?

直訳すると、『盾の充電器』でいいかな?

まあ、意味は間違ってないだろうけど、そういう道具ではないはず。


「それ、シールドチャージャーだよね?」


私が持っている物を見たルーが、後ろから話しかけてきた。


「知ってるの?」

「もちろん。《コンソール・リング》に挿して使うんだけど、シールド…まあ、バリアのような物が使えるようになるのよ」

「バリアか…それって、常時展開?」

「いや、攻撃された時に自動と、使いたい時に自分の意志で発動出来るよ。でも、このチャージャーは使用済みみたいだね」


なんだ、使えないの。

こんな産業廃棄物ゴミは、そこら辺に捨てておけばいいでしょ。

私はゴミを適当にポイ捨てした。

ポイ捨てよくない?私は日本人だけど、人生のほとんどを訓練と戦地で過ごしてるから、日本人的な思考が残ってる事自体が奇跡なの。

律儀で謙虚な日本人らしい性格はかなり薄いよ。

それに、私に常識の類は意味がないよ。

じゃなきゃ、この歳でニコ中になってないっての。


「さっ、次の獲物を探しに行きましょう」


私とルーは、あたりを警戒しながら次の獲物を探しに歩き始めた。







夕方 ホテルの一室

結局今日はあれ以上人は見つからなかった。

多分、この近くにはもうほとんど人はない。

このホテルに別れを告げる日は近そう。


「ねえ、なんのつもり?」


私が黄昏れていると、目のやり場に困るという表情のルーが耳を赤くしてそっぽを向いていた。

理由は簡単、私が下着姿だから。

でも、女同士なのに下着姿を見て恥ずかしがるって、ルーって意外と恥ずかしがり屋なのかな?

ちょっと遊んでみよう。

私は、こっそり近付いて、ルーの腕に胸を押し当てる。

戦地に居た割には大きい私の胸。

きっと、ルーの腕はマシュマロのような柔らかいモノが当たる感触に包まれているに違いない。

予想通り、ルーがビクッ!と震えて真っ赤になってる。

初心だなぁ…


「そろそろ怒るよ?」

「わぁ〜、怖〜い」


私がヘラヘラした返事をしながら、更に強く胸を押し当てると、ルーはピタリと固まってしまった。

恥ずかしさが限界突破しちゃったかな?

ルーの顔を覗き込むと、急に動き出したルーが私をベッドに押し倒した。


「なっ、何して、むぐっ!?」


そして、勢いよく唇が重なった。

…勢いがよすぎて前歯同士がぶつかってしまったけど。

私が混乱している中、ルーは自分の舌を私の口の中に入れて私の舌を探す。

うねうねと私の口の中を動き回ったルーの舌は、お目当ての物を見つけるとそれに舌を絡ませて引っ張ってくる。


「ーッ、ーーッ!!」


私は、ルーに止めるよう言おうとするが、ルーはそれを許してくれない。

それどころか、私の両手を掴んで抵抗出来ないようにしてきた。

さらに、脚同士を絡ませて蹴りの対策もしてる。

振り払おうにも、混乱してるせいで力が出ない。

なんとか抵抗するが、ルーは私が抵抗した分力を強くしてくる。

私はしばらく口の中を好き放題された後、ようやくルーは口を解放してくれた。


「プハッ!ハァ…ハァ…」


私は解放された口で荒い呼吸をする。

鼻は何もされていたかったけど、無理矢理暴れたせいで呼吸がうまく出来ていなかった。


「な、何するのよ…」


さっきまではルーが真っ赤になってたのに、今は私が赤くなっている。

耳が異様に熱くなってる、きっと羞恥で耳が赤くなったのと一緒に熱くなったんだろう。


「お、女同士でこんな濃厚な…」

「ごめんなさい。もう、我慢出来ないの」


すると、今度は片手で私の手を抑えたルーは、もう片方の手を私の下半身ヘ伸ばす。

そこで私はルーがナニをしようとしているか理解した。


「や、やめて。私達はそういう関係じゃないでしょ」


私は必死に訴えかけるが、ルーはそれを無視して私の予想通りの事を始めてしまった。


「いや…止めてよルー。こんなの良くないよ…」

「ごめんなさい」


今度は弱々しく助けを求めるように言ってみたが、ルーの手が止まる事はなかった。

それどころか、さっきよりも心做しか激しくなっている気がする。


「ミドリが悪いのよ。こんなに可愛らしいのに私の事を誘惑してきて…」


ルーは、私の耳元で私の批判をささやいた。

誘惑?私はそんな事をした覚えはない。

…いや、今まで何度もルーに私の胸を押し付けてきた。 

特に、夜はルーを抱きまくらのようにしている事が多く、しっかりしがみついていたせいで胸が押し当てられていたんだろう。


その事に気付いた瞬間、点と点が繋がった。

私がこんな格好をしてルーが恥ずかしそうにしていたのは、私の事を性的対象として見ていたから。

恐らく、ルーはレズビアンだ。

そういう人が居るとは聞いていたけれど、まさかこんなに近くにその人が居るとは思わなかった。


「やっ!…ちょっと…耳噛まないで…」

「ミドリの耳、とっても柔らかくて美味しいよ」


ルーは私の耳に噛み付いて、口で耳を弄ぶもてあそぶ

もちろん甘噛だから痛くない。

でも、人に耳を噛まれるという行為自体が恥ずかしい事で、それどころか私の耳を舐め回してる。

愛情表現として甘噛をするという話は聞いたことがある気がするけど、まさか自分がそれを受けるとは思わなかった。


「やっ!やっ!…も、もうムリ…やめて…」

「駄目、私が満足してない」

「ごめんなさい。私が悪かったです。謝るからもうやめて下さい」


私は涙目になりながら訴えかけるが、私の目を見たルーが嗜虐的な笑みを浮かべた。

そして、また唇を重ねてくる。


「ーッ!ーーッッ!!ーッ!?ーーーッッ!!!」


私が嫌がっているのは目に見えているのに、ルーは一切手を緩めない。

私とルーの涎が混ざりあったモノが私の頬を滴る。

その感覚が気持ち悪くて仕方なかったが、その不快感も吹き飛ぶような感覚が下半身から伝わってくる。

それの発生源はルー触られている場所。

私があの手この手で抵抗するが、まるで手を緩めようとしない行為。

そして、その場所から全身へ電流が流れる。


「ッ!?ーーーッッ!!!!」


久しぶりに感じる特別な快感に、私の頭の中が真っ白になった。

そして、私は崩れ落ちるかのように体から力が抜けていった。


「はぁ…はぁ…」


意識が戻ってきた私が聞いた音は、荒い自分の呼吸音。

まるで、全力疾走をした後のような呼吸の乱れ具合。

その乱れた呼吸が、一線を越えてしまった事を物語っていた。


「っ!ご、ごめんなさい!!」


私が天井を仰いでいると、ルーが慌てて謝ってきた。

どうやら、正気に戻ったらしい。

さっきのアレは、理性が飛んだせいでああなったのか。


「その…実は私、レズビアンなの」

「…」

「ミドリが凄く好みの顔立ちとか体つきしてて…それに、何度も胸を押し当てて来たりしてたから、我慢出来なくなって…」

 

ルーは必死に弁明しているようだけど、私はようやく思考が追いついてきた程度。

とてもじゃないけど、ルーの話を全て理解出来る状態ではなかった。


「…私に欲情して、襲いかかってきたって事でいい?」

「ッ!!」


私は普通に質問しただけなのに、ルーにはどう聞こえたのか、この世の終わりのような表情をしている。


「うん…その通りだよ」


消えてしまいそうな声で話された言葉は肯定。

逃げるように私から離れるルーの手を、私は掴んで引き止める。


「行かないで」


今、私が思いついた中で一番の言葉。

正直、まだ混乱してるせいでそれ以上の言葉が思いつかなかった。

私はそのままルーの手を引いてベッドに連れ戻す。


「昔、性的虐待を受けた事があった」

「…」

「その時は、本気で嫌だった。こんなの嫌だ!早く逃げたい!!そう思ってた」


私は強張った表情のルーの頬に手を当てて、優しく撫でる。


「今も、ちょっと嫌だった。でも、前ほど嫌だとは思わなかったし、何故か安心?出来た」

「…そうなの?」

「うん。きっと、ルーは私の十六年の人生の中で一番信用してた相手だから、あんまり拒絶しなかったんだと思う」


顔も名前も知らない親よりも、育ててくれた教官よりも、戦地で苦楽を共にした仲間よりも。

ルーのほうがずっと信用出来た。

そして、依存してた。

私にはルーしかいない。ルー以外に頼れる人がいない。

だから、この行為を受け入れたのかもしれない。


「私の側を離れないで。もっと私を愛でて。もう、虚勢を張って強がるのは嫌だ」

「ミドリ…」


『天は二物を与えず』と言うけれど、私は与えられた。

一つは才能。

もう一つは、育った環境の割に比較的まともな感性。

私はまともだった。

そのせいで苦しい事も沢山あったけど、それのおかげで殺戮マシーンにならずに済んだ。

でも、そのまともな感性を忘れない為に、力をつけて、虚勢を張って心を守ってきた。


その虚勢も、この頃限界だった。

一度死んでしまった事で、自分の強さに関する絶対の自信が揺らいでしまった事。

ルーと出会い、私の苦しさを分かち合ってくれた事。

この二つの影響で、私は虚勢を張り続けられなくなった。


「…分かった」


ルーは、そういった後服を脱ぎ始めた。

私と同じように下着だけになると、もう一度私をベッドに押し倒してくれた。


「私が満足するまで付き合ってね?じゃないと、捨てちゃうよ」

「うん。捨てられないように頑張るよ」


二人の唇が重なった後、ベッドが軋む音がした。

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