ある竜の語り


「……ご主人様、こんな夜更けになにか御用でしょうか。寝付けないから物語を聞かせてほしい、ですか。……そうではないかと思っておりました。私、貴方様のことなら何でも存じておりますので」

「……どうして? どうして……あ……なたは、……なんだって、しっているのに……にんげんは、ずっと……おろかなまま……いきてる?」

「……今夜は寓話を話して差し上げましょう。話、と言うほどのものではございませんが……ご主人様には必要な話でしょうから」

「……ひ、つよう……? ……でも、あのひとは……」

「昔々、このグレイスユークリティ大陸の丁度この辺りにはある国がございました。そこは魔法の発展した国でした。ですが、どれだけ国が発展しても魔導士というのは一握り。そこで人々は考えたのです、魔力の少ない者にも扱える力はないか、と」

「……ぼくには、なんにもない。……だから……や、……やくたたず、なんだ……みんなみたいに……おんなじ……なにか、……できた、ら……」

「おや、ご主人様もその考えに賛同なさるのですね。……ですが、作り出した力というのは歪なものでございます。心に刻んでおいてください」

「……どうして? おろか、だから……ちからを、つ……くった……? ちからを……つくった、から……おろか?」

「……その国の人々は魔法の代用品を探し始めました。後から考えれば、その国の運命は既に動き出していたのでしょう」

「か、わり……そんなの、ないよ……。おしえて、ぼくは……どこへいけばいいの?」

「……その名前を教えてほしい? 話というのはそう急かすものではありませんよ。……ですが、貴方様の瞼が閉じてしまう前に教えて差し上げましょう」


「……クルーヴァディア」


「それはこんな名前でした」

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