???1 Noise

「……姉さん、ごめん」

大木に寄りかかるようにして、少年は石のついた腕輪に話しかけた。

『どうしたの、テーム』

はっきりした女の声が、テームと呼ばれた少年に答える。尤も姿を見ることは叶わない。実際、彼らもどういう理屈で遠隔地から石を通して会話ができるのかはわからないのだけれど。

「マザーからの任務は終わったんだ。でも……」

ちらりと足首に目をやる。先ほど矢を受けた場所がじんじんと痛む。明かり一つない暗がりで随分と正確に矢を使えたものだ。

『それはよかったじゃない。……よかった、と言うのもおかしいけれど』

「そうじゃなくて……肝心の対象に逃げられたんだ」

『……』

石越しにも彼女が黙りこんでしまったのがわかる。腕輪がやけに重く感じられた。

『わかったわ。それに関しては総帥の指示を待ちましょう』

「うん……」

姉の声はいつも通りの冷静さを取り戻していた。

『気にしないで、テーム。あなたが叱られるようなことにはならないわ』

「でも……実はそのあと対象を追ってしまって……」

黙っていようと思ったのに、どうしても実の姉に隠し事はできない。

『でも顔は見られていないのでしょう?』

「うん。少し怪我をしただけ」

『それならきっと大丈夫よ。もしなにかあっても、その罪は私が被るから』

姉の声は必要以上に明るく感じられる。こういうときの姉は小さく手を震わせているはずなのだ。

「……姉さん」

『いいの。私はあなたの姉さんなんだから。なにも心配しなくていいのよ。さあ、早く帰っていらっしゃい』

「うん。ありがとう、姉さん」

石を撫でるようにして、彼は会話を終わらせた。

暁の空がゆっくりと濃紺を飲み込んでいた。

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