深愛2~The Only Wish~2
桜蓮
◆旅行③◆
「……親父、頼む」
「うん?」
俺と綾さんのやり取りを楽しそうに眺めていた親父が俺に視線を向ける。
「あんたの嫁をこの部屋から連れ出してくれ」
……もう、無理だ……
綾さんの相手をしていると本当に疲れる。
「ちょっと、蓮!!ズルいわよ!!なんで、響さんに頼むのよ!?」
「……」
……そんなの決まってんじゃねぇーか。
綾さんの唯一の弱点は、旦那である“親父”だ。
いつも、女王のような綾さん。
そんな綾さんを可愛くて堪らないって表情で見つめる親父。
綾さんの“お願い”なら、なんでも聞くんじゃねぇーの?ってくらい親父が綾さんにベタ惚れしている。
でも、そんな綾さんも親父の言葉に逆らったり、反抗したりした事は俺が知る限り一度もない。
女王綾さんも親父の前では、従順な嫁だったりする。
俺の言葉なんて一切無視の綾さんを黙らせるには親父が必要不可欠。
「最低!!」
口を尖らせて俺に猛抗議中の綾さん。
……もう、最低でもなんでもいい。
とりあえず、美桜と2人になりたい。
俺は溜め息を吐きながら、親父に視線を向けた。
俺に見つめられた親父は、困ったような表情を浮かべた。
だけど、俺は気付いた。
困ったような表情を浮かべながらも、目を楽しそうに輝かせている事に……。
……完全に楽しんでんな……。
再び、俺の口から溜め息が漏れた。
それを、見ていた親父がゆっくりと腰を上げ立ち上がった。
「綾、先にプールに戻ろう」
親父のその言葉に、俺は胸をなで下ろし、綾さんは不服そうに溜め息を吐いた。
この勝負は、俺の作戦勝ち。
渋々、俺の横を通り過ぎ、親父の元へ行こうとした綾さんが、
俺の横でピタリと足を止めた。
……?
なんだ?
まだ、言いたい事があんのか?
無意識のうちに身構えながら綾さんを見つめていると……。
綾さんは俺に視線を向ける事もなく後ろを振り返った。
綾さんの視線の先にいるのは、ニコニコと笑みを浮べている美桜の姿。
……?
「……美桜ちゃん」
ゆっくりと数歩足を進めた綾さんは、ソファに座っている美桜の前で足を止め、その場にしゃがみ込むと、膝の上にあった美桜の両手を包み込むように握った。
「はい?」
「先にプールに行ってるからすぐに降りて来てね。」
……それは、綾さんの作戦だった……。
親父を味方に付けた俺への逆襲か?
綾さんは、美桜を味方に付けようとしているのは一目瞭然。
……綾さんは、知っている。
俺が美桜の意見に反対出来ない事を……。
俺が美桜の“お願い”を拒否出来ない事を……。
俺が美桜にベタ惚れだという事を……。
……そして……。
親父も、美桜に弱い事を……。
それは、綾さんも例外じゃねぇーけど。
当の本人である美桜は、まだ全く気付いてねぇーけど……。
俺達にとって、美桜はそういう存在。
「はい、分かりました」
綾さんの顔を見つめ返しながら、美桜がニッコリと微笑んだ。
美桜の笑顔を見て、綾さんは満足そうな笑みを浮かべ
俺は大きな溜息を吐いて
親父は、やっぱり楽しそうに笑っている。
この状況を全く理解出来ていないらしい美桜だけが無邪気な笑みを浮かべている。
……その笑顔が……。
美桜が創り出す雰囲気が場の空気を和ませる。
美桜は気付いていないけど……。
俺や親父が持っているヤクザ特有の雰囲気。
意識してそういう雰囲気をだしているわけじゃない。
だけど、無意識のうちにそういう雰囲気を纏っている事は自分でも分かっている。
こういう世界にいる時間が長ければ長いほど、それは身体に染み付いてしまう。
それは、綾さんも同じ。
女と言えども親父と結婚して、この世界に身を置いたからにはそれは仕方が無いのかもしれない。
そんな俺達の独特の雰囲気を、美桜は柔らかいモノに変えてくれる。上手くは言えねぇーけど……。
その場に美桜がいるだけで、和やかな雰囲気が溢れる。
その無邪気な笑顔が……。
時折、出現する“天然”な行動が……。
誰に対しても誠実に向かい合おうとする態度が……。
場の雰囲気を変えてくれる。
……美桜と付き合い始めて俺が『変わった。』って言われるのはきっとこの事。
俺が纏う雰囲気を美桜が変えてくれているんだと思う。
……美桜の存在に俺は救われている……。
そんな美桜と一緒にいられる事は、とても幸せな事。
お世辞にも、綺麗とは言えないこの世界で、人の傲慢さや汚さをイヤって程見て人間が大嫌いになりかけていた俺は、美桜と出逢えた事で、人を愛することが出来るようになった事を自分でも実感する。美桜と一緒にいるとありのままの自分でいる事が出来る。
身構える事無く、和やかな心でいられる。
そんな美桜とずっと一緒にいたいと思う。
その反面……
美桜にはこの世界には染まらないで欲しいと思う。
美桜が高校を卒業したら、すぐにでも籍を入れるつもりだ。
出来る事なら、今すぐにでもそうしたい。
それを、俺の独占欲の表れだと言われれば否定は出来ねぇ。
“結婚”で美桜を俺の元に縛り付けたい気持ちがないと言えばそれは嘘になる。
この漠然と感じる不安が解消出来るなら……。
そう望む反面、美桜にはこの世界に染まらないで欲しいと願う自分がいる。
それは、無理な願いなのかもしれない。
俺は、長男で組の跡目を継ぐ事は男として生まれた時から決まっている事。
これは、変える事が出来ない現実。
そんな、俺と結婚するって事は、美桜は嫌でもこの世界に足を踏み入れなければならない。
……今は、まだいい……。
美桜は、まだ学生で未成年だし、俺と一緒に住んでると言っても付き合っているだけ。
だから、組関係の事に関わる必要はない。
たまに、事務所に連れて行っても、親父の配慮で美桜と言葉を交わせるのは限られた奴だけ。
必要最低限の関わりしか持てないようになっている。
だけど、結婚したらそういう訳にはいかない。
俺が組を継げば、美桜は組を支える“姐さん”として生活していかなければならない。
今、綾さんがやっている事を全て引き継がなければならない。
俺が知る限りでもそれはとても大変なこと。
……きっと、美桜にとって大きな負担になる。
俺の一方的な気持ちだけで、美桜にそんな負担を掛けていいのだろうか?
『結婚しよう。』
俺の言葉に、美桜は涙を流しながら嬉しそうに頷いた。
あの時の嬉しさを俺は今でもはっきりと覚えている。
あの時感じた達成感と満足感と責任感は一生忘れる事が出来ない。
……なぁ、美桜。
お前は、俺と一緒にいて幸せなのか?
この世界に引きずり込もうとしている俺をどう思う?
この世界に足を踏み入れてお前は後悔しねぇーか?
……俺は、お前の悲しそうな顔は見たくねぇ……。
お前を傷付けるモノ全てから守りてぇって思うけど……。
お前を一番傷付けてしまうのは、もしかしたら俺なのかもしれない。
「……さん」
「……」
「……蓮さん」
「……」
「蓮さん?」
「えっ?」
不思議そうに首を傾げる美桜に、俺は現実に引き戻された。
「どうしたの?」
「……いや、別に」
ドアの前に立つ綾さんと親父も不思議そうに俺を見つめている。
「蓮?」
親父がさっきまでとは違い真剣味を帯びた声を出した。
「……なんでもねぇーよ」
俺は、自分の考えを悟らないように2人から視線を逸らした。
この2人は侮れない。
油断すると人が考えている事を読んだりする。
これは、俺自身の問題。
自分の中で答えが見つかるまでは誰にも知られたくない。
視線を逸らした俺の視界の端で親父と綾さんが顔を見合わせているのが分かる。
部屋の中に静かな時間が流れる。
その静けさを破ったのは、綾さんだった。
「どうせ、私達がこの部屋を出た後、美桜ちゃんにエロい事をしようって企んでいたんでしょ?」
……。
……この女は……。
人をエロ魔神みたいに……。
……。
……。
……まぁ、エロかエロじゃねぇーかって言われたら、俺は間違いなくエロに違いねぇーけどな。
……。
……。
……って違うだろ……。
「……分かってんなら、早く出て行けよ。自分が邪魔だって気付いてんだろ?」
「なんですって!?」
一瞬にして、鬼みたいに表情を変えた綾さん。
……しまった……。
つい、売り言葉に買い言葉で……。
折角、部屋を出て行こうとしていた綾さんを引き止めるような事を言ってしまった。
「蓮!!美桜ちゃんにエロい事したらそこの海に沈めるからね!!」
本職なみの脅し文句を吐いた綾さん。
そんな、綾さんの肩を苦笑している親父が宥めるように抱いた。
そして親父はドアを開け先に綾さんを部屋の外に出すと、振り返った。
「美桜さん」
「はい?」
「蓮に嫌な事をされたらすぐに私に言うんだよ」
「えっ?」
「また、“お仕置き”をするから」
親父は、意味ありげな笑みを浮かべた。
そんな親父を見て、美桜はクスクスと笑いを零していた。
◆◆◆◆◆
ようやく、親父と綾さんが出て行った部屋の中。
俺は、ソファに座る美桜の隣に腰を下ろし大きな溜め息を零した。
「蓮さん、疲れたの?」
美桜が俺の顔を覗き込んでくる。
「……少しな」
「子供達とたくさん遊んでたもんね。」
「ガキと遊ぶよりも……」
「……?」
「綾さんの相手をする方が疲れる」
「……そうなの?」
クスクスと笑う美桜。
「あぁ」
……やっぱり美桜の笑顔を見てると癒やされんな。
「それより、お前は大丈夫なのか?」
「うん。心配を掛けちゃってごめんなさい」
「……いや……俺こそ悪かったな」
「……?」
「お前が……具合が悪かったのに気付いてやれなくて……」
「そ……そんな、私が勝手に倒れちゃったんだから蓮さんが謝る必要なんて全然ないよ!!」
美桜が俺の服を掴んだ。
……あの時、美桜の異変に真っ先に気付いたのは俺じゃなかった。
どこからともなく現れた親父が視界の端に映って何気なく視線を動かした俺は、そこで初めて美桜の異変に気付いた。
顔色悪くねぇーか?
そう思った瞬間、崩れ落ちるように倒れ込んだ美桜。
親父が現れなかったら、美桜が倒れるまで俺は気付かなかったに違いない。
あの時、親父は気付いていた。
俺と綾さんの仲裁の為じゃなく、倒れそうな美桜に気付いたから、あの場にいたんだ。
その証拠にあの時、親父は背中に背負っている刺青を隠してなかった。
それまで、プールの中でガキと遊んでいた親父は上着を脱いでいた。もし、俺と綾さんの仲裁の為にプールを出たんなら、親父は間違いなく刺青を隠す為に上着を羽織るはずだ。
親父は、自分の刺青を堂々と人目に曝したりしない。
そこにこの世界以外の人間がいたら尚更だ。
あの時、親父が上着を羽織らないであの場にいた理由。
それは羽織らなかったんじゃなくて、羽織る時間がなかったんだ。
『美桜!!』
崩れ落ちる美桜を間一髪のところで抱き留めた。
俺の腕の中にいる美桜は、ぐったりと瞳を閉じていて、呼び掛けても反応がない。
綾さんもマサトもヤマトも……。
その場にいた全員が息を呑んで、ただ呆然と立ち尽くしていた。
そんな状況の中で親父だけが冷静だった。
「蓮、美桜さんを涼しい部屋に運べ」
「は?」
「多分、熱中症だ。涼しい場所でゆっくり休ませてやれ。綾、俺の上着を持って来てくれ」
「……あっ……はい!!」
親父の言葉で我に返った綾さんが慌てて親父の上着を取りに走った。「マサト、ヤマト、俺達は少しここを離れるから後は頼んだぞ」
「は……はい」
珍しく2人が動揺している。
「お前達が動揺したら子供達が不安になる。こっちは大丈夫だから心配するな」
親父が小さな声でマサトとヤマトに言った。
「分かりました」
そう答えた2人は、いつもと同じように冷静さを取り戻していた。
「蓮、行くぞ」
「あぁ」
俺は、気を失っている美桜を抱き上げた。
俺の一歩前を歩く親父の背中。
久々に見る“不動明王”が鋭い視線を放っている。
俺が物心付いた時から、親父の背中に描いてある絵。
ガキの頃、俺は思っていた。
誰でも男は大人になれば、背中に絵が浮き出てくるんだと……。
背中に刺青を彫っているのは親父だけじゃない。
組の奴はほぼ全員が身体に刺青を彫っている。
一緒に風呂に入る度に、色鮮やかな刺青を眺めながら自分の身体にもいつか絵が浮き出てくるんだと思っていた。
そのくらい、俺にとって刺青は身近で生活の中に溢れているものだった。
それが普通じゃないと気付いたのは、小学生になってからだった。
初めて、ケンの家に泊まりに行った日。
ケンの親父さんと3人で風呂に入った時、俺は違和感を感じた。
ケンの親父さんは大人の男なのに、身体に絵は無かった。
俺は、それが不思議で仕方なかった。
風呂を出た俺は、ケンの部屋で尋ねた。
「……なぁ、ケン」
「ん?」
「なんでお前のお父さんは、身体に絵がないんだ?」
「は?絵?」
ケンは不思議そうに首を傾げた。
ケンは首を傾げてしばらく考え込んだ後、俺を見つめた。
「……絵ってなんだ?」
……は?
何言ってんだ?
ふざけてんのか?
そう思ったけど……。
ケンは、ふざけたりしていない。
むしろ真剣だ。
「……」
『絵ってなんだ?』って聞かれても……。
その頃の俺は“刺青”って言葉を知らなかった。
もし、俺が知っていて『刺青の事だ』と言ったとしても、ケンは理解出来なかったはずだ。
そのくらい俺達は何も知らないガキだった。
「……いや……なんでもない」
ケンに聞いても答えなんて分からない事を悟った俺はこの話は止めようとした。
……だけど……
「おい、蓮!!絵ってなんだよ?」
ケンは想像以上に食らいついてくる。
「……」
「お前の父ちゃんは、身体に絵があるのか?」
瞳を輝かせて俺の形を掴み顔を覗き込んでくる。
「……」
「なぁ、どうなんだよ!?」
「……」
「答えろよ!!」
……。
……ちょっと待ってくれ……。
俺の体を揺するな。
「……悪い……」
「なんだ?」
やっと止まったケンの手。
「……気持ち悪い……」
「は?何が?」
「……お前が揺するから気分が悪くなった……」
「え!?大丈夫か?」
やっと解放された俺の肩。
「……大丈……」
「ちょっと待ってろ!!」
俺の言葉を最後まで聞かずケンは慌てて部屋を出て行った。
……?
しばらくするとケンは大きな足音と共に部屋に戻ってきた。
勢い良く開けられたドア。
その音と振動に驚いた俺の身体はビクッと揺れた。
そこには部屋を出て行った時と同じように焦った顔のケンが立っていた。
「蓮!!」
「な……なに? 」
「これを飲め!!」
いつになく真剣な表情でケンは俺に近付いて来るとグラスを差し出した。
……そのグラスに並々と注がれていたのは“牛乳”だった……。
『気持ち悪い』って言ったのになんで牛乳なんだ?
そんな疑問が浮かんだけど……。
ケンの表情があまりにも真剣だったから
「……ありがとう……」
俺はそのグラスを受け取った。
「おう」
満足そうに笑ったケンが再び俺の正面に腰を降ろした。
「で?」
「は?」
「お前の父ちゃんは身体に絵が描いてあるのか?」
「……お父さんだけじゃなくてみんな身体に絵が描いてある」
「マジ!?」
「うん」
「見てみたいな~」
ケンは興味津々って感じだった。
「……明日」
「えっ?」
「……見に来る?」
「いいのか?」
「いいよ」
「行く!!」
その翌日、ケンは俺の家に泊まりに来た。
その日俺とケンは親父に頼んで自宅の風呂じゃなく、組員専用の風呂に入った。
家に住み込んでる奴や当番で事務所に泊まる組員用の風呂。
銭湯なみに広いその風呂に浸かってケンと俺は“絵”を眺めていた。
「すげぇーな!!」
隣で瞳を輝かせているケンに俺は苦笑した。
身体に描かれた彩り鮮やかな絵は、見れば見るほど俺やケンを興奮させた。
「なぁ、蓮」
「なに?」
「俺も大人になったらあんな風に身体に絵を描きたい!!」
……描きたい?
……あぁ、そうか……。
あの絵は大人になったら自然に浮き上がってくるもんじゃないんだ。ケンのお父さんは大人だけどあの絵は無かった。
……じゃあ、どうやってあの絵は描くんだ?
風呂に入っても消えない絵。
「あっ!!蓮の父ちゃんだ」
嬉しそうなケンの声に俺は浴場の入り口に視線を向けると、そこには親父がいた。
突然の親父の登場に和やかだった雰囲気が一変したのが分かる。
そんな張り詰めた雰囲気を気にする事なく、親父は差し出された洗面器を受け取った。
その洗面器を使い身体を流すとまっすぐに俺とケンの元へやって来た。
親父が湯船に入ると勢いよくお湯が溢れた。
「ケン、今日泊まっていくんだろ?」
「うん!!」
親父の問い掛けにケンは得意気に頷いた。
「夜中に『寂しい~』って泣くなよ?」
「な……泣かないよ!!」
ケンがムキになって答えると親父は喉を鳴らして笑った。
そんな2人のやり取りを見て俺も笑った。
「ねぇ、おじちゃん」
「うん?」
「この絵はどうやって描くの?」
目を輝かせたケンが親父に尋ねた。
「えっ?」
「そう、絵!!」
興奮気味のケンは会話がかみ合っていない事に全く気付いていない。その事に俺は気付いていたけど、そんな事よりも……。
親父がなんて答えるかの方が気になった。
親父達の身体を彩る“絵”に興味があるのは俺も同じ。
大人になったら浮かび上がってこない事を知った俺はそれをどうやって描くのかが気になって仕方がなかった。
そんな時にケンが親父にナイスなタイミングで聞いてくれた。
親父の答えが気になって俺は瞬きをする事さえ忘れていた。
俺とケンを交互に見た親父は困ったような笑みを浮かべた。
「2人ともそんなに興味があるのか?」
「うん!!」
「うん」
俺の声とケンの声が見事に重なり……親父は吹き出した。
早く答えが知りたい俺とケンは、親父が楽しそうに笑っても全く気にせず親父を見つめていた。
一頻り笑った親父は、俺とケンの頭の上に手を載せた。
「教えてやりたいのは山々だが、お前達には早過ぎる」
「じゃあ、いつになったら教えてくれるの?」
「そうだな……」
俺達から宙に視線を向けた親父は何かを考えているようで……。
「……」
「……」
「お前達が自分の事に責任を持てるようになったら教えてやる」
親父はそう言って優しい笑みを浮かべた。
結局、親父の提示した条件を満たす前に俺とケンは“刺青”という言葉とそれを身体に描く方法を知った。
中坊になると俺達の周りにはそういう情報が溢れていて自然と耳に入ってきた。
高校生になり周りからのチームへの勧誘を全て断り自分達でチームを創った俺とケンは迷う事無く背中に刺青を彫った。
ケンは“風神、雷神”。
俺は“龍”。
想像以上の痛みがあったものの完成した背中を見た俺達は一瞬でその痛みを忘れた。
ガキの頃から憧れていた“絵”が自分の身体にある。
それが無性に嬉しかった。
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