幕間 逃亡者
チャリング・クロス駅発ドーバー行きの列車内――。
二人の男が向かい合わせに座り、発車を待っていた。
一人は小ぶりの丸い眼鏡をかけた壮年の男で、
「随分と浮かない顔をしているじゃないか、ヘンリー」
壮年の男は目を細めながら言った。
ヘンリーと呼ばれた青年は固く結んでいた口を開き、背筋をピンと伸ばした。
「いえ、エヴァンズ教授とスチュアートにはとても感謝しています。ただ……」
「ただ、何だね?」
ヘンリーは首を横に振り、「何でもありません」と答えた。
「まあ、無理もないさ。親と子、血の繋がりがあればこその悩みだろう」
そう言ってから、壮年の男――エヴァンズは不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「そう、血の繋がりだ」
含みを持たせたような笑いを浮かべるエヴァンズを見て、ヘンリーはごくりと唾をのんだ。
エヴァンズは立ち上がり、ヘンリーの肩を叩く。
「君にはもうひと仕事してもらうよ。ヘンリー」
ヘンリーは無言のまま小さく頷いた。
それからまもなく、列車は辺りに大量の煙をまき散らし、轟音とともに駅を発車した。
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