4-2 新たな依頼人
約一時間後、
「マイヤー、久し振りだな。大学はどうした?」
「ご無沙汰しています、ホワード警部。今はクリスマス休暇ですので。一月からは補講を予定していますが」
「相変わらず真面目な野郎だ」
そう言ってから、ホワードは店主の方を見る。
「ギルバート・ホワードだ。早速だが、洗いざらい話してもらいたい」
「かしこまりました。どうぞ、おかけください」
店主は商談用に置かれたテーブルと椅子を案内した。
店主の隣にエドワード、向かいにホワードとケリーがそれぞれ座った。店主の話を聞きながらケリーが手帳にメモを取るのに対し、ホワードはやや前のめりになり、店主の顔を睨むように見つめていた。その迫力に押されたのか、店主は途中小声になりながらも事の次第を話し始めた。
「今朝、店の鍵を開けようとしたところ、鍵が開いておりました。不審に思い、店内を確認すると、他は何も盗まれたり、荒らされた形跡はなかったのですが、レッド・ダイヤモンドの入った金庫がこじ開けられ、中身がすっかりなくなっていたのです。代わりに、金庫の置いてあるすぐ近くの床に穴が掘られたような跡がありました」
「なるほど、犯人は地下の穴を通って、レッド・ダイヤモンドを盗み出したってわけか。これは計画的犯行と見て間違いない」
ホワードがそう話す横で、ケリーは自身のとったメモを見ながら唸っていた。
「穴を掘るのは相当な労力だと思いますがね。どこまで続いているのかを突き止める必要がありそうです」
「ひとつお伺いしても宜しいでしょうか?」
エドワードの問いに対し、店主が「どうぞ」と答える。
「レッド・ダイヤモンドの仕入れに関して、王室と何か関係があるのでしょうか?」
「……と、おっしゃいますと?」
店主の目が泳いだのを確認し、エドワードは話を進めた。
「我が家にも王室から舞踏会の招待状が届きまして、赤いものを身に付けるようにと。あなたの店でレッド・ダイヤモンドの販売が決まったタイミングと、王室からの招待状――果たして偶然なのでしょうか? レッド・ダイヤモンドが大変希少なものであることは、先程あなた自身もおっしゃっていましたよね?」
店主はすっかり無言になった。
ホワードが咳ばらいをし、どかっと音を立てて立ち上がった。
「いずれにせよ、現場を改めないことには何もつかめん。ケリー、穴の起点を捜索するぞ」
「は、はい! ただ今!」
ケリーも慌てて立ち上がる。
ホワードは去り際に、エドワードの方へ顔を向けた。
「今回の連絡には感謝している。あとはヤードの方で処理をする」
エドワードは、ホワードの態度に疑問を感じながらも、「分かりました」と一言返し、店を後にした。
その日の夜、エドワードは風呂の中で宝石店での出来事を振り返っていた。
「なぜ、店主は無言になったのだろう。余程都合が悪いことだったのだろうか。ホワード警部は、僕をあの場から追い出したかったということか? いつもの警部なら、『どうなんだ? 何とか言ってみろ!』とか、問い詰めていそうなものなのに……」
店主とホワードの態度に妙な引っ掛かりを覚えた彼は、頭の中で堂々巡りをしていた。そのうち彼は、温かい湯の温度で気持ち良さそうにまどろんでいた。
「……ワード様! エドワード様!」
扉の向こうから聞こえる執事の声で飛び起きた彼は、危うく湯を飲みそうになった。エドワードが返事をする間もなく、執事が言葉を続ける。
「お客様がお見えになっております!」
「来客⁉ この時間に?」
エドワードは瞠目した。
「はい、ジェームズ様にお取次ぎをしたのですが、エドワード様にお会いしたいと――ソールズベリー侯爵と、
エドワードは早急に身支度を整え、ジェームズたちのいる応接間へと向かった。彼が部屋へ入るなり、口元に黒い
「夜分遅くに申し訳ない。貴公に頼みがあり、立ち寄った次第だ。まずはこちらを受け取ってもらいたい」
男性は胸元から封書を取り出し、エドワードの前に差し出した。
「……王室の封印」
エドワードは緊張した面持ちで受け取り、封筒を裏返した。「エドワード・マイヤー殿」と大きく書かれている。
「この場で目を通してもらいたい」
男性に言われるがまま中身に目を通すと、先日ジェームズに届けられたものと同じ内容が書かれていた。
「ソールズベリー侯、舞踏会の招待状をわざわざ僕に?」
「無論、女王陛下自らが指名された。必ず出席せよ」
ソールズベリーは元いた席へ座り、テーブルに置かれたティーカップを手に持った。
「早速だが、本題に移らせてもらおう」
ホワードの声で我に返ったエドワードは、ジェームズの隣に腰を下ろした。
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