雪山サバイバル十二日目(前半)
昨晩、竜の足音を聞いたのが悪かったのか、悪夢でうなされて目が覚めた。背中にじっとり汗をかいている。
ゆみちゃんと、クロはまだ眠っているようだ。
火の消えてしまったストーブに、再び火を入れながら考える。
今後の身の振り方についてだ。
あんな化け物に怯えながら暮らすのはごめんだ。しかしこの家を出て、アテがあるのかと言われたら、何もない。
装備を持って、よしんば下山が出来たとしても、麓に何が待っているのかも分からないのだ。
温泉に食料もあり、暖房器具もあるこのログハウスを見つけたのは僥倖と言うほかない。
「この環境は捨てたくないなぁ」
思わず呟いた。
ならばどうすればいい、あの竜に怯えずに暮らせる方法は。
一つの方法としては狩る事だ、どうにかして奴を仕留めることができれば……。
(うーん、機関銃か迫撃砲でも無いと倒せる気がしないが)
何にしろ、今日は奴の痕跡を追ってみよう。
どういう生態をしているのか、なるべく情報を集める。そうすれば、戦う方法も逃げる方法も、共存する方法すら見つかるかもしれない。
人間を食べるとは限らないしな、プランクトンとか食べる優しい生き物かもしれないし。
……あの牙を見る限りそれは望み薄だろうな。
そんな事を考えていると、ゆみちゃんが起きてきた。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
心なしか、元気が無いように見える。声の大きさも三割減だ。昨日の足音に不安を抱いているのだろう。
「コーヒー淹れますねー」
「あぁ、ありがとう」
美味しいコーヒーを飲みながら、話を切り出した。
「これからの事なんだけど」
「はっ、はい」
どきりとした様子で返事をする。
「俺としては、このログハウスを拠点にしばらく生活したいと考えてるんだ」
彼女はこくりと頷く。
「食料も、燃料もしばらくはここにあるもので生活できそうだしね。そこで問題なのが」
「昨日の恐竜……」
「なんだよね」
「そこで今日は、あの竜の痕跡を辿って見ようと思う」
彼女の肩が、びくりと震えた。
「危ないですよ!」
「いや、ゆみちゃんには留守番して欲しいんだ。見つからないように、こっそり追いかけてみるつもりだから」
「一人って、もっと危ないですよ!」
「いや、危ない事はしないつもりだよ。あれが危険な生き物なのかどうか、知りたいだけだから」
しばらくの沈黙、何か考えているようだ。
「うーん……わかりました」
わかってくれたようだ、祈るように言葉を続ける。
「でも本当に気をつけて下さいね、お兄さんが居なくなったら私は……」
もごもごと言い淀んでしまった。
「うん、危ないと思ったら、すぐ逃げるから大丈夫。クロは一緒にお留守番頼めるかな」
そう言ってクロの方を見るが、どうやらまだ夢の中のようだ。お腹を見せて転がっている、野生の血はどうした。
さあ、方針は決まった、後は動き出すだけだ。
……
ざくりざくりと、雪にアイゼンを食い込ませて歩いてゆく。
幸いにも、家の近くにまで巨大な足跡が残っていた。雪が降らなかったため、消えなかったようだ。
20分ほど歩いただろうか。
クレーターのような地形を発見する。半径8mほどが円状に盛り上がっており、内部がすり鉢状に凹んでいる。
すり鉢状のその内部には、雪がない。
(周りは岩場にも関わらず、この中は小さな石が多いな)
また、地面に触れると仄かに温かい。
温泉とも関係あるのだろうか、湯はないが、この温かさは異常だ。
どういう理由かは知らないが、天然の床暖房でもあるんだろう。
その中央部付近には、いくつかの骨と、哺乳動物のものであろう毛が散乱している。そして、中には人骨と思しき骨まで散見される。
推測ではあるが、ここはあの竜の巣では無いだろうか。
また、ここが巣であると仮定すると、ログハウスまでこの距離では、いつ襲撃されてもおかしくない。
そして、その食性も推して知るべしだ。
「最悪な調査結果になったな」
竜の歩行速度はわからないが、遅くとも数分で我々のキャンプまで来ることが出来るだろう。
全く、頭が痛い。
長居をして奴と出くわしても困るので、一度帰還する事にした。
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