第22話 二十二日目(前半)
ガタガタガタッ!!
「おいっ!起きろ!!」
田中さんの怒号で飛び起きた。
まだ外は薄暗い、どうやら何か良くない事が起こったらしい。
ザックザックザック!
カンカンカンカンッ!
外から沢山の足音と、木のようなモノを叩き鳴らす音が響いている。彼らなりの儀式だろうか?
「●○◇□…!!」
聞き覚えのある声だ、あまり聞きたくない声でもある。
ドンドンッダンッ!
玄関を叩く音がする、ノックというより、もっと荒々しいまるで鈍器で打ち付けるような音だ。
おそらく棍棒のようなもので玄関を叩いているんだろう、マナーを知らない奴らだ。
「小鬼どもが来やがった!」
すでに玄関や窓に鍵がかけられ、籠城の体制に入っていた。
玄関のドアの前には椅子とテーブルを積んで、バリケードにしている。
しかし木製のドアでは、やつらの侵攻をいつまで止められるかは分からない。
「窓から入って来るんじゃ!?」
慌てて、叫んだ。
近くの楓くんは、怯えた様子で小さくなっている。
「うちの小屋の窓は頑丈だから大丈夫だ!」
根拠の無い返事が返ってきた、でも田中さんが言うと不思議な説得力がある!
しかし本当に頑丈なんだろう、ガラス製では無いのだろうか?窓も叩かれていたが、割れてはいないようだった。
ドンッ!
ドアが大きく揺れて、ドアノブが取れて外れてしまった。これでは鍵は役目を果たさないだろう。
もはや奴らの蛮行を抑えているのは、木製のドアに立てかけられたバリケードだけだ。
それも長くは持たないだろう。
「兄ちゃん、楓を連れて逃げろ!兄ちゃんの部屋の窓から裏の林に逃げられるはずだ。」
田中さんがバリケードの机を抑えながら言った。
「田中さんは!?」
「後から行く!奴らに気付かれる前に早く逃げろっ!」
「わかりました、行こう!」
楓くんの手を取って走る。
窓の外には、まだ奴らはいないようだった。窓を開けて、槍とリュックを投げ捨てる、その後自分たちも飛び出した。
ドサッドサッ
「○●△□…!!」
リュックを背負っていると、こちらに気づいた小鬼が一人突進して来た。体は小柄だが、ぞっとする緑の顔に毛むくじゃらの身体、手に持った棍棒のような物を振りかざしている。
あんなもので殴られればタダでは済まないだろう!
俺は急いで槍の鞘を抜き捨て、抜き身を突き出す。
「させるっかあっ!」
ずぷり、と肩口に突き刺さった。
肉を掻き分け、骨にあたる感触が手に伝わってくる。
「ギャアア!!」
苦悶の表情を浮かべ、その場にうずくまる小鬼。
「お兄さん、向こうからまた来る!」
焦った楓くんが叫ぶ。
グッ
槍先を身体から引き抜こうとするが、引っかかって抜けない!
ドタドタと遠くから聞こえてくる足音は一人分のものではない。
もたもたしていると、仲間が来てしまう。
槍を抜くのを諦めて、楓くんの手を取り、林の奥に走り出した。
草木を掻き分け、獣道すらない茂みを走る。
トゲのある植物を引っ掛けたのか、袖口が少し破れて、切り傷を負ってしまった。
「はぁっはぁっ……」
体力が持たない、体勢を立て直すために立ち止まる。家の裏手の林は斜面が多く、歩きづらい。どうやら小山になっているようだ。
「ぜーはーぜーはー」
楓くんも、肩で息をしている。
荷物を満載したリュックを背負っての全力疾走は想像以上に体力を消耗するようだ。
「●○●△□!!」
二匹、いや三匹が追い付いて来た。
それぞれが木製の武器のようなものを持っている。
「くそっ」
自らのリュックを振り回して投げつける、先頭の小鬼に当たって体勢が崩れた。
その隙に再び駆け出す、リュックの物資が惜しいが仕方ない。
「●△□●△□ガァァーッ!!」
ヒュンッ
小鬼が持っていた棍棒を投げつけて来たが、幸い狙いは甘く近くの木にぶつかった。
「あっ!」
直撃は免れたのが、驚いた楓くんが足を滑らせた。そのままバランスを失った彼は斜面を滑落してしまった!
ザザザッー!ガラガラガラ!
音を立てて、ものすごい勢いで転がりながら斜面を滑り落ちていく。
「楓くんっ!……っおぁ!」
追いかけて助けようとした時、俺も足を滑らせる。なんとか踏ん張ろうとするが、無駄だった。
次の瞬間、天と地が逆転して、恐ろしい轟音とともに奈落の底へ滑り落ちてしまった。
ガガガガガガッッガ!
受け身なんて取れるようなものではない。
ひとしきり回ったところで、頭を何かに打ち付けてしまったらしく、目の前が真っ暗になってしまった。
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